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同期のコンビが賞レースを獲った夜

 まだ6期修了公演よりも前のこと。授業が終わったあとの教室で、グコウケン2の二人が賞レースの宣伝をしていた。「のむシリカpresentsお笑いJACKPOT」この大会の4月末に行われる決勝戦に進出したという。彼らが持つチラシには賞金100万円の文字が踊っていた。

 タイタンの学校でコンビを組んだ二人は、ラッパーとしての顔を持つ藪田さん24歳と、メーカーの営業を脱サラして芸人になった関さん34歳からなる。詳細はお笑いJACKPOTの公式YouTubeで紹介動画がアップされているのでそちらを観てほしい。

 結成0年目で賞レースの決勝に残るというのは、それだけでもインパクトがある。所属に向けたアピールとして申し分ない。道場ライブほぼ皆勤の私としても、彼らの活躍に興味はある。

 大会の詳細を見ると芸人としての年収が100万円以下というのが参加条件で、芸歴の長さは問われない。予選は動画審査で、12組が決勝に進出できる。

 決勝に残った組はすでに名前が知られている芸人も多く、私はむしろ彼らの年収が100万円に満たないことに驚きを感じた。これがお笑い芸人の世界の現実だ。

 そんな現実を知りながら、グコウケン2の関さんは安定した職を捨て、お笑い芸人の世界に飛び込んできた。彼はことあるごとに話していた。「仕事をしていた時より1000倍楽しいですよ、収入はないけど」

 でも彼は、仕事を捨てたが人を捨てた訳ではなかった。道場ライブに通っていると、たまにお客さんが多いことがある。そんな日はたいてい関さんの前の職場の同僚が見に来ていた。TCCGPでも、修了公演でもたくさんの仲間が集まっていた。

 関さんのことばかり言って申し訳ないが、藪田さんも顔が広い。二人には人を惹きつける明るさと人望がある。

 芸能界はどこまで行っても人気商売。客が呼べるのは大きな才能だ。そしてお笑いJACKPOT決勝戦は、その才能が活かされる。この大会 最大の特徴は客票システムだ。完全客票で勝敗が決まる。

 ファーストステージは4組から2組を選ばなければいけないので、理論上、お客さんを多く呼んだだけではファイナルには進めない。それでも贔屓にしてくれるお客さんが多ければ有利になる。

 二人に強く誘われたわけでもないが、私はグコウケン2の勇姿を見届けるべく会場を訪れた。場所は表参道GROUND。バーカウンターが併設されたライブハウスで、賞金100万円の大会をやるというにはややこじんまりとした会場だなという印象だった。

 会場公式の席数は158。ちゃんと票数を合計したわけではないが、投票した客数は120人前後だろうと思う。

 大会は大いに盛り上がった。客層はガチガチのお笑いファンではなく、知り合いが出ているから見に来ようという人たちが多かったのだろう。審査をする緊張感はあまりなく、むしろ単純にお笑いを楽しんでいるようだった。

 高速スライダーズのヤマトさんをして「すごいいいお客さん」と評されるほどで、明確に滑った組はいなかったと思う。それに芸歴を重ねた芸人でも100を超えるキャパでライブをやることは少ないのだろう。芸人たちはやりやすい環境だったと思う。こういう空間に来ると、やっぱりライブはいいな、と思わされる。

 決勝戦の動画は既にYouTubeに上がっている。3時間と長いのでじっくり見るならしっかり準備運動をしてから観てほしい。

 ちなみに私のお気に入りは開始37:50ぐらいの、平場でボケる藪田さんに恐れおののく高速スライダーズヤマトさんの表情。先輩芸人の優しさも含めて、このシーンが一番嬉しかったかもしれない。

 そして動画を見れば分かる通り(この数行の間に3時間の動画を見た人がいるとは思わないが)、グコウケン2は優勝した。

 結果発表の瞬間は客席でも緊張した。決勝ラウンド3組に残り、グコウケン2はトップバッターだった。何度も観た勝負ネタ。私が知る中でも最高のネタだった。しかし最後に登場したセンチネルも強烈なツッコミを何度もヒットさせて爆笑をさらった。

 結果は僅差。優勝のコールを聴いた時、会場は大いに沸いた。同期の芸人が、目の前で賞レースに優勝した。こんな瞬間にはそうそう出会えない。ヒリヒリする空気、緊張、それに続く歓喜、拍手喝采。ここに立ち会う経験をくれただけでも、私はグコウケン2に感謝したい。

 終演後、会場の外に残ったファン一人ひとりに感謝の言葉をかける二人の姿があった。皆一様に興奮していて、泣いているファンもいた。こうやって書くとヴィジュアル系バンドみたいに聞こえるから言葉って怖い。

 正確には「来てくれた知り合い一人ひとりに」かな。泣いていたのは明確に「ファン」だけど。(イジってごめん)

芸歴一年目のグコウケン2にとって、最大の収穫はなんだろう。賞金100万円、それはそう。芸人を続ける上では、司会のニッチェさんや対戦した先輩芸人に認知されることも大きな収穫だと思う。それぞれの芸人さんとトークのネタができて、他の現場でも話題に上がる。

 人を大切にするグコウケン2はこれから益々芸人界にその名を轟かすことだろう。

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