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#0きっかけ

わたしは風俗嬢。


俗に言う職業ヘイトをモロに受ける職業だろう。

なんなら散々受けてきたし、風俗嬢になる前から想像できていた。


じゃあなぜ、風俗嬢になったのか。



#2で理想のわたしの話をした通り、そんなわたしになりたかったからだ。



でも別の仕事でも叶えられたのでは?

そう思う人も多いだろう。


なぜ風俗嬢になったのか。
ここでは【#1じふんのしたいこと】よりももっと前の話。#0に当たる話です。



学生時代わたしは特に目立つような生徒じゃなかった。


勉強も中


運動も中


取り柄も特になかったと思う。


そんなわたしだったが、当時中学生だったかな男子の目線を感じたことがある。



わたしは当時、胸が周りの友達よりも少し大きかった。



思春期の男子たちが、運動着姿のわたしをコソコソ言いながら見ていた。


もちろん見られていることには気付いていた。


他の胸が大きい友達たちも同じように見られており、それを嫌悪していたのだが。


わたしは少し興奮したのを覚えている。


なぜか。


わたしは昔からドラマや映画で外国人の女性が堂々とドレス姿で歩いている場面や大胆に男性を誘惑している場面に憧れを抱いていた。


【女】を全面的に出して周りを魅了する存在に、わたしもなりたいと。


男子達から見られた事で、当時地味だったわたしが、一瞬そんな存在になれた気がした。


ただこの事を口に出す事はここから数年訪れない。



誰にもこの思いを言う事なく、わたしは高校生になっていた。


わたしはよく言うような高校デビューをする事なく、変わらず目立たない存在だった。


そんなわたしが密かに憧れている人がいた。


それは俗に言うギャルだった。


派手な化粧をして、短いスカートを履き、彼氏を連れ歩く。


少し理想に近い存在だった。


ああなりたいと当時はそう思っていた。


ただ当時のわたしは周りからの目も気にしてた。


いきなりこんな格好して友達からなんて言われるかな。

孤立しちゃうんじゃないかな。


こんな事を考えていたと思う。


自分を変えられないままいると、ある1人と友達になる。 

席替えした時に前の席になった、一個上の男子だった。


なんでも留年して、歳は3年なのに学年は2年らしい。


彼は話も面白く、わたしの話もよく聞いてくれた。


ある日、学校帰りに2人でファストフード店に行った時。


いつも話す感じで少し話してみた。


ギャルのようになりたいこと、自分を変えたいこと。


するも彼は、「いいじゃん!」
と一言。


そのまま服を買いに行った。


当時じゃ考えられない短いスカートやショートパンツ。当時流行っていたトップスやアクセサリーなどを買った。


この時からなのか、もっと前からか。

わたしは、彼のことが好きになっていた。


そんな好きな人に、変わる瞬間を見て欲しくて、わたしは着た姿を見てほしいと伝えた。


彼は「もちろん!」


と言ってくれたが、じゃあどこで?


お互いに家には親がいたし、彼以外にはまだ見せたくないし...と悩んでいると彼が。


「ラブホテルいく?」



わたしは驚いた。


高校生のわたしには刺激が強かった。

だけど嫌じゃなかった。




割とすぐに返事をした。
いや、即答だったか。
あまり覚えていない。




ラブホテルに着くまで心臓が破裂しそうなくらいバクバクだった。


彼は慣れた手つきで受付を済まして、入室した。


目に飛び込んできた大きいベット、すぐ隣にある大きい浴槽のお風呂。


今でも覚えている。


入室後割とすぐに買った服に着替えてみた。


脱衣所で着替えた後、まずは自分を鏡でみる。


まるでシンデレラのような気分だった。


メイクは地味なままだったが、服装はギャルそのものだった。


ただ、彼に見せるのが急に恥ずかしくなってしまった。


わたしが躊躇しているのを察した彼は、扉を開けて入ってきてこう言った。



「めっちゃ可愛いじゃん」




正直その後のことはあまり覚えていない。



覚えているのは、唇に感じた柔らかさ、彼の体温、内臓をえぐられるような痛み。

そしてその後感じた下腹部が痺れるような感覚だけ。


それ以降、彼の前でだけ理想のわたしになれた。


色んなことに奔放な高校生だ。


色々なことをした。



教室、学校のトイレ、公園。



強引ながらも強くリードしてくれる彼にわたしは依存していた。


運命の人だとも思っていた。


いや、思っていただけだった?


彼は思ってくれていたかもしれない。



わたしは自信を持ち始めていた。
彼がいなくても、理想のわたしに少し変われていたんだ。
彼の前でないと着れなかったものが普通に着れている、化粧だってそうだ。


私は変われたんだ。


そう思っていた高校生3年の夏。



過ちをおかしてしまった。



わたしは別のクラスの男子とラブホテルにいた。



彼にしか見せなかった【姿】や【表情】
聞かせたことのない【声】



わたしは全てをその男子に晒した。


行為が終わったあとわたしは後悔した。



その男子が友人にしゃべりその友人が誰かにしゃべりと、どんどん広がり、ついには彼に知られてしまうまでにそう日はかからなかった。


泣いて謝る私を彼は許さなかった。


あんなに運命の人と思っていたはずだったのに。



典型的な女の言い訳パターンってやつだった。



理想の自分になりかけた瞬間に大切な人との関係が壊れてしまった。


こんな事なら、理想の自分になんてなりたくない。


わたしはこう考えた。


彼と別れてからわたしは以前の地味なわたしに戻っていた。



そんな自信を失ってから数年。







わたしは結婚していた。



出会いは詳しくは話せないけど、社会人になった後に仕事先で出会った人とわたしは結ばれた。



実は先に言ってしまうと、わたしが風俗嬢になるきっかけをくれたのが旦那だった。




旦那は初めて会った時から不思議な感じがする人だった。

どこか底が見えないというか本心が全く見えない人だった。

派手ではないんだけど、仕事ができて上司からも気に入られて、ガンガン出世するタイプだ。


そんな不思議な感じに惹かれつつ、どこか派手ではない部分に勝手に共感していた。


仕事終わりによく、食事をいくような関係になったある日、旦那はお酒の勢いでこんな事を言った。


『女性のことを支配したい欲望がある』




ねぇ。とんでもない発言なんだけど。







でも、その言葉を聞いた途端、わたしは心臓が破裂しそうなくらいドキドキしていた。



ふと懐かしくなった。


『あれ?この感じって』


昔のことを思い出した。


高校生の時ギャル服を買って、当時の彼氏に初めてラブホテルで着てみせたあの時と同じ感じだった。



忘れていた数年前の出来事だった。


変わりたいと思っていた時期あったこと。
大好きな彼氏がいたこと。
その彼氏とわたしが原因で別れてしまったこと。


青春のあの頃の感覚が一瞬にして目の前の男性から放たれた一言によって蘇ったのだった。



他人とは思えなかった。



その日、わたしは関係を持った。


今までにはなかった。


物のように扱われて、卑猥な事を言わされて、全てが初体験だった。


多くの人が考えられない心境だろうけど、わたしの心は満たされていった。


支配されたい、従順に従いたい、上手く言えないけどわたしは何かにずっと依存したかったのかもしれない。


そして複数回関係をもったあと、私たちは結婚した。


ただ、普段から旦那はこういう扱いをするわけではない、なんなら優しい人だ。


昔の彼のように聞き上手でなんでも話せる雰囲気の持ち主だ。



そんな旦那と何不自由なく暮らしているある日、わたしは同窓会にいた。


もう、お気づきだろう。


そう再会してしまった。


昔の大好きだった彼と。

わたしが原因で別れてしまった彼と。



最初はお互いぎこちなかったが、すぐに時が解決してしまった。



その日わたしは、忘れていた彼の体温、彼の身体の硬さを思い出した。

そして、あの日は感じた内臓をえぐるような痛みと下腹部に感じた痺れるような感覚は今は無かった。

あの日から数年たった今、その感覚は内臓を押し退けられる度に子宮に電流が走るような快感に変わっていた。


何度も何度も子宮に電流のような快感が襲う中で、わたしはまた過去と同じ過ちを犯した事に気づいた。



またやってしまった。
またやってしまった。



快感に襲われながら後悔した。

また、裏切ってしまった。
また、大切な人が離れていく。
こんなこと止めなきゃ。
やめなきゃ。
やめな。
やめ。
や。


数秒で正常な意識は快感に上書きされた。


その後数時間正常の意識が戻ることはなかった。



帰路に着くわたしのスマホには数件着信が入っていた。


言い逃れはできないだろう。


わたしはかけ直し、一言だけ伝えて電話を切った。


『帰ったらちゃんと話します』



家に着いたわたしは、正直に話した。


今日してしまったこと。

昔彼のことが大好きだったこと。

当時わたしは変わりたいと思っていたこと。


隠さずにすべて話した。


わたしから一方的に話した後、数秒の間を開けて旦那がこういった。


「別にきにしてないよ」



最終的に自分のところに戻ってくれば構わないと旦那は言った。


そして、彼と今後も関係を続けたいのなら、それも構わないと


そう続けて言った。



わたしは、てっきり離婚かと思っていた。
覚悟まで決めてすべて話した。



だけど終わってみたら旦那公認の彼氏ができたのだった。


次の日以降も【あることを除いて】普段と変わらない日常だ。


普段は専業主婦をやって、予定が合えば彼に会いに行く。


こんな事を繰り返しているうちにある事に気づいた。



旦那としていなかった。



最初は考えすぎだと思った。

だけどいくら経ってもそんな雰囲気にはならなかった。

前は週4くらいでしていたものが0になった。


避けられてる?


そんな事を思うと怖くなり、直接聞いてみた。


すると



「今は支配したいという気持ちがない」



そう言われた。


旦那の行為は特殊だ。


行為中だけ、物のようにわたしを扱う。



卑猥なポーズをさせられて、卑猥な言葉を言わされる。


だけど不思議と凄く満たされる。



素人のわたしじゃ文書ではなかなか伝えられない。


従いたいと思えるような心が掴まれるような感覚だ。




彼にはない、そんな行為をわたしは求めていた。




して欲しい。

彼とのこと罵倒しながら責めてほしい。

物のように使い捨てて欲しい。



そんな気持ちになっていたのに。



支配してくれないの?



ショックだった。



そう言う行為が無いこともそうだけど、わたしに魅力がないと言われているようでとてもショックだった。



でもそうなんだよね。


同窓会行って、浮気して。


そんなやつ抱けないよね。



でもさ、わたしは公認彼氏と遊べるけど、貴方は?


償いとして処理だけでもさせて欲しい。



必要とされることならなんでもしたかった。


こんな思いをその場で旦那に話した。



すると旦那は



「風俗に行く事を許して欲しい」




、、、


えっ?風俗?


頭が真っ白になった。


プロで発散するの?



わたしが自分勝手なのはわかってる。


わたしは旦那が他人に触られたりしてほしくなかった。


でもわたしは立場上『わかった』と言うしか無い。


そもそも風俗ってどこまでできるの?


そんなこともわからなかったわたしはその日の夜スマホで風俗について調べた。



するとどうだろうか。



華やかに着飾った魅力的な女性たちの画像が目に入った。




それを見た瞬間、忘れていたわたしの願望を思い出した。


『これだ!』


声が出た。


しばらくして帰宅した旦那にわたしはこう伝えた。




『わたし風俗嬢になります』





旦那は「?」状態だった。



わたしは伝えた。


他人の女にあなたを触らせたくない

風俗嬢になってわたしは変わりたい。

普段のわたしが無理なら、変わった風俗嬢としてのわたしに会いに来てほしい。


まとめもせずに勢いで喋ったわたしに少し驚きながらも、旦那は




「いいよ」



そう一言言ってくれた。



なんなら風俗嬢の妻というマンガのようなシチュエーションが気に入ったみたいだった。





そして更にひとつお願いをした。




「今キスをしてほしい」






旦那は察したように数ヶ月ぶりのキスをしてくれた。



数日後わたしは自宅で緊張しながら電話をした。



『未経験なんですが働けますか?』






今では書きながら懐かしさすら感じる、こんな波瀾万丈の人生だけど。




わたしは2ヶ月に一回思い返す。





わたしの予約表に書かれた見慣れた名前を見るたびに。




指宿真里

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