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腱鞘炎を乗り越えた話

ヴァイオリンって凄いいびつな構えですよね。

僕は4歳から14歳までヴァイオリンを習って、本格的にヴァイオリンを習い始めたのが22歳。その時点でパガニーニなどの超難曲を弾くことはテクニックの壁を感じ、少し抵抗がありました。プロオケに入って活動して、無理しすぎて腱鞘炎を患いました。

最近おなじような症状を知り合いが患い、痛みに耐えられずヴァイオリン活動を続けるに当たってアドヴァイスを求められたので、経験談を書きました。それをここに記します。

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〇〇さんへ

お返事おそくなってごめんなさい。
すごく辛いですよね。
音大生で腕を故障したという事例は僕の周りではいませんでした。
ちなみに〇〇さんの症状が腱鞘炎かどうかは僕ではわかりません。

僕はプロオケでの職務と自分の活動の激化によって左手の腱鞘炎を患い、
左手をカバーするようにしてしばらくして右手も軽度の腱鞘炎を患いました。

痛みが酷く、左指を動かすと手首を中心に激痛が走る、腱鞘炎の典型でした。

僕は入団当初オーケストラの楽員の「やる気があるとは思えない演奏態度」(見た目のパフォーマンス性)に快く思っておらず、自分はかなりアマチュアのように全身で気張って弾いていた、、、ということが発症の主な原因です。


同時に超絶技巧の曲もソロで取り組んでいた、というのも強いです。

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とはいえ仕事ですので辞めるわけには行きません。


発症してからの対処法を書きます。

①職場への理解
腱鞘炎を患ったため、特に1番前の席(首席補佐)には座れない。
責任ある奏者の立ち位置での活動が出来ないことを伝えました。

②職務の軽減
オーケストラのヴァイオリンパートはご存知の通り1stと2ndがあります。
第1ヴァイオリンは高ポジションをとても多く使うため手首への負担が高いため、
第2ヴァイオリンでの活動に切り替えます(僕はもともと2ndだったので助かりました。)

③技術負担の軽減
2ndヴァイオリンに移っても大変には変わりません。
僕は手首、小指、薬指(軽度)の中に激痛が走る腱鞘炎でしたので、
できるだけ左手首、肘を固定し、運指は4を可能な限り避けました。
駄目だとわかっていても、開放弦を使いました。(ヴァイオリニストならわかりますよね)

右手の奏法もかなり抑えました。
やる気のないトレモロ、アクセントを付けないなど、筋肉を緊張させる行為は極力抑えます。
周りがff(フォルテシモ)で弾いても自分はmf(メゾフォルテ)
腕を動かさない代わりに体だけ動かして「やる気があるように見せる」努力をしました。

④職務外活動への制限
ソロの曲で難しい曲はやりません。
ツィゴイネルワイゼンのような難曲は全て封印しました。
もちろんチャルダッシュも例外ではありません。


奏法の見直し

同じ弾き方をすれば、たとえ治っても同じ未来が待っています。
僕はとにかく楽に弾けることを意識しました。

左手
何度も言うようですが高ポジションは極力避けます。

左腕
左肘を脇で支えるなど、やる気のない持ち方も時には容赦なく使います

右手
クラシック本来の弓の持ち方だと手首にいささかの負担があるので、アイリッシュにみられるような、弓が短くなる持ち方を率先して使いました。これにより腕全体を使う負担が軽減しました。手首も楽です。そのかわり腕の重みを弦に伝えることが出来ずふくよかな音や音量は減りました。
弓も軽いものに持ち替えました。
カーボン製のものは普通より10g軽いので楽です。

右腕
楽に引くことのみを心がけます。
多少汚い音が出ようが構いません。腕に負担がある場合は肩を動かして引く


意外にこの「楽に弾く」というのは完治した今でもとても役立っています
力の抜き方、入れ方。演奏の抑揚に繋がり、結果として引き出しがいくつか増えた感じです。まさに怪我の功名ですね。

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次に治療に関してです。

まず症状がひどくなったため、鍼灸に何度も何度も通いました。
手には多くの針を。腕にも多く鍼を打ち、お灸も多く処方しました。

針のおかげで緊張した神経は一時的に緩和しましたが、指が動きません。
すべて緩和してしまい、演奏するための技術まで損ないました。

この治療を続けてはいけない、と確信しました。

特に針はヴァイオリニストのような繊細な技術に対しては危ないと感じました。
応急措置としてはとても即効性があってよかったですが、慢性的に頼らない方針に切り替えです。

基本的には、基本的な処置だけです。
①市販のお灸を買って、毎日使う。
②常に痛い箇所とそれにつながる神経を緩和するように腕全体を揉む
③ちょっとでも痛いな、って感じたらもう無理視せず諦める。

1年~1年半くらい戦いました。

今ではそこそこの難曲は問題なく弾けるレベルになっているので仕事に差し支えは全くありませんが、パガニーニやエルンスト、といったものすごい超絶技巧曲はやりません。


手を壊しては元の子もないからです。

ツィゴイネルワイゼンのレベルが僕の最上位の曲になります。
コンサートマスターなどの演奏依頼もありますが、問題なくこなしています。

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いかがでしょうか?

アドヴァイスというには物足りない情報だと思いますが、同じヴァイオリン弾きとして経験を参考にしてもらうくらいしか思いつきませんでした。
あとは現在そういう感じで腕や手の痛みと戦っている知り合いのギター奏者がおり、彼にあっていただいて治療の仕方を模索するといいかもしれません。


ギターの技術はヴァイオリンとは違い、ある種、腕の固定のようなとこから無理が発生している感じに設けられます。彼の症状は「腱鞘炎」ではなかったのですが、とても長い間リハビリをしています。


だいぶ治ってきてるようで、最近は僕とも共演しています。


とにかく


落ち着いて、ゆっくりじっくり治して。



かならず楽しい演奏ライフが待っています。


松本一策

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