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本を書いています。

Vol. 6 教えるということについて

本を書いていることで、「教える」ということについても考えることが多くなりました。本というのは、あることについて「私はこう考える」という風に、広く人に教えるためのものでもあるのだと思います。なんだか偉そうですが。

今まで、ありがたいことに人に何かを教える機会が何度かありました。母校の筑波大学で年2回の非常勤講師を8年、会社の社会貢献活動の一環で中国の大学で客員講師を数回、会社では新入社員や若手デザイナーのトレーナーを4回ほど、務めさせてもらいました。そんな中でいつも思うのは、教えることで学ぶことが多いということです。人に何かを教えるときには、自分が普段なにげなくやっている仕事について、改めて考えを体系的にまとめ直して、伝えやすくする必要があります。その過程が、とても勉強になるのです。自分が知っていることを相手にわかりやすく伝えること。これは、自分の専門領域の未来を築くためにも、とても大切なことです。

仕事ができることと、教えるのが上手いということは別物です。選手としては優秀な成績を修めたスポーツ選手でも、監督に向いているかどうかは別なのと同じです。しかしながら、どんな仕事でも、それなりの年齢になったら、誰でもある程度教える側に回るべきなのではないかと、最近よく思うようになりました。年長者がいつまでもプレイヤーとしてのみ頑張ってしまっていては若手も育たないですし、業界も旧態依然としてしまいます。当然、誰でも現役として一線で活躍したいという欲求はあると思いますが、みんながそればかり求めてしまうと、いつまでたっても業界は進歩しません。「生涯現役」というと聞こえはいいですが、社会全体のことを考えると、ちょっと考えものです。

特に日本においては、これから高齢化が進むことを考えると、優秀なプレイヤーを次々と育てることも、世界と戦うためには大事なのではないでしょうか。理想的には、年長者自身もプレイヤーとして活動しながら、何割かは後進の教育にも力を入れる「選手兼監督」のような立ち位置が、良いのではないかと思っています。それは、決して現役を諦めるということではありません。歳をとったら教えながら学ぶのが、みんなにとっていいのではないかということです。なんならもう、全員が選手権監督になってもいいのではないかとすら思っています。

特にデザインのように、高度な知識と技術を伴うようなものについては、「経験の伝承」が大事なのではないかと、私は考えています。

デザインを人に教えるのは、容易ではありません。デザインは常にケース・バイ・ケースであり、ソフトの使い方や方法論を覚えたり、過去の事例を見たりしているだけでは、デザインができるようにはならないからです。結局は、デザインをよく知っている人間が、仕事を通じて得た「経験」を、うまく後進に伝えることが大事なのではないかと考えています。そのための方法について、実はいま2冊目の本の構想を始めています。というか、ちょっと書き始めています。詳しくはまだ言えませんが、うまくいけば、新しいデザイン教育のための、ちょっとした材料になるのではないかと考えています。

広告など本格的なデザイン力が求められるものについては、当然プロフェッショナルとしての高度な知見が必要になりますが、デザイナーでない人でも、普段の企画書の作成などで「もう少しうまくデザインできたらいいのに」と思っている人は多いのではないでしょうか。しかしながら初心者にとって、デザインの入り口となるいい教材がなかなか見つからないのが現状だと思います。すでに出ているデザイン系の書籍を見渡してみると、多くの場合「デザイン系ソフトの使い方」に重きを置いているものか、「過去の有名な事例紹介」に重きを置いているものがほとんどです。それらももちろん役に立つことは間違いないのですが、初心者にとって「デザインって実際どういうものなのか」ということを想像しやすいものになっているかというと、甚だ疑問です。次の本では、そこを埋める新しいものができないか、日々模索している所です。

そんなこんなで、まだ1冊目も出ていないのに2冊目も書き始めてしまっているのですが、こんな未知の体験もまた、面白いのです。

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Photo by Feliphe Schiarolli on Unsplash

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