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AIと大学生活(金子私家版)   ~~大学生にはAIをどう活用してほしいか、わかりやすくまとめてみました~~


0. このnoteの目的

大学非常勤講師です。データサイエンスなど教えています。

2022に生成AI, 会話AIが大きな話題になりました。今後しばらくはAIを利用したサービスやテクノロジーの進歩が続くでしょう。

大学生のみなさんがこれらのAIとどうつきあうべきか、もしかするとアドバイスができるかもしれないと思い、このnoteを書くことにしました。

追記: こちらを書いてから、以下も発見したので合わせて紹介します。だいたいおなじで細かいところが違うという程度。


僕は、人生の前半を企業で、後半は大学で働きましたが、その間社会を変える新しい技術が誕生して普及していく様子を、何度かリアルタイムで体験しました。またAIの社会的な影響を考えることは、僕の研究にも深く関係しています。

ですから、僕はみなさんに、AIやデータサイエンスを避けるのではなく「上手につきあってほしい」と思います。
しかし、僕が講義やオンライン講座で教える学生さんに、AIとのつきあい方をばらばらに説明するのは非効率です。そこで、今伝えたいことをまとめておけば便利でしょう。

というわけで、自分が担当するクラスや講座のためにこの資料を作っていますが、もちろん他の先生方や学生さんにも気に入っていただければ幸いです。

なお、まだまだ完成度が低いが一旦公開します。AI使え、といいながらnoteのAI機能も使っていません(プレミアムじゃないので)

1. AI時代に何を学ぶべきか

1.1 社会はどう変わるか?

いきなりストレートな問いかけです。みなさんはどう思いますか?

  1. けっきょく世の中かわらない。これまで通り。

  2. たいへんだ。今やっていることはすべて無駄になる。

どちらかな?
僕は、どちらも間違いであると思います。おそらく95%くらいの仕事については、僕が知る限りAIはまったくかほとんど役に立ちません。でも5%程度の一部の仕事は完全にAIに置き換わってしまうでしょう。

1.2 なぜ影響を受けないか?

多くの仕事はなぜ影響をうけないか。それは、皆さんはまだピンとこないかもしれませんが、社会人が実際に担っている仕事の性質によります。

たとえば、以下「ノーナレ」という番組で、製油所の仕事の様子を紹介しています。これを見ると大変分かりやすい。

NHKオンデマンド | ノーナレ 「製油所は眠らない」 (nhk-ondemand.jp)

オンデマンドで視聴するのにちょっとお金がかかりますが、興味がある人は面白いし為になるから、ぜひ見てみてください。見なくても要点は以下で説明します。

製油所はどんな形をしているかはごぞんじでしょう。僕もよく知っています。しかしど製油所の中の仕事がどんなものか?どうやって石油を精製しているか、この番組で初めて見ることができました。

びっくりです!

新しい原油が到着した後の、職員の会話をひろってみましょう。

「今日の原油、すこし柔らかいで」

「もし柔らかいんやったら、軽いんやったら、加熱炉379度までさげやんくていいんかも」

「どうするかな、それもうすこしむこうと揉んでもらわんと」

えっ?そんなアナログなの?そうなんですよ。意外にアナログなんです。

原油って、自然現象で地下に埋まっているものです。工業製品のように品質や供給が一定ではないのです。
したがって、需給状況や到着した原油の質によって、ひとつひとつ処理方法を調整していく必要がある。そしてできるだけ早く、必要とされている石油製品を出荷する。
なぜ、これまで自働化されていないのでしょう。それは、あまりに状況が日々変わるから。
供給される原油も変わります。処理をする設備も変わります。原油を原料とする石油製品の需要も変わります。市場の価格も変わります。たとえばウクライナ紛争のようなことでも、これらの条件が大きく変わるのです。
毎日「まったく新しい状況」に対し答えを見つけないといけない。こうしたことは、今のところ自動化やAIは向きません。
私はAIの応用研究も若干見ていますが、こういう「初めておきる条件が多々ある」「情報がいろいろなところからくる」仕事は、AIにとっては苦手です。

少し数学的な言い方をすると、入力と出力の空間やサンプルがよく定義されていれば、AIは問題をそうとううまく解けますが、そもそも人間が何を見て、何を聞いて、それらを手掛かりに何を判断しているかわからない、という場合はけっこう大変なわけです。仮に頑張って自動化しても、その間に人間の方がより賢くなったり、過去の経験が役立たなくなってしまいます。

余計なことですが、テック企業や大学の先生はややAIが置き換える業務を過大評価する傾向にあります。

僕はICT化で人間を機械で置き換えて無人化したいという仕事を何個か経験したりそばで見たりしました。そういうシステム構築の仕事の99%は、実際には1%しか起きない例外対応が占めるのです。

設計時に想定していない例外的なことが起きると、せっかく作ったシステムは誤動作したり、止まったりします。システムエンジニアは休みだろうが、寝込んでようが呼び出される。

つい、「こんなことが起きるとは聞いてないですよ!」と不満を言うと、「言ってなかった?でも考えればわかるでしょ?」と一蹴される。こうした「例外」はマルチモーダルで従来のサンプルの外にあるものです。
こうした業務は、自動化機械化を担当する側からみると、例外事象ばかりに見えます。だから業務の方法もシステム化されないし、文書化されたマニュアルなどもあまり作られません。

テック企業や大学の先生がややAIを過大評価しがちなのは、その人たちの組織では、わりと仕事が明文化され整理されている論理的に整理された仕事であるからです。AIで処理しやすい仕事である、ともいえます。

文書だけで相互連絡している組織の中で、メールや正規のルートで得られる文書だけをもとに判断して、組織の中の別の人に情報や指示を出すだけの仕事であれば、AIに置き換えやすい。しかし多くの仕事というのは、製油所と同じで、いろんな形で実世界とつながっていて、とりあえず人でないとそのすべてに対応することが難しいように僕は思います。

AI技術はたしかにこれまでよりずっとうまく、新しい事態に対応できますが、それも限界はあるわけで、現在の製油所の仕事や他の多くの仕事は、簡単にはAI化できないように思います。やがてAIも身体をもちロボットとなって、人間とほぼ同じ機能を果たせるようになるかもしれませんが、多分しばらくは大丈夫です。多分、ね。

1.3 大学の勉強はこれからも役立つのか?

それにしても大学の勉強は価値が下がるのではないか?

すいません、それは僕にはわかりません

未来を見通す力はないのでね。それは仕方がない。
しかし、正しい勉強方法をすれば、それは案外役立つように思います。
大学の講義で学ぶ知識は、だいたいAIの方が優秀です。あなたがたがいくら必死で専門知識を身に着けても、AIに勝てません。人々は、あなたの専門分野の質問であっても、あなたに専門的な質問をせずに、AIに答えを聞くでしょう。
だから以後、僕に専門分野の質問はしないでくださいね。
Bingに聞いた方が正確だし早い。数学の定理の説明も、教授に聞くよりAIに聞いた方がうまく説明するに違いない。

じゃぁ大学の勉強は役立たないじゃないか!

  1. AIが知っているから、知識は身に着ける必要がない

  2. 答えはAIに聞けばよいから質問をすることだけ覚えればよい。

そんな風に主張する人もいます。これは多分違うと思います。例をあげます。

スノボで転倒しそうになったときにどうバランスをとればよいか。AIに尋ねると教えてくれます。ならばそれは必要になったときにAIに聞けばようでしょうか。

明らかに、必要になってからでは遅い

ですよね。いや自転車でもいいや。どうバランスをとるかは、AIに聞いていては遅い。「身に着けておいて瞬時に使えるべき」知識であるわけです。

大学で学ぶ知識には、必要な時に尋ねればよい知識もあるが、このように「瞬時に反応するから役立つ」知識も多い。これらの知識は、いつでも使える状態に、いつも知識を磨いておかないといけない、ということです。
あるいは一度学んだことで、たとえ忘れてしまっていても、「そういえばこの問題の解き方があったはずだ」ということを覚えていれば、AIに「この問題はどうやって解けばいいのか。」と質問すればよい。

問題が特定できて、じっくり考える場合に必要な知識は、AIに頼ることができます。しかし自分が今まさにリアルタイムに判断をしている時に使うべき知識はAIに頼ることはできないのです。

1.4 AIを使えることは必要か

AIで置き換えられる仕事があまりないなら、AIの使い方を覚える必要はないのか?
これは、絶対に必要です。まだ大学のカリキュラムにはありませんが、AIの上手な利用方法は必死で勉強した方がよいと思います。
すでにインターネット上にはさまざまな職種の人が自分の仕事に使ってみた結果などが報告されています。有能な人ほど、この道具を使いこなすことの重要性を認識しています。たとえば小説家の方のこの報告。
https://note.com/takahiroanno/n/n4036a09eb15a

AIは得意なことも不得意なこともあります。AIがすべての仕事を完全にはこなせないだけであって、仕事のかなりの部分は効率化してくれる。その結果一人で3人分の仕事ができるようになるかもしれないし、AIをうまく利用出来る人材がそうでない人材を駆逐するでしょう。
AIを使いこなすために、以下のことをよく学びましょう。

  1. AI と人間の得意なこと、不得意なことは何か?

  2. AIの出す結果はどこが信頼でき、どこは間違えるか?それはなぜか?

  3. 研究の進歩により、すぐに出来るようになることは何か、簡単には実現しないことは何か?

  4. どうすればAIに、うまく仕事をさせることができるのか?

こうしたことに重点を置いて学んでおけば、将来長い期間にわたって役立つように思います。

2. AIとどう付き合うか?

2.1 情報をさがし利用方法を学ぼう

まず心がけるべきは、最新情報に目をむけることです。当面新しいサービスが次々と出るし、新しい使い方を紹介する人も多く出てきます。それらに目を配りましょう。
逆に、すでにいろんな使い方が紹介されていて、日々進歩しているので、ここでは少しだけ書きますが、これはすぐ古くなってしまうと思います。

  1. 普通に検索に使う
    これまでなら普通に検索していたようなこともBingAIなどのAIに質問すると便利です。BingAIでは、
    質問->検索->検索結果の要約
    という形で回答を作ります。この質問を検索に変換するときにも、検索結果を要約する時にもAIが働くので、人間が直接検索するよりも、より適切な検索をして、結果もわかりやすくまとめてくれる。

  2. より具体的な質問をする
    AIはより具体的な質問をした方が目的にあった答えを出してくれます。たとえば
    「年金と貯金について」
    と尋ねるより
    「年金と貯金のそれぞれのメリット、デメリットを教えてください」
    とした方が、より具体的にどんな場合にそれらが有利であるかがわかります。さらに
    「年齢によって、年金と貯金のそれぞれのメリット、デメリットを教えてください」
    であればさらによい。一方、
    「年金と貯金はどちらがよいですか」
    と聞くと、わからない、という答えになってしまうでしょう。それは聞き方が悪いわけです。

  3. いくつかの答えを求める
    留学先はどこがいいでしょう?
    という質問はやはり、どんなメリットを求めているかがわからないからよい質問ではありません。
    英文学の勉強を深めたいなら留学先はどこがよいでしょう?
    という質問の方がよいわけですが、この場合さらに
    英文学の勉強を深めたい場合にお勧めの留学先を10あげてそれぞれの利点欠点を教えてください
    と尋ねれば、さらに詳しい情報が得られるでしょう。

  4. 自習用のテストを作る
    テキストを入力としてそれに対する試験問題を作らせることができます。それを用いて自習することができます。ChatGPTで以下のように質問すれば試験問題(?)を5つ作ってくれます。
    「この後の文章を読んで、理解しているかをテストする試験問題を5つつくってください。 大学で学ぶ知識には、…」

    Q1 大学で学ぶ知識にはどのような種類があるのですか?
    Q2 「瞬時に反応するから役立つ」知識とは何ですか?例を挙げて説明してください。
    Q3 知識を磨くためにはどのような方法がありますか?
    Q4 AIを使って問題を解くことができる場合、どのような場面で役立ちますか?
    Q5 何度か学んで忘れた知識を思い出すためには、どのような方法がありますか?

  5. 論文の検索
    これまでなら、google scholar やjstageなどをお勧めしていました。しかし、ある分野や事項の主な論文などはBingAIに質問するとわりとうまく回答してくれます。特にある論文の「その後の研究」はこれまで検索では探しにくかったが、BingAIですとわりとうまく検索してくれる場合があります。

2.2 使う目的を意識する

大学生として使うメリットを意識しましょう。
若い時の時間は非常に貴重です。ですからAIを使う場合も最小のコストで最大の成果を得られるよう常に「目的」を意識するとよい。

覚えてもあまり価値がなさそうなこと

(1) 知識や解法そのもの - それは多分後で使う時にもAIに尋ねることになる
(2) AIの最新の使い方 - それはすぐに古くなる

身に着けるべきこと

(1) AIに「質問」したり、その結果により即座に判断したりするために、あらかじめ身に着けておくべき「基礎的知識」
(2) AIの上手な使い方やその考え方

ふりかえってみると、大学で専門知識を学ぶといっても、大学で学んだ知識そのものはもともとそんなに役立つものではなかったですよね。大学自体はもともと膨大な知識が集積されていますが、それを多少かじっても社会に出てから役立つわけではない。けっきょく専門的な知識が必要になれば専門的な人に依頼する方が実際的です。
したがって、もともと大学で得るべきスキルは、自分の専門知識よりは、世の中の専門知識にアクセスするための素養であったわけです。
ですから、AIと大学は似ている部分があって、大学で学ぶスキルの中にAIを使いこなすスキルを加えれば、これまで大学で身に着けていた素養の多くはAI時代にも役立つスキルになるように思います。

3. AIを使うリスク

AI は新しいツールなので、これまで新しいツールが登場した時と同様、うっかり誤用して問題をおこしてしまうことがあり得ます。どのようなことに注意すべきかを見てみましょう。

3.1 AIは事実にないことを答える

これはすでにご承知ですよね。特に会話の回答を、検索結果や参考文献のように、事実と考えてはいけません。会話AIは「確率的にもっともありそうな文章」を生成するだけなので、事実とは全く関係がないことがあります。(今後、参照された事実にないことは出力に含めないAIが出る可能性はあります。)

3.2 著作権

現時点では、現在の著作権法に従って判断されるわけですが、著作権法ではAIを使うことを例外とする条文はありません。つまり鉛筆で執筆しても、AIを使っても、それはあなたが使う道具であって、まったく同じ条件で著作権侵害が判断されます。
しかしAIが創作したものの著作権に関する見解にはややばらつきがみられますので、ここではどれが正しいかについては述べませんが、どのへんにに注意すべきかを書いておきたいと思います。

著作権侵害の要件は

  1. 依拠性

  2. 類似性

です。つまりAIによってつくられた出力も、既存の著作物に依拠して、類似していればその著作物の著作権侵害になると考えられます。

また以下の平成30年の著作権法改正における第三十条の四はAIと著作権法の関係においてよく理解しておく必要があります。

「第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合」

特に、第三十条の四の二で、情報解析への利用は法的に可能なことが明記され、ビッグデータ解析や人工知能の学習研究の促進には有益であると評価されています。
しかし、学習したAIが他の著作物とそっくりの作品を出力した場合、著作権侵害となるでしょうか。これについてはインターネットをみると多少見解のばらつきがみられます。極端な場合、分析時点で著作権侵害にならないから、生成結果著作権侵害に「ならない」と断定している主張もあります。

しかし上記条文をよくみると「他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」とあり、AIに画像や文章を「生成」させた場合には、この条件にはあてはまらないように思います。
人工知能の「学習」までは問題がありませんが、画像や文章その他を「生成」させた場合には、その生成物が著作権侵害となる可能性については慎重に考える必要がある、と思います。

3.3 その他の法令違反

その他にも、AIを使って、法令違反になる可能性はいろいろあります。他人の個人情報を公表すると、個人情報保護法の違反になります。法的な業務を行うと、弁護士法違反になります。特許や商標侵害も法令違反になります。また本来許されていない方法でコンピュータにアクセスすると、不正アクセス禁止法に違反することになります。
法令違反についての基本的な考え方
はそんなに難しくない。AIはいずれの場合も「あなたが使った手段」に過ぎない、と現在は考えればよい。
たとえば著作権侵害の場合も、「これはAIが生成したものだから」という解釈はなく、どんなに自動的に作画してもあくまでAIを使ってあなたが生成したものです。
個人情報保護法の扱いも、もしそのAIが入力を公表し得るタイプのものであれば、あなたがAIに個人情報を含む文章を入力したということは、公開された掲示板に書いたのと同じことになるわけです。

一方、多くの規制は、「業として行う」「そこから利益を得る」というところを規制していることが多いので、もしそのAIが、入力と出力をあなただけに排他的に行うタイプのもので、学習データも他に漏洩しないのであれば、AIをあなた自身の学習のためだけに行うことは、たいていの場合問題がないように思います。
個人情報保護については現在AIを含めた様々な情報サービスでは「プライバシーポリシー」を明示することが定められています。これを見ることで、AIを利用する場合の個人情報保護ポリシーも確認できます。

4. レポートや作品提出での利用

このセクションでは、レポートなどでAIを利用する是非についての、金子個人の考え方を示します。
みなさんはまず大学の示すガイドラインに従う必要があり、他の先生の講義ではその先生のガイドラインにも従う必要があります。その上で、もし大学のルール上許されている場合には、以下の金子が考える望ましい利用方法を参考にしてください。

4.1 使うべき場合とそうでない場合


教育効果、学習効果を考える場合、使うべき場合とそうでない場合がある。これはここまでの説明で理解したと思います。大学で学ぶ「目的」を理解してそれを高めることを意識しながら積極的に利用していただいてよいと思います。

4.2 使ってかまわない場合の例

すこし具体例をあげて説明しましょう。

実際の業務では、利用できる場合は積極的に利用するべきでしょう。ですから、講義の中でとりくむ課題においても、何か目的が与えられて、様々なツールを使ってその目的を達成する、という課題の場合、AIを使ってもよいと思います。AIを利用する方法もトレーニングすべきなので、積極的に使ってよいと思います。

たとえば、以下のような課題があったとします。

「お菓子のグミの商品を何通りかに分類したい。そこで様々なグミのパッケージの画像データを収集し、その画像分析を行うとします。その際CNNを使う場合と、アテンションを導入した場合について、利点と欠点を、授業で説明した特徴に言及しながらまとめなさい。」

このレポートをAIを利用して取り組んでもらうことは、問題ない。
「アテンションとCNNの違いは?」
「グミ画像のCNNによる分析についての論文は?」
とAIに尋ねてもまったくかまいません。そうした方法になれることは、将来同様の課題に取り組む時に役立ちます。

一方、「授業で説明した特徴に言及しながら」という部分はAIに聞いても多分答えてはくれない。あなたは授業で、「プログラムの単純さ」「計算効率」「正解率」について説明したとノートに書いているかもしれないから、そこはAIに何らかの方法で伝えた上で回答を引き出す必要かある。こんな風にAI をつかってもうまく正しい答えを導くには工夫が必要で、それは大いにAIを使って、習熟してほしいと思います。

4.3 使うべきでない、使ってもいい結果は得られない例


一方、以下のような小テストをやったとする。

以下の単語の説明についてあてはまるものを選びなさい。

Q1 RNN 
選択肢 a 文脈の理解ができる b 並列処理に向く c ニューラルネットを用いる

僕はこういう設問を一問10秒程度でどんどん答えていくようなテストを行うかもしれません。
こういう問題は、脊髄反射で答えられるか、を確認しようとしています。もともとAIに質問するより人間が答えた方が速いし、そうすることを期待しています。

4.4 使ってはいけない、と言われた時にどうするか

使ってはいけない、と言われた時にどうするか。
これは使わないようにしましょう。
しかし、問題もあります。
すでに、作文コンクールや論文投稿などで、AIを使った投稿を行ってはいけない、というようなルールを定めたというニュースは多く見聞きするようになりました。しかし、これを「文字通りAIを使うことを禁止する」という方法で解決するかは疑問です。なぜかというと、AIを使ったかどうかを確認する方法がないからです。
ルールというものは普通は外形的に確認できることにたいして定めることで、たとえば作文をするときに「かな漢字変換を使ってはいけない」というようなルールを定めても実際的ではないわけです。
「確認する方法がないのだから、使った者勝ちである」
で、黙って使った人が全員好成績を得て、あなただけ正直に使わないで成績が悪い、というのは自分が損であるだけでなく、放置すべきことではありません。
「それはやったもの勝ちということになりはしませんか?」という疑問は出してもよいと思います。
その際、もしかすると教員の側は、何を問題とされているかわからない、という場合もあり得ますから、わかりやすくAIを使って作った課題をみせて、

「こういう回答はこういう方法で作れるのです。それを確認していますか?それとも学生が自主的にルールを守るということだけに頼っていますか?」

ということを確認すればよいと思います。

一方、知り合いがこっそりルールに反してつかっていたらどうでしょう。
これは、やめるようにお勧めした方がよい、かもしれない。
現在わからないから、将来わからない、とは限りません。
AIが生成した文章は、AIが「統計的に」生成しているから、統計的な偏りがありますし、AIはこうした統計的な偏りを分析する能力があります。

Aさんが書いた文章と、Aさんがレポートで出した文章を与えて、それが本人が書いたものか否かを高い確率で判定するサービス。

というものが、来月リリースされても、僕はまったく驚きません。

成績に関することで、禁止されたことを行うのは完全な学則違反なので、原理的にはどんな重い処罰もありえます。よほどの事情がなければ、リスクが高すぎて割に合わない、と思います。

5 つまらないことには時間を使わない

大学生であるみなさんの時間は、非常に貴重です。僕はよく時給換算をしてみせますが、生涯収入との相関を考えると、大学生のみなさんは有益な勉強をすることで一時間5万円程度はリターンがある。ですから、それを感じている人は、やむをえずバイトをすることはあっても、その空き時間も寸暇を惜しんで自己研鑽に励んでいると思います。

本当につまらない手間を省くためにAIを利用するのは、おおいに結構。しかしあまりつまらない使い方はしない方がよいと思います。

僕自身は行きがけの駄賃とか、一石二鳥という言葉が大好きです。たとえば、コピペすればよいことでも、よくキーボードから手打ちしたりしています。それは、若いころのくせで、「同じ時間をかけるのであれば、それによってキーボードを打つ訓練ができれば、打つのが早くなって一石二鳥」と思っていたからです。
たとえばせっかく時間もあり歩いていけるのに交通機関に乗ってしまうのはばかげています。歩ける距離なら歩けば健康にもよい。
AIも同様で、せっかく自分で考える機会をAIで済ませてしまうのはばかげた使い方です。「自分を訓練する時間が減ってしまう」のであればそれは損。AIを相手に英会話の練習をしたり、AIに4択問題を作らせて解いてみたり、とかは、とても有益。AIを姑息な方法で使って、悦に入るなんてのは、僕は時間の無駄であると思います。
AIが世界を変えていくことをリアルタイムで見る、というすばらしい体験がこれからできるのはすばらしいことです。人間社会のある部分(多分そんなに大きくはない)がまた大きく変わることにわくわくしながら、その流れに溺れるのではなく、「波にのって」、このツールを使いこなすことを心がけてください。


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