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2023.06.26「お花」

1. 

空梅雨。ムシムシとした月曜日。

イマドキガール麻丘真央が朝からあじさいスイーツを紹介してくれた。

今年は町を歩いていて何かと紫陽花が目についたように思う。これまでそれほど気には留めていなかったのだけど、そのかわいさに思わず足を止めて写真を撮ったりもした。ブルー系の色合いも好きだ。花を愛でるという感情は、おそらくは野菜の美味しさがわかるようになってくるのと同じタイミングで獲得していったような気がする。

有給だった。二度寝をする。


目が覚めると11時過ぎだった。




2. 

この日はナナニジライブ2023、その最終公演だった。後輩メンバーだけのライブ。毎回一人がソロコーナーを担当し、それぞれに個性豊かなパフォーマンスを見せてくれる。最終回となる今回は、麻丘真央が担当する。


自分はナナニジの中で麻丘のファンである。というより、「麻丘、イイね~」という気持ちに気付いてから、いつの間にかナナニジというグループをこれまでとは一段も二段も違った心持ちで応援するようになった。アニメ以降ナナニジを追ってはいたが、明らかに自分の中のギアが変わったのだ。きっかけは2022年のアニラだが、ここまでになったのは「いつの間にか」としか言えない。そして、麻丘のおかげで自分は今こうしてナナニジを深く好きになっているので、彼女に対する気持ちは何よりも感謝の気持ちが一番強い。「麻丘、ナナニジに入ってくれてありがとうな」とは、ことあるごとに自分がつぶやく言葉である。


これまでの人生では考えたこともなかった「お花を贈る」という選択肢を自然と取っていた。といってもいわゆるフラスタは値段的なハードルもあり、楽屋花サイズで出すことにした。

イメージははやくから固まっていて、麻丘の特技でもあるフェンシングの剣を3種類挿し、お花は麻丘の色をメインに差し色としてメンバーカラーを入れ、これまでの麻丘真央からメンバーと一緒にアイドルとして新しい可能性を広げていくような感じ。フェンシングはサーブルだけでなくフルーレ、エペと種目が違えば全然別物になるように、アイドルもアイドルの中でいろんな方向性があって、きっとそれぞれに輝く麻丘を見せてくれるはずだ。そんなことを思ってお花のイメージをしていた。


付言すると、自分は大学の4年間フェンシング部に所属していた。大学から始めたのとそんなに練習熱心でもなかったのとで大した選手にはならなかったが、少なくとも麻丘のオタクでフェンシングを実際に経験していたオタクは自分くらいかもしれない。だからお花にフェンシングの剣をあしらうのも自分ならやっていいだろうと思えたし、3種類の剣の違いにもこだわってやろうとした。


実際のフェンシングの剣は刀身の長さが1メートルほどあり、当然ながら使えない。「フェンシング 剣 作り方」でググったところでそれっぽいのがでるわけでもない。自分は小学校の図工の授業が一週間で一番苦手だったが、とにもかくにも自分で作るしかないので、作ることにした。というか最初からそのつもりだった。




3. 

材料は段ボール、厚紙、紙粘土。剣のところは段ボールに厚紙を貼り、持ち手のところは紙粘土。鍔に当たる部分(ガルドという)も段ボールに厚紙……と思ったが、最終的には段ボールに厚紙を貼ってさらに紙粘土を上から塗るような形にした。まあ細かいところはいいや。

パーツが出来たらそれぞれ銀のラッカースプレーで着色。ボンドでくっつけて完成。


……と書くと簡単だが、実際は3本完成させるのに10時間以上は軽くかかった。元々手先が器用なタイプでもないし要領もそんなに良くないというのもあるが、やはり試行錯誤しながらいろいろと考えたり試したりで時間がかかったという感じだ。とはいえ出来上がったものを見るとうれしいもので、家で一人で出来上がった剣を構えて悦に入ったりしていた。

ただ反省点も多かった。段ボール+厚紙の刀身は見た目はそれっぽいがどうしても折れやすく、中に針金など刺しておけばよかったかとも。(ただ万一の危険性を考えれば針金はさすがにない方が無難な気はする) また、持ち手のところはこだわりすぎた結果実際のものと同じくらいのサイズになり、剣先を下に挿すのに対し重くなりすぎた。実際に握れるのはこだわりポイントでもあったが、単純に粘土量を減らせばよかったか。こちらも減らしすぎると割れてしまう可能性があるので難しいが。


ともあれ。なんとか完成し、お花屋さんに持ち込み。3種類の剣、プレート、お花の位置関係をああでもないこうでもないといろいろ試し、決定。


後は当日を待つばかりとなった。




4. 

6月26日。雨は降らなかったが、とにかく蒸し暑い。とはいえ会場内まで入れば空調も効いているので快適だ。そんな中自分は家から持ってきた(4年間使い古した)フェンシングのユニフォームを着ていた。麻丘とのオトク会でユニフォームを着てウケを取るなどの前科があるのだが、さらにオトク会で「定期公演まおすけの回これ着て参加するね!」とまで言っていたので有言実行である。麻丘は絶対暑いよ~など言ってくれたが、実際のところ現役のときの真夏のあっついあっつい体育館よりも何倍もマシだった。


ライブは好き嘘から始まった。一番振りコピが楽しい曲のうちの一つ。定期公演ではほぼ皆勤曲だろうか。2曲目は願いの眼差し。自分はちゅっちゅるちゅ~は絶対歌いません。(でも「あまやー!」と叫びはする) 3曲目地下鉄。定期公演の地下鉄は間奏の月城のダンスを見る曲なんですよね。



麻丘のソロコーナーが始まった。




5. 

麻丘は客席後ろから登場した。中央通路席のオタクたちから一輪ずつ花を受け取り、花束を作る。自分は壁側のほとんど端っこの方だったので、かなり悔しかった。そりゃ悔しいよ。まあ、そういうこともあるね。

ステージの方を見ると、何やら植物?と台のようなものがある。なるほど。……生け花ときたか。


麻丘がソロコーナーで何をやるか、正直まったく想像がつかなかった。フェンシングの何かをやるのかなとも思ったが、話しぶりからするとそんな感じもない。おちゃらけた麻丘じゃなくカッコイイ麻丘をお見せしたいとのことだったが、これといった候補は自分の頭の中にはなかった。


だが、生け花という目の前の答えは、驚くほど腑に落ちた。


ポニーテールは振り向かせないのインストが流れ、限られた時間で麻丘は花を活けていく。途中「片想いでいいんだ」のセリフパートをオタクが囁いたのが思いのほか目立って笑いを誘うシーンもあったが(俺はそういうの好きだよ)、麻丘は普段あまり見せないような真剣な表情で花に向き合っていた。そして作品が完成した。


作品のタイトルは「わたしの想い」。ファンへの感謝、つぼみから花開くきらめき、麻丘演じる桐生ちゃんの誕生花、好きな花。そして若竹はこれからの成長を。


麻丘はお花、作品の説明をしながら想いを語ってくれた。印象的だったのは「自分ひとりの応援なんて、と思っていたけれど」という言葉。自分がアイドルを応援する側だったときはそんな風に思っていたけど、実際に自分がアイドルになって、ひとりひとりの応援から力をもらっていると実感した、と。文章にすればありきたりなことなのかもしれないが、麻丘と何度かオトク会でお話をして、あるいはツイートを見たりステージ上の彼女を見たりして、その想いには真に迫るものがあると大いに納得ができた。素直で純粋な女の子なんだと思う。そして、それこそが自分が麻丘を好きになった、好きでいる理由なんだろうとも思う。言葉にすれば本当にありきたりなんだけれど、ホンモノは必ずしも複雑ではないということかもしれないし、言葉を尽くすことは必要なことだけど、捏ね繰り回すことは必ずしも正解に近づくものではないということなのかもしれない。


麻丘はファンへの感謝をよく口にするし文章にもしていると思う。それでもやはり、作品というかたちをとってそれを伝えてくれた、表現してくれたということはすごく大きな意味があって、素晴らしいソロコーナーだった。お花でそれを表現するというのは、なんとも麻丘らしいなあとあらためて思う。ソロコーナーが終わって、ライブが終わって、そして次の日になって。また「わたしの想い」を見ればじんわりと麻丘の想いが伝わってくる。とっても素敵なステージだった。



何より和装の麻丘がめちゃくちゃ似合っててかわいいんだ…………。




6. 

ライブは続く。いろいろあった。朗読と曲中セリフパートで低声を放って覚醒の兆しを見せる四条だったり、オタクの「あまやー!」の絶叫に苦笑するあまやだったり、チャレンジコーナーで連番のオタクが望月とじゃんけんをしたり、お見送りで5周したら「フェンシングまたきた!」と言われたり。「サーブルマンだ」とも言われた気がする。正直緊張してて誰に言われたかちゃんと覚えてないのですが……。最初はサーブル風味のオタク棒を持ち、途中で剣をフルーレ(お花用の試作品を整えたやつ)に持ち替えたらちゃんと麻丘が「今度はフルーレだ!」と反応してくれたのうれしかったです。



終わってしまった。楽しかったという気持ちとホッとした安堵の気持ちがあった。ずっとこの日を楽しみにしていたし、お花の準備という自分にとっては初めてのこともあった。結果としていろいろあったけれど無事に、何より楽しく笑顔で終われたし、夏祭りツアーもちゃんと楽しみに思えた。そして自分の出したお花もちゃんと見ることができた。


そう、お花だ。




どうだろう。やっぱりでかかったな……という反省はあるものの、前のお花と並んでいい感じに仕上げていただいたなと思っている。メンバーカラーの差し色を入れたのも正解だった。賑やかな感じは麻丘らしさもあるんじゃないだろうか。

ただ一つ、後ろのお花にガッツリ被ってしまったことは本当に申し訳なく思う。この場を借りてお詫びさせてください。次作るときはそのあたりももっと配慮に入れるようにします。



ちなみに、鍔(ガルド)のところにはフェルトを入れているのだが、このフェルトは実際の剣でもある。ぶつかったときの衝撃を和らげるためのものだ。この色は実はメンバーカラーを使っていて、エペ(左)は椎名、サーブル(真ん中)は雨夜、フルーレ(右)は白沢だ。というのは、オトク会で麻丘に「メンバーでエペっぽいサーブルっぽいフルーレっぽいって当てはめるとしたら?」という質問をしたときに返ってきたのがそれぞれこの3人だったので、それを入れてみた。自己満足の域を出ないが、せっかくなので謎のこだわりといったところでお許しいただきたい。
(種目ごとに個性が出るというのはたぶんフェンシングをやっていた人なら伝わると思う。実際麻丘はめちゃくちゃサーブルっぽいし、椎名はエペでカチャカチャやってそうだし(たぶんフレンチヒルト)、雨夜はサーブルの立ち合いでデカい声出しながらアタックしてそうだし、白沢はコントル上手そう)



考えてみると、自分の名前(本名)には花が関係していたりする。そんな自分が初めてライブでお花を出して、麻丘はソロコーナーで生け花をして、こじつけだけれどもそういう繋がりが嬉しくもあった。多分この日を経て自分は自分の名前が今までよりもさらにちょっと好きになったし(元々けっこう気に入ってるのだ)、道端で見かける花をこれまでよりも少し気に掛けるようになるだろう。佳き日というものは、こうして記憶と人生に刻まれていくものなのかと考えたりする。




ありがとう。






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