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どこから時間を捻出するか? 『ISO通信』第90号

ドジャーズへの移籍が決まった大谷翔平選手のロングインタビュー(12月24日のNHKスペシャル)を見逃し配信で観ました。途中で、AIを搭載した最新のピッチングマシンを使用してバッティング技術の向上に努めている様子が紹介されていました。このマシンはメジャーリーグに在籍している850人以上の投手のフォームをスクリーンに写しながら、それぞれの投手がどのようにボールを握っているかまで再現し、同じ球筋のボールを投げることができるそうです。普通の打者はマシンの中の打撃ボックスに立って実際にボールを打つのですが、大谷選手は打席に入らずに投手の映像と球筋を見ていました。そして「後ろや横から見ているのがいちばん感覚的にはよかった」と語っています。

番組の最後の方でマシンの開発者が登場し「このAIマシンを使えばすべての打者が最高の選手になり、野球が偉大なスポーツになるんだ」と語っています。開発者としての思いは理解できますが、すべての打者が最高の選手になったら、同時に全員が標準のレベルになってしまうとも言えます。実際には、新しいマシンを使いこなすことができた選手ほど高いレベルに到達できるはずで、それができるのは大谷選手などのごく一部の選手に限られるのだろうと感じました。マシンと向かい合う時間を捻出することができる選手は、ほんの一握りだろうと想像したからです。これまでに利用していたマシンを最新のAI搭載マシンに取り換えるだけでも効果はあると思います。しかし850人の投球フォームやパターンを頭に入れようと思ったら、膨大な時間が必要になります。食事したり、睡眠したりする時間以外は常に野球のことを考えている選手なら、AIマシンを使う時間をひねり出すと思いますが、遊びや息抜きの時間も大切にしている選手が、その時間を削ってAIマシンと向き合うようになることは簡単ではありません。

と、ここまで書きながら、天に唾しているような気持ちになりました。昨今よく言われる「リスキリング」も同じようなことかもしれません。私も遊びや息抜きの時間を大切にしている普通の社会人です。ビジネスの中でAIを活用する場面がじわじわと増えていると感じますが、遊びの時間を削ってAIについて学んだり、リスキリングに励んだりすることは大変です。スポット的に時間を削って遊びを我慢することはできても、継続的に時間を確保するには覚悟が必要です。
プロ野球選手が最新のマシンを活用して練習することは、リスキリングではなく通常業務の延長線上にある改善活動に近いかもしれません。リスキリングにしても、改善活動にしても、新しい方法やツールが出てきたら「しばらくは〇〇を我慢して取り組もう」と決意する必要があります。(〇〇に当てはまる言葉がさっと頭に思い浮かび、葛藤して悶絶している自分まで想像できてしまいました。)新年の目標は「克己」と「実行」になりそうです。

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