『Starfield』直前に考える、「AAAタイトルのボリューム多すぎ問題」について

今年(2023年)は、いわゆるAAAタイトル(大作)を筆頭に、大豊作の年と言ってよいでしょう。
7月までの半年余りで『バイオハザード RE:4』『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』『ファイナルファンタジーXVI』などが発売され、いずれも高評価を得ています。

そしてその上、9月にはオープンワールドRPG『Starfield』が控えています。

これだけの大豊作だと、気になってくるのは各タイトルのボリューム(つまり、プレイ時間)です。

現代のAAAタイトルにおける例えば「メインストーリークリアに30時間、コンプリートに100時間」というボリュームは、始める前から既にお腹いっぱいという気持ちになってきます。
また、他のエンタメと比較すると、例えば映画であれば3部作の超大作シリーズであっても10時間弱で終わるので、AAAタイトルのそれは、一つの物語を体験するために必要な時間としては長いようにも思えてきます。

筆者個人としては、「プレイヤーに長いプレイ時間を要求するのであれば、価格に見合う量を持たせるための水増しではなく、何らかの必然性があってほしい」と思っています。

本記事では、AAAタイトルがその大ボリュームを正当化するために必要な要素を、3つのポイントに整理して考えたいと思います。

ポイント1:メインストーリー中で長い年月が経過すること

1つ目は、「メインストーリー中で、主人公が少年から大人に成長するなど、長い年月の経過が描かれる」ことです。

『ドラゴンクエストV』や『ファイナルファンタジーXVI』はこのパターンに該当します。やや変則的ですが、少年期と青年期を行き来することによって物語が進行する『ゼルダの伝説 時のオカリナ』も当てはまるかもしれません。

『ドラゴンクエストV』より、主人公の少年期と青年期

このような作品においては、主人公の一生をプレイヤーに追体験させることが、メインストーリーの主目的です。あまりに短いとダイジェストのような印象になってしまうため、長い時間をかけて描くことに必然性があります。

ポイント2:ストーリー上の必然性があること

2つ目は、プレイヤーに対して長時間を費やしてでも伝えるべき「ストーリー上の必然性がある」ことです。

これはポイント1に近いですが、必ずしも作中の経過時間の長さが必須条件ではありません。

例えば『ウィッチャー3 ワイルドハント』はこのパターンの一例です。
本作のメインストーリーは長大で、プレイ時間集積サイト「HowLongToBeat.com」によると、平均クリア時間は51.5時間です。

しかし、本作のメインストーリーは無駄に長いわけではありません。
主人公ゲラルトが本当の娘のように愛しているキャラクター、シリを、何としても見つけ出し救い出したい、そのモチベーションを、プレイヤー自身も実感するために必要な長さでした。

また、ビデオゲームではなく小説ですが、スティーブン・キングの『11/22/63』もその一例です。

本書は、ひょんなことから1950年代後半のアメリカにタイムスリップできるようになった主人公が、1963年11月22日に発生するケネディ大統領暗殺を阻止すべく奮闘するSF小説です。ハードカバーで上下2巻、文庫版で上中下3巻にもおよぶ大作です。

当初僕は、文庫版上巻の終わりの方になっても、メインストーリーであるはずの「大統領暗殺を阻止する」という話が1ミリも進まないので、そのスロースタートぶりに不満を覚えていました。しかし、最後まで読むと、このテンポの遅さと分量の多さは、主人公が何度も同じ時間をループし、試行錯誤しながら歩んだ長い旅路を、読者にも追体験させるために必要なものだったのだと感じられました。
ネタバレは伏せますが、これだけの分量があったからこそ、ラストの感動がより一層深いものになったのだと思いました。

このように、ストーリー作劇上の必然性がある場合は、それが長時間を要するものだったとしても、正当化されると思います。

ポイント3:プレイヤーの気の済むまで遊べる「仮想の遊び場」であること

3つ目は、「そのゲーム世界それ自体が一つの仮想的な遊び場であり、プレイヤーはその中で気が済むまで遊ぶことを意図したデザインになっている」場合です。

例えば『フォートナイト』『GTAオンライン』等の多くの大作マルチプレイタイトルはこのパターンに当てはまります。また、本作の出自はAAAではなくインディーではあるものの『マインクラフト』もその代表例です。

シングルプレイタイトルにおいても、多くのタイトルがこのパターンに当てはまります。
今年発売された『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』および前作『ブレス オブ ザ ワイルド』は一つの代表例と言えるでしょう。

また、『The Elder Scrolls V: Skyrim』『Fallout 4』といったベセスダ・ソフトワークス(以下ベセスダ)の作品のPC版では、MODによって無限にゲーム要素を変更・拡張可能ですので、このパターンに該当します。

本パターンでは、メインストーリーにはそこまで重きが置かれておらず、プレイヤーを誘導する最小限の動線として設定されている作品が多いことも、特徴の一つです。

冒頭で述べた『Starfield』もまた、このパターンなのだと思われます。

「1000以上の探索可能な惑星が存在する」「自分の宇宙船を手に入れて無限にカスタマイズできる」といった要素が宣伝されているため、ユーザーが自分の楽しみを見つけ出して好きなだけ遊ぶことができるようなゲームデザインになっているのだと予想されます。

おわりに

個人的には、『Starfield』には期待しているものの、それと同じくらい不安もあります。

それは、本作が掲げる「宇宙を自由に冒険できる」というコンセプトによって得られる楽しさが、過去のもっとコンパクトな作品での楽しさと同種のものに留まり、長大なプレイ時間を正当化できないのではないか、という不安です。

例えば、「さまざまな惑星が存在する宇宙を冒険できる」「互いに対立するさまざまな派閥があり自分の選択で加入できる」といった要素は、既に『The Outer Worlds』で経験済みです。

本作の制作会社は『Fallout: New Vegas』と同じObsidian Entertainmentですので、「宇宙版Fallout」ともいえ、その意味でも『Starfield』との類似性は高そうです。

『The Outer Worlds』より

他の例として『Starfield』では、「たった一人でこの惑星を探査していることの孤独や、巨大な宇宙に対して自分がいかにちっぽけな存在に過ぎないかを実感する」といった、SF小説のようなシチュエーションが楽しめそうです。

しかし、これもすでに、傑作『Outer Wilds』で鮮やかに描かれているシチュエーションです。

『Outer Wilds』より

ですので、『Starfield』が要求するであろう膨大なプレイ時間を正当化できるかどうかは、本記事で示した要素をどの程度満たしているかどうかにかかっています。

特に本記事のポイント3で挙げたように、作中の世界が、どの程度「留まり続けたい」「この世界で遊び続けたい」と思わせてくれるものになっているかによって、僕自身の『Starfield』に対する評価は変わってくると思います。

期待と不安が入り混じりながら、それでも9月の『Starfield』発売を楽しみに待っている今日この頃です。

(了)

2023.8.4 Itaru Otomaru

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