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現像ノススメ

相も変わらず、写真の話。

日々SIGMAのfpでカラー写真、dp2 Quattroでモノクロ写真を撮影して、遊んでいるだけでなく、最近ではfpを仕事で活用することも多くなってきた。

fpでのカラー写真に関しては、入手して初期の頃はTeal & Orangeの撮って出しで楽しんでいたのだが、やはり写真というのは撮るものによって表現したい色味が異なってくるので、最近では基本、DNGを普段から慣れているPhotoshopで現像するようにしている。

DNGというのは、Adobeが提唱するいわゆる「RAW形式」のひとつで、本当にカメラで撮影した「生」の状態のデータだ。自分も最近になってやっと分かったのだが、カメラで「スタンダード」とされる色味で撮ったものも、実は既に生データからカメラ内のエンジンで色味が補正された状態になっている。この「スタンダード」の絵作りに対する考え方がメーカーによって異なるために、各種カメラの「クセ」のようなものが違っているのであろう。

実は私もfpを使うようになるまでは現像処理するのが億劫で、撮って出しでも十分楽しんではいたのだが、手間を惜しまずにやってみたところ、これが何とも楽しい作業で、なんで今までちゃんとやってなかったんだろうと少し後悔すらしている。

実際、現像でどのくらい変わるかというと、このくらい違うのである。

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もちろん、上がbeforeで下がafterである。

この写真は、後ろの飛行機が飛び立つ瞬間だったので慌てて撮ったものの、実はカメラの設定がISO1600と高感度になり過ぎており、絞り優先でしかも逆光だったので、完全にオーバーになってしまった失敗写真だ。これがjpegだと修正しようとしてもおそらく無理だと思うのだが、DNGであれば結構何でもできてしまう。

とくにSIGMA fpの場合、フルサイズで階調豊かに撮られているため、明るい部分が飛んでしまったように見える写真でもかなり情報が残っており、ググッと引き戻すことができてしまうのだ。

このような補正としての調整もさることながら、現像を行う最大のメリットは「表現」にあると考えている。例をいくつか紹介しよう。

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この写真は、最初の写真の飛行機に乗ったあと、羽田に着陸したときの写真だ。遠くに富士山が見えたので、とっさに撮ったものである(生データそのままの書き出し)。富士山のように遠くに薄っすらと見えるものは、往々にしてなかなか思ったように写ってはくれない。そこで、表現として富士山をしっかり見せたいと思って調整したものが、次の写真だ。

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色味は、今回は好みでやや重厚なトーンにしたのだが、現像の調整だけでここまで富士山をクッキリとさせることが可能だったのには、正直驚いた。自分もこの辺りは試行錯誤しながらやってみるのだが、この場合はコントラストや背景の輝度調整で、かなり際だたせることができた。

次の例は、先週末に撮影した雛人形の写真。実際の色にかなり演出を入れてしまってはいるが、桃の節句らしいピンクがかったトーンと、大和絵のような淡い色彩をイメージして調整してみたものだ。

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実際の屏風は金色なのだが、敢えて全体に色をかぶせ気味にすることで、自分が表現したい色味に調整している。全体的に影の重たさを排除して、明るく軽やかな雰囲気を目指してみた。また、普段はシャープネスやコントラストをやや上げ気味にする事が多いのだが、今回は写真の雰囲気に合わせて、ソフトフォーカス気味にしている。そんな調整も、「かすみの除去」の調整などでできてしまうのは、なかなか面白い作業だ。

次の写真は、先日たまたま通りがかった新国立競技場の写真だ。よく晴れた冬の日のキリッとした空気感を表現したくて、全体にハイキーかつシャープな絵作りを目指している。

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明部だけでなく暗部もしっかり起こしてしまうことで、影の重たさを排除し、軽快で爽やかな印象になったのではないかと思う。

次の例は、いつも悩ましい料理の写真なのだが、これは特に分かりやすいのではないだろうか。

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人間の眼とは恐ろしいもので、上のような写真でも、単体だと意外と違和感なく見えてしまったりする(生データなのでかなり極端だが)。食べ物の写真は、言わずもがな「おいしそう」というシズル感が絶対的な価値なので、色温度や赤みの度合いを中心に調整し、餃子のカリッとした「記憶色」の再現を目指して、かなり苦戦した結果だ。

…と、このような具合で、いつも結構な調整を施している。人によっては「そんなのズルい!」と思われるかもしれないが、写真というものはそもそも撮影だけで終わるものではなく、レタッチまで含めて「表現」なのだ。これは、カメラマンのポリシーによっても異なるが、フィルムの時代から大きくは変わっていない。

前にも書いたかもしれないが、「Photograph」という言葉が輸入されたときに「写真(=真を写す)」と訳したのがそもそもの間違いで、原義としては「Photo=光」「graph=絵」なので「光画(=光の絵)」とでも訳したほうが良かったのではないか、という話がある(ホンマタカシさんの「楽しい写真」参照)。

つまり、写真とは現実をそのまま写すだけのものではなく、光(陰影、色など)を駆使して「描く」ものなのだ。

この傾向は、日本よりも海外の写真愛好家の作品を見ると、顕著である。演出までも含めてかなり「描いている」ものが多いと感じられる。

考えてもみれば、普段の広告などの仕事で使用する写真では、レタッチをしないなんてことは、絶対にありえない。今までプロのカメラマンやレタッチャーの横で魔法のような仕事を目の当たりにしてきたことが、ここで大きく生きているような気がする。

この現像作業はどうしても面倒に感じてしまうものなのだが、ここまで結果が変わってくるものであることは間違いないし、慣れてしまうと実に楽しい作業なので、写真好きな方には是非オススメしたい面倒くさい作業なのである。



最近noteの更新が滞っているのは、実は2冊目の本を書いているからなのですが、1冊目も引き続きよろしくおねがいします!

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