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子どもが極端なダイエットを始めたら、親はどうするべきなのか?ー研究の最先端の現場から

イギリス・バースにて、外見に関する学術会議 (Appearance Matters 8) が6/12より開かれています。

心理学者が主体の学会ですが、公衆衛生から、哲学の専門家、さらにはアーティストから、DOVEといった企業まで幅広い人たちが参加しています。

DOVEは、自分の身体を否定しがちな女性や、多様な人種の人たちが、自分の身体を好きになるための運動をずっと続けている企業です

学会の先陣を切ったスピーカーは、1996年よりアメリカのミネソタ州にて、EATというプロジェクトを続けている、公衆衛生学者のDianne Neumark Sztainer。

EATの目的は、若者がどのような食事をし、どんな生活をし、どのように自分の身体を捉えているのかを、複合的な観点からあきらかにすることです。

すでに世界中で行われている多くの調査で明らかになっていることですが、自分の身体を肯定できないのは、圧倒的に若い女性。そしてこれは当然ながら、自分を好きになれないことにもつながります。

EATが2010年に行った調査でも、実に50%の思春期の女の子が、なんらかの形で、健康リスクのあるダイエットを行なっていたことが判明しました。

これ以外にも、筋肉質になるために、思春期の35%の男の子、21%の女の子がすでにプロテインを飲んでいる、といった興味深い報告が続々と続いたのですが、ここではひとつの報告に焦点を絞りたいと思います。

それはー

「もし自分の子どもが行き過ぎたダイエットを始めたら、親はどうするべきなのか?」

思春期の女の子がいらっしゃる家庭であれば、抱えることもある悩みなのではないでしょうか?

親の問題と、子どもの悩みは別

摂食障害の経験者で子どもを持つかどうかを考えている方から「自分のせいで子どもが摂食障害になったらと思うと、子どもを持つことを躊躇してしまう」という話をたまに聞くときがあるます。

日本は長期にわたり、「娘の摂食障害は、母親の育て方に原因がある」という言説を保持してきた歴史があるので、この悩みは切実でしょう。

加えて、やせていることが、きれいであるための、かわいくあるための大前提になってからすでに40年近くが経過していますから、親自身がやせたくてしかたがない、食べるたびにダイエットのことを考えてしまう、ということもありがちだと思います。

なので、「自分がこうだから、子どもこんな過激なダイエットに走ったのかも?」。そう思うのも無理はないですよね。

この悩みに関してDianneはこう答えます。EATの調査結果からわかったこと。それはー

親がどんな悩みを抱えているか、親が自分の身体を好きかどうかより、親が子どもに対してどんな言葉を使うかが一番大事。親が子どものダイエットについて発する言葉が、子どもにもっとも影響を与える。

とうことでした。

(当たり前だけど)「悩みフリー」でなくていい

EATから見出された結果は、いっけん当たり前のように聞こえますが、私は非常に力強いメッセージであると感じます。

なぜならこの結果は、子どもがすこやかに育つ上で、親が「悩みフリー」でなくてよいことを、はっきり示唆しているからです。

私情ながら私は、大学を卒業するくらいまで、「30を過ぎたら、悩みなんてなくなるんではないか」という想像を勝手にしていました。その期待は年を経るにつれて見事に破られるわけですが(笑)、人間には、その時々の生活環境、年齢に応じて、独特の悩みが生じます。

当然ながら、子どもができた瞬間に、悟りを開いた人格者に生まれ変わる、なんてはずはなく、やはりなにかしらの悩みや、問題を抱え続けます。

また身体に関して切実になるのは「老い」の問題でしょう。これは場合によっては、子どもには想像し得ない、深刻な問題となるはずです。

加えて、さきほども述べましたが、日本は長期にわたり、「娘の摂食障害は、母親の育て方に原因がある」という見方を広く共有していた国です。

確かにそういうこともあると思いますし、臨床の現場では、そこにアプローチすることがもっとも効果的である場合もあると思います。

ですが一方で、親の問題を次々とあげるたくさんの専門書を読む中で、「親というのは、こんなに完璧でなければならないのか!これを全部クリアしたら聖人君子。」と感じざるを得なかったことも事実です。

これに対し、EATの研究結果から導き出された、メッセージは違いました。

自分の悩みを解消することに比べて、言葉の使い方を変えることは比較的簡単にできる。そしてそのことこそが、子どもにもっとも大きな影響を与えることができる。

だからもしあなたの子どもが行き過ぎたダイエットに走っていたら、子どもの話をしっかり聞こう。

子どもの世界でなにが起こっているのか、かれらの世界に耳をすませよう。導くのではなく、隣に立とう。

子育てだけでなく、様々な人間関係の中でも使える、力強い、そして腑に落ちるメッセージであると感じました。

私も発表をしたので、それについてはまた後日報告したいと思います。

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