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【ネタバレ】 『Starfield』は、歴史的傑作になり損ねた…史上最上級のオープンワールドRPGであるが故に


はじめに

『Starfield』には「全体を俯瞰した高いレベルのディレクション」が足りない。それが本作の価値を損ねている。

…これが、メインストーリーのエンディングに辿り着いた僕が、最初に考えたことでした。

ゲーム体験だけをみれば、少なくともベセスダ・ソフトワークス(以下ベセスダ)史上最高の作品であることは間違いありませんでした。なんならオープンワールドRPG史上最高と言っていいとすら思いました。

美術や世界観(宇宙観)設定、キャラクター造形からクエストに至るまで、本作が備える要素はどれも最高水準で、AAA作品として申し分のないものでした。

しかし、本作が提示するメインテーマは、「AAAオープンワールドRPGである」という本作のゲーム体験とは相性が悪いものでした。

本作のメインテーマは、それ自体は素晴らしく、歴史的傑作に値するものでした。しかし、本作が「大ボリュームのAAA大作である」ことが、そのメインテーマの価値を損ねていると感じました。

本記事ではそのことを指摘したいと思います。なお、本記事にはメインストーリーのネタバレを含みます。未クリアの方はご注意ください。

本作のメインテーマの素晴らしさ

本作のメインテーマがなんだったかというと、それは「マルチバース(多元宇宙)」です。

本作のクライマックス付近、別の宇宙へと向かう直前に描かれるイメージ

本作には、最初にプレイする(つまり1周目の)宇宙の他にも、無数の平行宇宙が存在します。主人公は、メインストーリーのクライマックスにおいて、「スターボーン」という超人的な存在となり、新たな可能性を求めて、別の宇宙へと飛び立つのです。

なぜこのテーマが素晴らしいと感じたかというと、それは、この設定が「本作がビデオゲームというフォーマットで作られた意味」という、メタフィクショナルな部分に踏み込んでいると感じられたためでした。

本作におけるマルチバースは、ゲームシステム的にいうと周回要素であり、いわゆる「強くてニューゲーム」に、設定上の意味づけを行うものです。ただし、単なる周回ではなく、本作の2周目以降は、1周目とは異なる展開が待ち受ける「少し異なる平行宇宙」であるところが特徴的です。

考えてみると、ビデオゲームという存在そのものが「マルチバース的」であると言えます。誰が体験しても同じ展開・同じエンディングに行き着く映画やドラマとは違って、ビデオゲームは、プレイヤーや周回によって無数の異なる展開が生まれるからです。

つまり、本作の「マルチバース」は、大袈裟に言うならば、「本作をプレイする我々」という「現実世界そのもの」を本作の内部に取り込んだ、画期的なものだといえると感じました。

もちろん、本作のメタバースという設定は、上記のようなメタ的な目配せに使われるだけでなく、本作のメインストーリーにも有効に生かされています

物語中盤で、主人公は「大切な仲間の死」という過酷な運命に直面します。以降のメインストーリーでは、「マルチバース上の別の宇宙では、仲間の死を回避できるかもしれない」というのが、主人公がマルチバースを追い求めるモチベーションの一つとして描かれます。(この辺りのストーリーラインは、個人的には『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』や『シュタインズ・ゲート』といった名作ADVたちを連想しました)

『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』

つまり、マルチバースという設定が、メインストーリーにおいて主人公のモチベーションを喚起するための、重要な道具立てとして使われているのです。

メインストーリー後半、喪った仲間を悼むシーン。僕の場合、犠牲になったのはサラ・モーガンでした。

このように、本作は、ビデオゲーム自体が持つ「マルチバース」的な側面を取り込み、ストーリー上の説得力を持たせることに成功しました

その時点で、本来であれば、歴史的名作に十分ふさわしい作品になるはずでした。

本作が提供するゲーム体験とメインテーマの相性の悪さ

しかし、残念ながらこのメインテーマは、本作が提供する「AAA大作オープンワールドRPG」というゲーム体験とは、相性が悪かったと言わざるを得ません。

本作には1000以上の探索可能な惑星と無数のクエストが存在します。さらに、拠点や宇宙船のクラフトなど、やり込み要素も膨大に用意されています。

このように、過剰ともいえるコンテンツ量を誇る本作ですので、ほとんどのプレイヤーにとっては1周クリアすらままなりません。

発売3ヶ月半を経過した2023年12月21日時点の統計データによると、1人当たりの平均プレイ時間は約40時間であり、1周クリアからは程遠いプレイ時間でした。(プレイ時間が長い一部のユーザーが平均値を押し上げているでしょうから、中央値はもっと低いと予想されます。)

つまり、ほとんどのプレイヤーが、本作の圧倒的な物量に阻まれ、クライマックスに行くほど盛り上がる本作のメインテーマを十分味わうことなく、プレイを断念してしまうのです。

また、マルチバース上の別の宇宙にへ行く(すなわち次の周回へ行く)と、所持品・ミッションの完了状況・所持する宇宙船が全て失われるという仕様も、マイナスにはたらきます。僕自身もそうでしたが、「大ボリュームの本作をほぼもう一度やり直さないといけない」と思うと、周回を重ねることを躊躇するプレイヤーが大半ではないでしょうか。

本作のマルチバース要素はかなり凝っていて、1周目とは異なる思いがけない展開に出くわすことがあります。「大切な仲間の死」という、本来であれば避け得ない運命を回避できる世界線すら存在するようです。

かりに「無数に存在するマルチバースを、さまざまな可能性を求めて旅する」というストーリーラインを想定するのであれば、1周はコンパクトにして、複数の周回にまたがるようにメインストーリーをデザインすべきだったと思います(例えば『ニーア オートマタ』のように)。

『ニーア オートマタ』では、3周することを前提にメインストーリーが組み立てられている

せっかく、「マルチバース」という素晴らしいメインテーマがあって、「平行宇宙ではストーリー展開が変わる」という凝ったゲームシステムによって支えられているにも関わらず、多くのプレイヤーが周回を躊躇するゲームデザインになっているのでは、台無しだと感じました。

根本的な問題は、全体を俯瞰するゲームディレクションの欠如

ここまでに「メインテーマとゲーム体験の齟齬」を指摘してきましたが、根本的には、ゲーム全体を俯瞰して最適なバランスを追求する「高いレベルでのディレクション」が足りないのではないか、と思えてきます。

すでに述べた通り、本作が提示する「マルチバース」というメインテーマは、本来はコンパクトなストーリーテリングに適したものです。「周回ごとに展開が変わる」という仕掛けを入れるのであれば、尚更のことです。

しかし実際には、マルチバースに関係する仕掛けと、従来のベセスダ作品と同様の「広大な世界(宇宙)を舞台とする大ボリュームのオープンワールドRPG」が、特にバランス調整されることなく、無造作に置かれています

「自由度が高い」というと聞こえはいいですが、ゲーム全体を矛盾なく統合させるためのゲームデザインを放棄していると言わざるを得ないと感じました。

確かに、『Skyrim』や『Fallout 4』といったベセスダの過去作も、「広大な舞台を用意したので、あとはご自由にどうぞ」という側面が強い作品です。なので、これはベセスダの個性であり、今更とやかく言うのはおかしいのかもしれません。

また、そもそも我々が住む現実世界には、「バランス」や「メリハリ」などというものは存在しないので、文字通り「宇宙のすべて」をそのままぶち込んだ本作は、「すごくリアリティがある」と絶賛すべきなのかもしれません。

しかし、そうしたことによって、せっかく本作が設定した興味深く素晴らしいメインテーマが損なわれ、プレイヤーに伝わりづらくなったのだとしたら、それはゲームディレクションの敗北だと感じました。

まとめ

本記事では、僕の『Starfield』評として、本作のメインテーマ設定とゲームプレイの間の相性の悪さについて書きました。

本作のゲームプレイ体験は楽しく素晴らしいものであるにも関わらず、いや、むしろ「素晴らしい大作オープンワールドRPG」であるがゆえに、本作のメインテーマが損なわれ、伝わりづらいものとなっていることを指摘しました。

ところで、本作は、IGN JAPANのレビューにおいて、ゲームライター渡邉卓也氏によって10点満点と評されています。

僕は幸運にも、2023年末に、本作を10点とした理由を直接伺う機会を得たのですが、その際に氏は「最後までプレイすると満点である理由が分かる」とおっしゃっていました。また「レビュー期間が非常に限られていて、50時間程度のゲームプレイを数日間でこなさなければならなかった」とも。

メインストーリーをクリアした今、僕は渡邉氏のコメントを理解できます。数日間という限られた期間にギュッと凝縮してメインストーリーを味わったのなら、それはたしかに10点満点でもおかしくないと思いました。

ただそれは、大多数のプレイヤーとは、全く異なる遊び方だな…とも感じます。

ここまでにいろいろ書きましたが、強調しておきたいのは、「本作は決してつまらないゲームではない」ということです。本作は、ベセスダ作品の最新進化系であり、むしろゲーム自体の面白さは過去最高だと感じます。

本スタジオが一貫して追求している、「ビデオゲームの中にもう一つの世界を想像する」という夢はとても野心的で、未来を感じさせるものです。

今回の僕の評価は厳しいものになりましたが、今後の作品を楽しみしている気持ちは、変わることはありません。

2024.2.29 Itaru Otomaru

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