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本を書いています。

Vol.7 「痕跡」の面白さについて

日々新しい「デザインことわざ」を考えるかたわら、執筆中の書籍についても、編集者と相談しながら少しずつ進行しています。いま、完成原稿に向けて最終調整をしているところです。今までは「面白いとは何か(仮)」というタイトルにしようかな、と思っていましたが、ちょっと変えようかと思っています。内容的には「とは」からもう少し踏み込んで「面白い表現を生みだすための心構えと、その実践的な方法」という方が主なので、『「面白い」のつくり方(仮)』という風にしようかと思っています。これについては、まだ(仮)ですが。

本の中では、色々な「面白さ」の方向性について、体系的に分類しています。「面白さ」は無限にあるので、完全に網羅することは不可能ですが、どういった傾向の面白さなのかということを判断しやすいように、俯瞰で見るための簡単なマッピングなども用意しています。

今回はその中でも「共感」「趣がある」という方向性に属すると思われる「痕跡」の面白さについてです。

今回トップの画像に選んだ写真は、先月訪れたカメラマンの石川直樹さんの個展「この星の光の地図を写す」で展示されていた写真の中の一枚です(個展は一部を除き撮影可でした)。石川直樹さんの写真は、特に山の写真が好きで、前から写真集も何冊か持っていました。今回の個展は規模も大きく、今まで石川さんが世界中を撮り続けてきた旅の集大成のような展覧会で、大変見ごたえがありました。

後から調べたところ、この写真のある場所は、アルゼンチンの「クエバ・デ・ラス・マノス」という洞窟らしく、壁面に無数の手形が残されています。手形にはネガのものとポジのものがあり、ネガの手形は大体紀元前550年頃、ポジの手形は紀元前180年以降と推測されているそうです(Wikipediaより)。

今回の石川さんの個展では、どの写真も印象的だったのですが、個人的にはこの遺跡の写真が何とも衝撃的でした。かなり大判のプリントだったので迫力もあったのですが、何千年も前の人間の手の形がクッキリと生々しく残されている様子に、単純に「うわ、面白いなぁ」と思ったのです。

このネガの手形は、「壁に手を置いて塗料となるものを吹きつける」という技法で描かれています。はるか昔の名もなき誰かが、最初にたまたまこの方法を発見して「うわ、面白いなぁ」と思ったんじゃないかと想像すると、何だか古代の人々が急に身近に感じられるから不思議です。極めて人間的な感覚を、時代を超えて「共感」できた気がするのです。

人は「誰かが意識的に手を加えたもの」を見ると、「共感」を感じて「面白い!」と思うものなんだと思います。これは、赤瀬川原平さんが提唱した「超芸術トマソン」に感じるものと似ています。「無為自然」の対義語としての「人為=アート」として、そこに何らかの残留思念のようなものが感じられるのでしょう。

たまたまですが、石川さんの個展を見たのと同じ時期に、東京でも少しだけ雪が降りました。そのとき、うちの息子が小さな雪だるまを作ったのですが、その痕跡もまた面白いものでした。

一番左の写真が、最初の状態です。鼻は人参ではなくゴボウですが、何ともかわいらしいサイズの雪だるまでした。翌日の朝、無残にも頭の球が後方にゴロンと倒れていたのですが、コップの帽子はくっついたままで、上から見ると何とか雪だるまの形状を保っているように見えたのです(実際にはここで目鼻の位置だけは少し調整したことを白状しておきます)。

そしてさらに2日が過ぎた後、右の写真のような状態になっていたのです。庭の雪で作ったので、中に芝生や落ち葉が大量に混入していたのでしょう。最終的には雪だるまではなく「草だるま」が出来上がっていました。ここにもまた、痕跡の面白さがあります。さてこれは、人為によるものなのでしょうか。自然によるものなのでしょうか。

このように、偶然にせよそうでないにせよ、身の周りには、たくさんの「面白さ」が潜んでいます。そういった小さな面白いことに気づけるかどうか、ということが、自分が面白いものを表現するための大事な入り口になるのです。『「面白い」のつくり方(仮)』では、そのための心構えから表現の方法についてまでのステップについても、詳しく書いています。現状では、刊行は6月末頃になる予定です。乞うご期待!

「面白い」のつくり方(仮)/ 岩下 智 著
CCCメディアハウスより6月末 刊行予定!

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