「田中建築士の家」のこと。

ちょっと前に書いた小説で「田中建築士の家」というものがあります。

この作品まではいわゆる純文学を書いていたのですが、
けっこうストーリーを意識した作品を書くことが多かったので
「もしかしてエンタメのが向いているのでは?」と思って書いた、
初めて意識して書いたエンタメ小説ということになります。

「小説現代長編新人賞」と「メフィスト賞」に投稿しました。
「メフィスト賞」はほんとうは別の賞に出した作品の再投稿はダメなのですが、
「小説現代長編新人賞」にウェブ投稿したときにエラーのメールが返ってきたので、
「もしかして投稿できてないのでは?」と思い、再投稿したわけでした。
この「もしかして届いてないのでは」はワナビ病の症状の1つってかんじがしますね!青かったです!今も青いけど!
(でもこのときのトラウマでウェブ投稿はできるだけ避けるようにしています)
いずれにせよ、両方の賞で一次に残ることはなく、さびしい結果に終わった作品なんですけれど。

強がりみたいだけれど、書いた感触としてはそんなに悪くなかったし、
まわりからの反応を訊いても、そこそこ面白く書けていると思っています。

あんまり自作について語るとへんな先入観を与えてしまいそうで
(というか自分が読者サイドにいるときにそう思うことが多いので)
ほとんど言ってなかったんですけれど、この作品は
「姉歯建築士の家」がモチーフになっています。
もう10年近く前ですが、偽装建築で騒がれました。
姉歯建築士の妻が精神を病んでいたこと、
生活を守るために偽装建築をしたかもしれないこと、
偽装建築で騒がれた後、姉歯建築士の妻が自殺したこと、
は、ほとんど話題にならなかったと思います。
明確なソースがあるわけではないので、
一部、フォークロアが混じっているかもしれません。

東日本大震災のとき、
「他の建築物がことごとく倒壊するなか、
偽装建築を疑われた姉歯建築士の家だけが残った」
という記事を読んで、その光景を書きたいと思いました。
建物の残骸だらけの荒れ地に、姉歯建築士の家だけが堂々と立ち並ぶ、
その光景を書きたかった。
その記事が本当かどうかといわれたら、私はたぶん、
嘘とまではいわないけれどけっこうな割合で盛ってると思う。
でも私には、その光景が見えたし、見えたから書けると思った。
書きたいと思った。
「田中建築士の家」は、ただそれだけの作品です。
付帯的に「家とは?」「家族とは?」というテーマはありますが、
それを主張したいわけでも象徴したいわけでもなく、
ただその光景を書きたかった。
(私はそういう書き方をすることが多いです)

「田中建築士の家」は、ネタバレになりますが、
まさにその「田中建築士の家」が荒れ地に並ぶ場面で終わります。
最初、元になったエピソードのように、
田中建築士の妻が自殺する話になる予定でした。
でも推敲を重ねるうち、妻は生き残り、
代わりに田中建築士が自殺する話に代わりました。
「そうであろう」と思ったからそう修正したのですが、
「そうであってほしい」とも思ったのかもしれません。
特に救いのない作品ではありますが、その点だけはわずかな救いになった、
ような気がします。

「田中建築士の家」は、「尼崎文学だらけ」というイベントで売っています。

10月7日(日)当日、尼崎の会場に来ても買えますし、
このイベントは通販もあるので、通販で買うこともできます。

よかったら、「田中建築士の家」ばかりが立ち並ぶ最後の光景を、
ただただ見てくださいますと幸いです。

p.s.純文学が向いてると思ったり、エンタメが向いてると思ったり、
時期によって変わりますが、さいきんはやっぱり、
私はエンタメのほうが向いてるように思っています。
過去作で面白い作品を挙げれば
「キャンディと王様」「田中建築士の家」「天地創想」「thunderbolt」
ことごとくエンタメなので。
ただ、来年1年は純文学ばかり書くと決めてしまったので、
少なくとも来年1年は純文学を書くつもりです。
純文学に、ちょこっとだけエンタメ要素を入れていったら
面白い作品になるかもなあ、などと企んでいる昨今です。

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