見知らぬ猫に助けを求められた話

台湾の東海岸の南部にある、台東市に3ヶ月住んでいたときの話。台東は「台」が付いてる割に、台北、台中、台南に比べるとかなり小さな都市だ。池上米という台湾では有名な米の産地が近くにあり、食事は全体的に美味しい。

僕は街外れに住んでいた。

それは旧正月の休みの期間中だった。台湾の旧正月では、店が一斉に閉まり、人々は家族や親戚に会いに大移動をする。ただ、スタバが開いているのは知っていたので、歩いて行くことにした。その道中、ニャーニャーと猫の鳴き声が聞こえてきたが、そのときはあまり気にしなかった。台湾(特に南部)では、野良犬や野良猫が多いから、野良猫が誰かに餌をねだっているのかな、とぼんやり考えていた。

スタバからの帰り道、同じ場所を通ると、また、ニャニャニャーーと聞こえてきた。(ずっと鳴いてたんだろうか。そういえば妙に必死な感じで、変な鳴き方だな。)と思い、声のする方を見た。そうしたら、木の板の隙間から、猫が手を振っていた(手というか、前足だけど)。野良猫に手を振られるっていうのは、生まれて初めて見た光景だったので、何事だ?と思って近づいて、壊れかけた木のドアのようなものの隙間から覗くと、向こうに猫が居た。(何かのきっかけで紛れ込んで、出れなくなったのかな。野良猫が人に助けを求めるなんて変だけど。)と思い、その場で救出方法を考えていると、近所の人が通りかかって僕に言った。

「その家、旧正月の休みで、留守にしてるみたい。」

ボロボロだったので気づかなかったのだが、そこには誰か住んでいて、猫は飼い猫だったのだ!ドアの上の方に大きな穴があったが、そんなことは気にしない人が住んでいたのだろう。台東はかなり暖かいので、隙間があってもあまり寒くない。真冬でも日本の10月くらいの気候で、長袖のTシャツに薄手のパーカーでも羽織っておけば過ごせる感じ。

僕の予想では、その家の人は猫の餌を適当に置いて長期外出したのだろうが、事情を知らない猫はその餌をさっさと食べ尽くしてしまい、困っていたのではないか。

飼い猫だったら、勝手に外に出すわけにはいかない。僕の家には猫の餌になるようなものは無かったし、猫は必死で助けを求めているので、しょうがないから、近所のスーパーで餌を買ってくることにした。日が暮れたら真っ暗で見えなくなるので、走った!

ただ、猫を飼ったことがない僕は、餌のチョイスを間違えてしまった。ドアの蝶番のところに、かなり隙間があったので、そこから投げ入れれば何でも良いだろうと思って、一番安かったウェットタイプの餌である、魚の缶詰を買って来た。誤算だったのは、その缶詰の中身を隙間から入れてたときに、猫は人の様に物を掴むことができないので、ドアのすぐそばに落ちたその餌を取ろうとしても逆にドアの外に押し出してしまうことだった。猫はニャーニャーと悲しい感じで鳴いていた。取れそうで取れないよー、みたいな感じで。ドライタイプを買っておけば、投げ入れやすかったんだろうけど。

しょうがないから、ドアの上の方にある大きな穴から投げ入れることにした。だが、踏み台のようなものを探す時間は無い。僕の身長では、全力でジャンプしてギリギリ届く高さだったので、難易度は高かった。ウェットタイプなんで、リリースしにくいという問題もあった。とりあえず餌をおむすびみたいに丸めてから、ジャンプのタイミングと、投げ入れるタイミングを合わせながら、何回かやってみた。ある程度は中に入っただろう。猫が奥の方に走って行ったから。

そのときは達成感とともに家に帰ったが、後から考えてみれば、魚の缶詰が家の中に散乱した状態になってしまっていたのではないだろうか。怒られるのじゃないかと心配になった。

次の日にもう一度行ってみたら猫は居なかった。でも、家の人は相変わらず留守のままだった。誰か近所の人が猫を預かったんだろうか。

こんなエピソードを書くと、台東人が動物に冷たいという印象を与えるかもしれないが、そんなことはなくて、ただ単にズボラなだけだと思う。夜中に道路の真ん中で黒い犬がグーグー寝ていたりするので、車やスクーターは避けて通ってあげるというやさしい面もあった。その割に運転は荒くて、3ヶ月の滞在中に3回轢かれそうになったが。

ちなみに、一応その犬に「ここはあぶないよー」と声をかけてみたが、オレの眠りを妨げるな、みたいな感じで無視されてしまった。対照的に、台北みたいな都会の野良犬は、信号のことさえ理解しているようで、青信号になるのを待ってから道路を渡ったりするのだが。

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