春秋山荘の展覧会

 京都の山裾。空の青と木々の緑の境界に春秋山荘はあった。
 茅葺き屋根の屋内は暗い。傘を被った電球に、窓から入る斜光、壁に行燈がかけられている。三和土に靴を並べて上がった居間は、磨き込まれた板の間でドクロが整い然っていた。屍ではない。茶器が、皿がドクロを模している。
 ドクロを一通り眺めると、奥の部屋へ向かった。左右に二部屋。
 右の部屋は燃えていた。瞳を溶かした錦の鯉が、炭化した少女を囲み泳いでいた。熱くはない。錦の鯉は描いたもので、黒い少女は塗られたものだ。ヒトカタだ。
 左の部屋は止まっていた。土壁や床の間に凭れたヒトカタが、骨になる少女を囲み眠っていた。どれも、だれも、動かない。雪見障子のガラスに写る一体を見た。見つめた。止まったものの反射なら生きてやしないだろうか。
 軒先で南部風鈴が鳴った。我に返った私は春秋山荘を出た。すぐそばを流れる小川のせせらぎに耳を澄ます。山荘にいる間、それはまったく聞こえなかった。
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