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修了式から始めるのも悪くない ②

 CM制作が終わる秋ぐらいから、本格的になってきたのが道場ライブだ。6期生芸人コースの修行の場。隔週で行われる新ネタライブ。今年は受講生が多いからチームを2つに分けて、ひとチームずつ毎週木曜日の夜に行われた。私は意識的に毎週通った。

 はじめは仕事もあるので行ける時だけでいいと思っていたが、作家という目標を心に抱いてからはなんとか都合をつけて参加した。同じ6期生として共に学んでいる彼らのパフォーマンスが日々向上していく様を見られるのに、見続けないのはもったいないと思うようになった。

 ライブが終わったあとは、できるだけその日のうちにTwitter(現X)に感想をつぶやいた。ひとことだけ、良かった組の良かったところを。

 ずっと、この行動があってるのか、間違ってるのか、わからなかった。タイタンの学校の芸人コースは、講師も芸人のネタに強く口出ししないことをモットーにしている。まず否定はしないし、こう変えなさいとも言わないらしい。

 それなのに、素人の私が客席から見た感想を無責任に書くことがいいことなのか。嫌われたりしないかな、などとずっと思いながら書いていた。でも、ライブに行くことも、感想を書くこともやめなかった。

 芸人コースが出る他のライブにも可能な範囲で足を運んだ。特にザ・ダッチライフの主催ライブは来場者をもてなす空気に溢れていて、いつも楽しい気持ちになった。

 一般コースとは毎週のように飲みに行っていたけど、芸人コースと話をする機会はほとんどなかった。土曜日の授業のあとは、芸人コースはネタ合わせやバイトに向かう人が多かった。

 授業前の雑談程度では何人かと話をしたけど、ネタについては「良かった、面白かった」と言うくらいで、深い話はできない。もっと芸人コースと仲良くなりたいという思いは強かった。

 芸人コースにとって、初めての大きな舞台となったのが、12月に行われたTCCGPだ。正式には「タイタンの学校6期芸人コース 漫才漫談ナンバーワン決定戦」。正式タイトルと略称のアルファベットがまったく合っていない。

TCCGPに一般コース生から贈られたバルーンアート


 ここで私はグコウケン2のとんでもない漫才を目撃した。やってることが新しいわけではない、自分の好みとマッチしたわけでもない、でもそのネタの完成度と技術の向上に圧倒された。成長のスピードに衝撃を受けたのだ。

 グコウケン2は学校に入ってから組んだコンビだ。道場ライブではネタとキャラクターのアンマッチをたびたび指摘されていた。ツッコミの関さんは、脱サラして“お笑い養成所”に通っていた。少し話してみたら、前職は私とほぼ同業だった。

 Xの投稿を見ると毎日のようにエントリーライブに出演している。当然だが、いきなり覚醒したわけではなく、きっちり計画と目標を立てて、舞台の上で成長していた。

 このころ私は、関さんの活躍を自分と重ねていたのかもしれない。私はますます芸人コースの成長を見るのが楽しみになった。

 そしてこのころから、私は構成作家になりたいと、みんなの前で口にするようになった。言霊を信じたくなったのかもしれない。声に出して発することで周りが自分のことをそういう人だと認識するのが、言霊の一番の効果のような気がする。

書道の授業で書いた自分が「確信していること」


 年が明けて書道の授業があったとき、これからの目標として「座付作家」と書いた。そして書いたものをみんなの前で発表した。内心ではかなりビビっていたが、この学校にいて自分を表現しないのはもったいないと腹を括った。これはもう、言ったもん勝ちだ。

修了公演で一般コースから贈ったお花。


 そして4月1日、修了公演「Dragonfly」。一年間成長を見守った芸人コースのみんなの最後の大舞台。そこでは、グコウケン2と同じく学校に入ってからコンビを組んだロビィの二人が躍動した。素朴で仲の良さが伝わるネタが持ち味のコンビだが、漫才で独自のスタイルを生み出して爆笑をかっさらっていた。彼らもまた、板の上で確実に成長していた。

 結局、打ち解けてゆっくりみんなと話ができたのは、修了式のあとの打ち上げの時だった。私は積極的に席を移って、芸人コースのいろんな人に声をかけた。

 みんなと話をする中で「与太ガラスさん、タイタンから作家の話ってないんですか?」とか「与太ガラスさん作家で入んないかなって芸人コースで話になってたんですよ」みたいなことを言われた。

 別の芸人からは、道場ライブのツイートについて「ずっと見てくれてる人からの感想なんて聞けるだけでもありがたいですよ」みたいなことも言われた。

 もしかしたら頭の中で良いように書き換えてるかもしれない。だとしたらみんなゴメン。

 ただ、それを聞いただけで、私が信じてきたことは間違ってなかったんだと思った。一年間みんなを見てきて良かったと、本当に思ったんだよ。

 だから胸を張って修了できる。こいつらの作家をやるのは私だって、気持ちだけは本物のまま、学校を出ることができる。こんな出会いが私の人生にあったことに、心から感謝したい。

 そんなこんなで、私は会社を辞める決心をした。

 既に退職のスケジュールは決まっているけど、公表されていないので、はっきりいつとは書けない。今の私は「数ヶ月後に会社を辞めるカラス」だ。


 いつか必ず、この物語を小説にしよう。でもまだエピソードが足りないな。学校を出た先に、それぞれの物語が続いていくんだから。私はこれからの物語を、みんなの活躍とともに綴っていこうと思う。

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