2019年03月23日_012_

春秋山荘 孤娘展

山の麓はまだ寒く、春は降りていなかった。
春秋山荘の板間は靴下越しでも冷たい。部屋の明かりは抑えられ、危うい眠りを誘う。灯ったのは狐で彩られた品々だった。壁にかかった狐面に、小机の孤頭根付け、床の間の狐玉、座敷には尾のある少女が横たわる。
けぇん。
庭で鳴き声がした。
縁側に立つと、羽衣がたなびいている。
春が、揺れて微笑っていた。

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