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レインボーリール東京で出会えた一期一会の珠玉のゲイ映画たち。

今年で28回目を迎える、日本のLGBT夏の風物詩レインボーリール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭。いよいよ7月5日(金)より開幕します。

昨年2018年は「ゴッズ・オウン・カントリー」が大きな話題(紆余曲折を経て今年2019年劇場公開された)となりましたが、日本では劇場公開される可能性が低い世界のゲイ映画を見られる貴重なチャンスです。

毎年、この映画祭でしか見ることのできない作品に出会うのが楽しみで期間中は会場に通いつめる僕にとっても、毎年欠かすことのできないとても大切な、そして大好きなイベントです。

今年のラインナップは先日公開したエントリ「世界のLGBT映画の秀作を楽しむ映画祭が今年も東京で開催!」をご覧いただくとして、ここでは近年「レインボーリール東京」で上映され、その後日本では見る機会のない一期一会のゲイ映画の中から、僕の琴線を直撃した印象深い作品5本をピックアップしてご紹介します。

劇場公開が難しいなら、Netflix、Amazonプライム、Huluなどで配信してもらえないかと願い続けている作品ばかりです。

それでは、ゲイ映画が大豊作だった2017年から遡ってご紹介していきます。

レインボーリール東京 公式サイト

◾︎2017年

迷い子たちの物語 Tale of the Lost Boys

国籍もセクシュアリティも超えて結ばれる男の友情。
彼らが抱える”家族”の問題に直面する濃厚な数日間。

■物語

舞台は、台湾の首都・台北。
フィリピンからやってきた青年アレックスは、松山空港からイトコが住むマンションへと車を走らせる。翌日から仕事で香港へ行くというイトコの家に、アレックスは1週間くらい滞在する予定らしい。そのイトコから、「教会でお前の母さんを見かけた。会いに行けばいいじゃないか」と言われる。
アレックスの母は、彼が幼い頃に離婚して、今は台北で新たな家庭を作っているようだ。母の住むマンションの前に行っても、訪ねることもできず帰ってきてしまうアレックス。
その夜、偶然に知り合ったゲイの医大生ジェリーと仲良くなる。性的な関係は生まれないが、2人の間には奇妙な強い友情の絆が結ばれていく。
2人を結ぶキーとなるのは、それぞれが抱える”家族”との問題。
ジェリーは台湾原住民であり、父親は部族の長老。大学を卒業後、ジェリーは父の後を継いで長老にならねばならない未来が待っている。しかし、台北でゲイである自分を解放し、ボーイフレンドと同棲しているジェリーは親の期待に応えられないことに苦悩していた。
ジェリーの気持ちを知ったアレックスは、ジェリーの実家へ遊びに行こうと提案するのだが。

■解説

フィリピンのクィア映画界の革新者ホセリト・アルタレホスが国際共同製作に初挑戦した野心作。台北を中心に撮影された作中では、英語、中国語、タガログ語、アタヤル語が語られ、アジアならではの人種、民族の混在ぶりが描かれる。

■注目点

ストレートとゲイの友情が描かれるこの作品には、主人公2人の間に性的な匂いは全く存在しません。それではつまらない、と思いますか?
いえいえ、それこそがこの作品の魅力なのです。
ストレート男性は、こちらがゲイだと分ると無用な警戒モードに入ることが往々にしてあります。目には見えない精神的な一線を引かれてしまったような感じがすると、それ以上踏み込んでいけなくなるような疎外感を覚えてしまいます。
作中のジェリーは、出会った時からアレックスに対して性的な興味を示すことはありません。それどころか同級生の女子とくっつけようとすらします。
だからこそ、アレックスがゲイのジェリーに対して心を開いて行く過程にリアリティーが生まれました。
「性的な匂いをさせなければ、ストレートに要らぬ警戒心を抱せることはない」
この真理、今後のストレート男性との付き合い方の参考にできること確実です。
主役2人の間に性的な化学反応を生まれさせなくとも、この作品はゲイ映画ならではの魅力に満ちています。田舎の保守的な家族の期待に応えられないと苦悩するジェリーの姿に、自分を重ね合わせて見ることのできる人も少なくないでしょう。また、アレックスを演じるフィリピン人俳優オリーブ・アキーノの。男っぽさと少年ぽさが同居した可愛さに胸をキュンキュンさせるだけでも、この映画見る価値ありと思わせます。
また、最近その品質の高さが話題になっている台湾ウィスキーの工場が登場するのも印象深いです。

『迷い子たちの物語』
【英題】Tale of the Lost Boys
監督:ホセリト・アルタレホス
2017|台湾、フィリピン|90 分|英語、タガログ語、中国語、アタヤル語


「17歳にもなると」 Quand on a 17 ans

気になる男子にどう接していいのか分からない思春期男子。
不器用な田舎の男の子たちの感情表現は乱暴で切ない。

■物語

舞台はフランス、スペインとの国境近くのピレネー山脈近くの片田舎の街。
17歳のダミアンは、医師として働く母と2人で軍人の父の帰りを待っている。高校ではダミアンは周囲からちょっと浮いた存在。
同じく高校で浮いた存在なのが黒人のトマ。山に住む子供のいない酪農家の夫婦の養子となったトマとダミアンは、なぜだか互いが気にくわなくなり、小さな衝突を繰り返すようになる。
ある日、急な往診でトマの家を訪ねたダミアンの母により、トマの養母が妊娠していることが分かる。出産までの間、ダミアンの家でトマが暮らすことになり、いがみ合うダミアンとトマの関係が変わっていくのだが…。

■解説

「ブロンテ姉妹」「野生の葦」「夜の子供たち」など多くの名作を発表しているフランス映画界の巨匠アンドレ・テシネ監督(74歳)が、レズビアンである監督・脚本家のセリーヌ・シアマ(「トムボーイ」が第20回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映)を脚本に迎えて作った本作。2016年ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。

■注目点

幼稚園や小学生の頃に、気になる女の子にちょっかいを仕掛けてしまう男の子、という話は古今東西よく聞くことであります。この映画は、まさにそんな男の子がそのまま思春期を迎えてしまい、気になる対象が同性だったら、という物語です。
主人公のダミアン君は、見た目がひ弱でいじめられっ子な雰囲気を醸し出しています。このパターンだと、ゲイっぽさを隠さず過剰にガーリーなキャラになりそうなものですが、そこは巨匠アンドレ・テシネだけあって一味違います。フランスの片田舎の街で、父は軍人という環境のダミアンは、隣人である元軍人のおっちゃんに護身術を教わる毎日。見た目と違って、中身は結構無骨な野郎系なのです。
ダミアンが気になって仕方ない存在が、山から通ってくる酪農家の養子であるトム。高校に通いながら、養父を率先して手伝い牛馬の世話をトムもまた無骨な男子。
この無骨な思春期男子2人が互いに意識しあってしまうと、距離の縮め方が分からずにちょっかい出し合っては喧嘩しては怪我をするの繰り返し。あまりに不器用すぎてイライラさせられながらも、そんな2人が愛おしくてたまらなくなります。この2人の関係性の変化だけでも青春ドラマとしてなかなか興味深いのですが、そこに互いの家族に関するドラマが絡み合いより一層深い印象が残りました。
2017年のレインボーリール東京の上映作品の中でも最長上映時間でありながら、最後まで飽きさせずに見せる技は、さすが手練れの巨匠だけあります。
個人的には、ダミアンの母がトムとの淫夢を見てしまう場面が唐突すぎ、かつ以降の展開に絡んでこないので意図不明と感じましたが、とても面白い作品でした。

『17 歳にもなると』
【英題】Being 17 【原題】Quand on a 17 ans
監督:アンドレ・テシネ
2016|フランス|116 分|フランス語、スペイン語


「ファーザーズ」 FATHERS

養子を育てるゲイカップルが、本当の親になれるのか?
法の整備と互いの愛情と社会の無理解の板挟みの中、選び取るものとは。

■物語

舞台はタイの首都バンコク。
付き合い始めてから13年経つブーンとユクの裕福なゲイカップルは孤児の少年を養子として育てている。同性婚が認められそうだという話もあり、強固なチームワークが生まれている3人の未来は大きく拡がっているように思えた。だが小学校でゲイ嫌いの同級生の父親と関わったことから、3人の前に暗雲が立ちこめはじめる。
一家のもとに現れた児童権利保護団体のスタッフによって、消息が分からなかった少年の実の母が見つけ出される。このままブーンとユクと暮らすのか、それとも実の母の元で暮らすのが幸せなのか。大きな決断を迫られるのだが…。

■解説

Utt PanichkulとNat Sakdatorn というイケメン役者2人が演じるゲイカップルを演じて、大きな話題を呼んだ作品。タイの映画祭でも多数ノミネート。
2017年のレインボーリール東京では最大の注目を集め、シネマート新宿(335席)の上映は立ち見も出る満員札止め、スパイラルホールでも満席となった。

■注目点

イケメン俳優2人が育てる養子の少年が見事にイケメン候補生。
そんなイケメン3人が暮らす高級住宅、登校と出社に使うサイドカー付きのバイク、小旅行に向かう先の高級リゾートなど、絵空事のファンタジーかと思わせるほど現実感がありません。
イケメン尽くしに加えて絵に描いたようなセレブ感満載の嘘くさい生活、とても感情移入などできそうにない要素が揃っていますが、そこで白けさせないところがこの映画の面白いところ。
現実感のない3人の生活は、理解のない他者(社会)を介在させない、いわば聖域を強調するための仕掛けだったのです。そんな聖域が長続きするはずもなく、小さな綻び(リゾートでの夜に2人がベッドで戯れていたことを少年に知られてしまう)から決壊が始まると、魅力的な生活は一気に色あせていきます。自分たちと少年のことだけを考えていれば良かったイケメン2人も、否応なく手強い社会と向き合っていかねばならなくなります。
同性婚が認められていないタイの現状では、少年は法的にゲイカップルの片方の養子として認められたに過ぎません。周囲の子供と違う環境で子供をきちんと育てられるのか、母親の不在を少年にどう説明して納得させるのか、ゲイの養親よりも血の繋がった実母に育てられるのが子供にとって幸せなのではないか。
ゲイの観点で見れば理解のない社会の理不尽さに憤りを覚えますが、観点を変えてみると子育てをするゲイカップルは理解不能な存在に思えるのかもしれません。
法的に正式な養子であるという主張と、子供は実の母に育てられるのが幸福であるはずという社会の思い込みの対立は、幸せだったはずのゲイカップルの間にも軋みを生じさせます。
ファンタジーのような聖域に思えた暮らしが色あせた現実に変貌していくのを、果たして止めることができるのか。終盤、抱えきれなくなった苦悩をぶつけ合う主人公2人から、真の意味で親になると決断することの重みが伝わってきます。

『ファーザーズ』
英題:Fathers
監督:パラトポル・ミンポーンピチット
2016|タイ|96 分|タイ語


◾︎2016年

チェッカーで(毎回)勝つ方法 
How to Win At Checkers (Every Time)

抽選制というユニークな徴兵制度を軸に
男同士の愛情や兄弟の絆、そしてタイ貧困層の現実が描かれる

■物語

バンコクに住む男の回想で物語は描かれる、舞台は現代のタイの地方都市。
叔母とその娘の家で暮すエックとオートの兄弟。タイ特有の抽選制徴兵試験が迫るエック。大黒柱のエックを兵役にとられたくない叔母と、大好きな兄ちゃんに兵隊になってほしくない弟。兄ちゃんのためになればと弟のオートがしでかす事件が、この兄弟とジェイの人生を大きく変えていきます。

■解説

この映画はセクシャリティが軸となって物語が動くのではなく、タイ特有の徴兵制度が軸となっているのが面白いところ。タイの徴兵制度は、21歳になる男子全員が徴兵抽選会に参加することが義務付けられ、抽選で当たる(赤を引く)と2年間の兵役に就かねばならないというユニークなもの。戸籍が男性であるトランス女性も抽選会に参加するが、抽選を免除される、という場面も描かれている。
※興味のある方は、こちら(徴兵抽選会の動画あり)をご参照ください。

◾︎注目点

両親を亡くし、叔母の家で世話になっている少し年の離れた兄弟。
弟・オートは11歳、兄・エックは高校を卒業してバーテンダーとして働いている21歳。オートは兄ちゃんのことが大好きで、しょっちゅう着いてまわろうとします。少々鬱陶しがりながらも、エックは父親代わりに弟を可愛がっています。2人の日課はチェッカー、西洋碁とも言われるボードゲームです。そしてエックには高校の頃から付き合っている同い年のボーイフレンド・ジェイがいます。食卓に肉料理があがることも滅多にない貧困家庭のエックと、土地の名士の息子である金持ちの息子ジェイとの関係も、貧富の差を超えて仲睦まじく続いていました。
エックやジェイがゲイであることも、トランス女性の美人な友人がいることも、それ自体は単なる日常の風景として何の問題にもならないのは、さすがタイだなと思わされます。
とくに注目なのは、青年の肌が非常に美しく撮影されていること。男に対して思い入れのないカメラマンは、女性をキレイに撮る方法のまま男を撮ってしまい、微妙に艶やかで気持ち悪い仕上がりになるパターンが多いのです。
しかし、女性の美しい肌と、男の美しい肌は質感が全く異なります。この映画では青年の肌を「男の肌」としてとても美しくカメラに収めています。
セクシャリティが物語の軸にはなっていませんが、タイの貧困層の青年たちが生活の手段として選ばざるを得ない「性風俗」の一面も物語の重要な鍵となっています。観光でタイに行く日本人は買う側でしか見ることのできない「性風俗」を、売る側の視点から描かれているので、まったく違う印象を覚えるかもしれません。
弟の回想で描かれるこの作品。貧困層だった弟が、どうやってそこから抜け出したのか。彼は人生のチェッカーに如何に勝利してきたのか。饒舌になり過ぎない抑制の利いた結末だからこそ、この作品は心に深くのこります。

『チェッカーで(毎回)勝つ方法』
英題:How to Win At Checkers (Every Time)
監督:ジョシュ・キム
2015|タイ、香港、アメリカ、インドネシア|80分|タイ語 ★⽇本初上映
2016年アカデミー賞外国語映画部門タイ代表作品、タイ・アカデミー賞助演男優賞受賞。
2015年ベルリン映画祭パノラマ部門出品作。


◾︎2015年

夜間飛行 Night Flight

学歴偏重、格差社会、激しいLGBT差別
現代韓国の問題点を内包した過酷な純愛物語

◾︎物語

中学時代に仲良くなった3人の少年、学業優秀な模範生のヨンジュン、校内でも恐れられる存在の不良のギウン、そしてデブなヲタクのキテク。しかし彼らを取り巻く様々な環境のために、その関係性は高校になると歪んでしまっていた。ゲイであることを自覚しているヨンジュンは、密かにギウンを恋し続けていた。キテクはPTA会長の息子である優等生(ヨンジュンには成績で適わない)を中心とするグループからいじめの対象とされていた。そのいじめグループからリーダー扱いされているギウンは、理由あって姿を隠している父を捜していた……。

◾︎解説(映画祭プログラミング担当林さん)

「韓国で一番最初にカミングアウトしたオープンリー・ゲイのイ=ソン・ヒイル監督(『後悔なんてしない』)の最新作です。主演の2人はモデル出身で、演技初体験。監督は新人を主役に抜擢することが多いのですが、彼らは初映画とは思えないくらいちゃんと演技しています。監督の話によると、ゲイ役を演じるというのはかなりハードルの高いことらしく、本人たちが出たいと思ってもエージェントや彼らの両親の反対が強く、そこを説得するのがなかなか大変だったそうです。この作品は、とにかく映像が綺麗です。二人が真っ直ぐな道を自転車で走る場面は、もう!本当に素敵です。こんな青春を過ごしたかったなあって(笑)監督は今後は『ゲイ映画』というカテゴリーの映画は撮らないかも、と語っているので、彼の最後の『ゲイ映画』になるかもしれません」

◾︎注目点

毎年繰り広げられる大学修学能力試験の朝の応援騒ぎを見て韓国が学歴偏重社会であることをご存知の方も多いでしょう。また韓国ドラマに詳しい方には、慢性的な就職難であり、厳然とした格差社会であることはご説明するまでもないでしょう。さらに、LGBTに対する反発も強く、日本では考えられないことですが毎年プライドパレードは酷い妨害にも遭っています。
そんな現代韓国が内包している社会問題に、図らずも直面してしまう高校生たち。
複雑な背景のある物語だからこそ、主役2人の純粋なラブストーリーが際立って印象に残ります。
主役の模範生ヨンジュンを演じたクアク・シヤン、不良のギウンを演じたイ・ジェジュン。まったくタイプの異なる2人ですが、どちらも若さゆえの不安定さを併せ持つ輝きをキラキラと放っています。クローゼットでありながら一途に好きな男を見つめるヨンジュンの切なさ、暴力という鎧を纏い虚勢を張ることで自分の身を護っているギウンがヨンジュンの一途さに触れて鎧を脱ぎさる瞬間の可愛さ。二人が心の奥に抱えるあまりにも大きな孤独が重なりあって結ばれて行くのかと思いきや、物語はあまりにも衝撃的な展開を迎えます。
困難な季節を生き抜いた二人が病室の窓から初雪を見つめるラストシーン。これは「初雪が降った日に好きな人と一緒にいると、その恋がかなう」という韓国のジンクスの現れで、未来の幸福の暗示であってほしいと心から願わずにはいられませんでした。

「夜間飛行」
英題:Night Flight (原題:야간비행)
監督:イ=ソン・ヒイル
2014|韓国語|134 min|韓国

https://youtu.be/n3ObHFy-iMs


あなたのアンテナに引っかかる作品はありましたでしょうか?
少しでも興味を持った方は、ぜひ今年のレインボーリール東京で珠玉のゲイ映画に出会ってください。

※レインボーリール東京で上映されたゲイ映画以外の作品をご紹介するエントリはこちらです。

レインボーリール東京・傑作LGBT映画5選。




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