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新宿の映画館で弁護士のギター漫談に涙した夜

劇場で配られるタイタンの情報誌GOGAI

今回のタイタンシネマライブに行った証を、この赤ちゃんの顔しか残せなかった自分が許せない。

 タイタンシネマライブは、2ヶ月に一度、銀座の時事通信ホールで開催される。いつものように会員先行チケットに応募したが、いつものように抽選で外れて、いつものようにTOHOシネマズ新宿で鑑賞した。

 この日のタイタンシネマライブは、いつもよりひときわ盛り上がっていたように思う。その中心にはもちろん爆笑問題がいたが、もう一人、私にとって思い入れの深い芸人が出演していて、彼もまた、その中心の一人だった。

 私はこの一年間、タイタンの学校6期の一般コースに通っていた。そして6期生芸人コースのネタ見せライブ「道場ライブ」に、私はこの一年間ほぼ休みなく通った。新宿で14年弁護士をしている藤元達弥は、なぜかタイタンの学校6期生で、なぜか芸人を目指して道場ライブに出演していた。

 弁護士あるあるをネタにしたギター漫談。初めから完成されたネタをやっていて、それなりに面白い。ライブの中での評価も高かった。経験もあるしお金もある。

 一緒に受けている一般コースの授業でも、お金持ってるムーブをすればウケる。特別講師のテリー伊藤に向かって「今度高級車を買おうと思ってるんですよ」と言えば爆笑。

 なんでも持ってる人が芸人になる。なんかズルいな、と思いながら見ていた。それはすべてを持っている人への嫉妬だったのかもしれない。

 ライブを観た後にいつもコメントするTwitter(現X)にも、藤元達弥のことを書くことはなかった。

 他所でやってきた経験を持って芸人になる人は、それだけで面白い。一流の研鑽を経たホンモノの経験は、お笑いに転換してもホンモノの笑いになる。ヒトの人生に笑いは宿る。

 世間的に評価を得ていながら芸人コースに入ってきたおじさんとして、藤元達弥と双璧を成す6期生に「高校の国語の教科書に短歌が載っている」を枕詞にネタを始める歌人さんがいる。

 彼もまた自分の経験談をネタに起こして漫談をして、笑いを誘う。おだやかな語り口に哀愁がただよい面白い。

 年末に近くなる頃、藤元達弥のネタに迷いが見られた。急に大声を出したり、逆立ちをしたり、ハーモニカを咥えたりした。すべてを持っているはずの男が、迷走し、もがいているように見えた。

 芸人コースのみんなは「所属」という正解の見えない目標と、2週に一度訪れる新ネタライブの狭間で、もがき続けることを宿命付けられていた。

 初めから高い評価を得ていた弁護士芸人にとって、ネタのクオリティを維持し続けるプレッシャーは大きかっただろう。

 その苦しみの上に彼の漫談が磨かれていく過程に、私は目が離せなくなっていた。おじさんが伸びる、それがタイタンの学校の魔力だ。そして最後には藤元達弥のネタの感想を私はTwitter(現X)に書き込んでいた。

 6期生の修了公演でも彼は堂々とトリを務めた。そのネタは会場を巻き込んで手拍子まで巻き起こす大活況だった。

 そして4/19(金)タイタンシネマライブで6期修了生として選出されたのは、42歳の弁護士芸人だった。

 タイタンの若手ライブを駆け上がったひらおか族、ガールズナイト、しびれグラムサムに続く4番手。同じ舞台に立ったこともある先輩芸人たちが会場をあたためた。

「新宿で14年、弁護士をしています、藤元達弥です」から始まる彼の漫談は、会場でも、劇場でも、大きな笑いに包まれていた。

 自分の笑い声と共に、周りから聞こえる笑いの渦に、私は感動していた。あとでタイタンシネマライブの感想が書かれたツイート(現ポスト)を流し見ても、藤元達弥に対する絶賛の声が踊っていた。

 私は、これから幾度となくつぶやくはずの自慢のツイートの、初めのひとつをつぶやいていた。

 タイタンライブでめちゃくちゃウケてたこの人、僕の同期なんです。

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