コラム:ゲームクリアまでにかかる時間は長すぎるんじゃないか問題について

「面白そうなゲームが次々発売されて、到底遊びきれないよ!」って、いつも思います。
映画であれば、年間200本以上観るマニアは決して珍しくないですが、ビデオゲームは、大作だと1本クリアに50〜100時間かかることはザラなので、そんな数をこなすことは現実的に不可能です。

このコラムでは、「ゲームクリアにかかるまでの時間は長すぎるんじゃないか」という問題について考えようと思います。

僕がこの問題を考えるようになったのは、僕自身に子供が生まれて、以前よりゲームに費やせる時間が少なくなってきたからですが、世界的にゲーマーの平均年齢は高齢化し「長時間没頭できるティーンエイジャー」というのがゲーマーの平均的な姿ではなくなっているので、普遍的な問題でもあると思います。

以下、この問題を掘り下げ、僕なりの解決策も示そうと思います。

1. 問題提起

ここで対象とするのは「The Witcher 3」や「FINAL FANTASY XV」、「Red Dead Redemption II」など、エンディングまでのストーリーを追体験することが大きな目的となっているシングルプレイ型ゲームです。
「あつまれ どうぶつの森」や「スプラトゥーン2」のように、毎日継続して遊んで、結果的にプレイ時間が数百時間に積み上がるようなゲームは対象としません。)

今年のはじめ(2020年1月)に公開された以下の記事では、ゲーマーの平均年齢や、平均プレイ時間の統計が紹介されています。

平均的なゲーマーは週に7時間ゲームをプレイし、1回あたりのセッション時間は1時間22分だ。

1週間あたりのプレイ時間が7時間だとすると、クリアまでに60時間かかるゲームは、順調にいっても9週間、約2ヶ月必要とすることになるます。

映画は2〜3時間、1シーズンのドラマでも10時間程度で物語の最後までを体験できることと比較すると、2ヶ月というのは、1つの物語にコミットし続けることを求められる期間としては長い気がします。

上の記事では「ゲームプレイが長すぎることの弊害」という章で、本記事と同じ問題提起がなされていて、大作ゲームではなく、コンパクトなインディーズゲームが解決策となっている、と分析されています。

本記事では、それ以外の解決策はないか、これまでのゲームで行われてきた対策を振り返りつつ、考えていこうと思います。

2. これまでに行われてきた取り組み

これまでに世の中に出てきたゲームが、上で述べたプレイ時間の問題に何の対策もしてこなかったわけではありません。

一番直接的に対策しているのは、FF7・FF8・FF9といったFINAL FANTASYのリマスター作品群だと思います。

これらの作品では、3倍速で遊べたり、レベルやお金を最大にできたりして、ストーリーだけを手早く楽しみたいプレイヤーも手を出しやすいようになっています。

ほかに、ゲームデザインによってプレイ時間の問題を緩和しているのは、スーパーマリオオデッセイ(Nintendo Switch, 任天堂, 2017年)です。

どれくらいパワームーンを集めるかや、僕みたいにスナップショットモードに夢中になるかどうかにもよるが、本編をクリアするまでは平均15時間程度かかると思われる。

僕自身が遊んだ時も、約10時間程度と、比較的短時間でクリアできました。
でも、本作はクリアしてからが本番というべき作品で、ゲーム世界に無数にちりばめられたパワームーンやさらなる高難度ステージを求めて、心ゆくまで遊び続けることができます。

このように、シナリオ本編自体は短時間でクリアできるようにして間口を広くし、本編クリア後のゲーム要素を大量に用意して奥を深くする、というのは、プレイ時間の問題への対策といえるかもしれません。

あるいは、かつてドリームキャストで展開された連作RPG「エルドラドゲートシリーズ」(ドリームキャスト、カプコン、2000〜2001年)(全7巻、全18話で構成され、1話は2~3時間でクリアできる。2000年から2001年の1年間にわたって発売)も、1本あたりのプレイ時間を短くするという意味で、プレイ時間問題への対策といえるかもしれません。

しかし、ここで紹介したような例外はありつつも、ビデオゲームで大きな話題を集める大作(いわゆるAAAタイトル)は現状、ユーザーに長時間にわたるコミットを求め続けるものばかりであるといえます。

3. 解決策の提案

僕は、「スーパーマリオオデッセイ」の手法が理想に近いのではないかと考えています。
つまり、物語の本編は短時間でエンディングまで到達でき、クリア後のいわゆる「2週目」で、プレイヤーにさらなるスキルを要求するサブミッションや、本編のミッシングリンクを埋めるサブシナリオが解放されるという方法です。

上記の手法は、いわゆる大作RPGでも、「トラスティベル~ショパンの夢~」(XBOX 360, バンダイナムコゲームス, 2007年)の2週目要素、「FINAL FANTASY XV」(PS4/XBOX One/ Windows, スクウェア・エニックス, 2016年)のストーリーDLCなど、先行例があります。
(※ただし、これらの作品は本編自体も一定のボリュームがあるので、本記事で論じるようなプレイ時間の問題に対する対策としてこのような要素を導入しているわけではありません)

本編クリアまでにかかるプレイ時間ですが、「普通の人が週末にちょっと頑張ればメインストーリーがクリアできる」くらいのプレイ時間、つまり10時間くらいがちょうどいいのではないかと思います。そして、さらに遊びたい人は2週目で心ゆくまで楽しむ、というバランスです。

そのようにすれば、サクッと遊びたい人も、これまで通り大作ゲームにボリュームを求める人も、多様な人をすくい取ることができると思います。

また、少し視点は違いますが、物語の発端から完結までの「壮大なサーガ」を描くのではなく、途中から始まって途中で終わる「短編小説のようなストーリーテリング」がもっとビデオゲームに導入されてもよいように感じます。

もちろん、本編クリアの時間を短縮するために、せっかく用意した物語を無理に短くする必要はないと思います。
ただ、作品によっては、プレイ時間を長くするため無理にシナリオを引き延ばしているように見えるものも多いです(「The Witcher 3」の中盤、仲間のダンディリオンを救出するくだりとか、あんなに長い必要あるのか?と思いましたし…)
そのような作品に対しては、そんなことをする必要はないと感じるのです。

このように、ゲームデザインの工夫によって、ビデオゲームにあまり時間をとれない人も、長時間をかけられる人も満足できるようにする、というのが、僕の提案です。

4. おわりに

ここまで色々と書いてきましたが、僕はたっぷりと遊びごたえがあるシングルプレイヤーゲームが大好きです。
最近は、1回あたりのセッションは短くしてカジュアルに毎日楽しめるようなゲームが主流ですが、それだけではなく、1人でじっくり楽しむゲームも、より多くの人が楽しみ、話題を集める存在であってほしいです。

だからこそ、そういった「じっくり1人で遊べることをウリとする」ゲームが、多大な時間を費やせる一部のマニアのものではなく、もっと多様な人を包摂できる存在であってほしいと思うのです。

ビデオゲームが誕生してから約半世紀、我々ゲーマーの要求は高まり続け、それに応えて、ゲームのボリュームも膨張を続けてきました。

せっかく6000円とかのお金を払うのだから、たっぷりとしたボリュームがあって欲しい…!と考えるのは自然なことです。
でも、平均的なゲーマー像が高年齢化し、必ずしもたくさんの時間を費やせる人ばかりではなくなった今、この発想はすこし軌道修正を必要としているように思います。

より多くの人がビデオゲームを楽しめるように、本編そのものは、あまり人を時間的に拘束しない作品が、主流となるべきなのではないかと考えます。

2020.7.25 Itaru Otomaru

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