詠唱禍歌

1.

遊びじゃないもん全部

でも幻

星降る夜があったけど

桜吹雪が舞ったけど

全部本気の幻

シャンデリアが揺れた日も

カスピ海が凪いだ日も

朝目が覚めたのも


2.

赤い山が一斉に散った。

私は貴方のことを必死で思い出そうとしていた。

顔もぼやけて輪郭も定かで無い記憶をなんとか辿ると、真夏の匂いがした。

途方もない量の懐かしさに意識が混濁し始めて地面に伏せると、目の前が暗転し、体を草原が飲み込んでゆく感覚だけが残った。

3.

カリスマギャル ここに眠れる タイムライン 虹色に彩られ

カラーの花束  チューリップ ガーベラ ヒアシンス

ポリゴンつまみ食い 美味しくないよ でも良いよ

みんなでいこう喜びの国 喜びの国

全部私が食べるからね

最後の一口


4.

点が病気

更紗模様の幻獣に

お知らせ下さいませ

早急に阿礼が必要なのです

わたくしのあるうちに

あの人のあるうちに

ガブリエルの空色を吹いて下さいませ

学校の裏から

微暗いあそこからお恨み申し上げます

見つからないうちに

昼が溶ける前に

影法師が言い付けないうちに

お恨み申し上げます


5.

私が行おうとしている現象の全てをお見せしましょう

赤い花の咲く頃も もうじきでしょう

それは大きな帆船を浮かべた星空の上でも

海洋生物が吐き出した毒を潮溜まりが満たす時にも

白鷺飛んで波紋 凪 風 怨 繰り返す水の上にも

炎揺らめく黒い布の上にも

森の霧雨にも竹の木漏れ日にも

追いかけることも逃げることもなくなった今でも残る鼓動を融解する力を以て

一握りだけの米粒を冒涜し崇拝して飛翔して征くのです

聞き飽きたフレーズと何万回も見た身振り手振りに別れを

愛おしく思えるほどに 大切に 別れを


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