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「人生の大切なことをゲームから学ぶ展」の良かったところ、惜しかったところ

先日(2024年3月24日)、有楽町の「GOOD DESIGN MARUNOUCHI」で開催されている「人生の大切なことをゲームから学ぶ展」に行ってきました!

UX(ユーザエクスペリエンス)デザインとビデオゲームの関係に注目するという着眼点は冴えていて、とても素晴らしいと思いました。また、展示はどれもとても力が入っていて、かなりの労力と情熱(とコスト)を込めて作り上げたものだということが伝わってきました。

一方で、本展示のメインコンテンツである「それぞれのUXデザインを体現するために制作されたビデオゲームを、実際にプレイできる」という試みは、残念ながらあまりうまくいっていないように感じました。その点で惜しいと思いました。

今回の展示で実際にプレイ可能なビデオゲームたち(公式Xのポストより引用)

ここでは、本展示を体験して僕が感じたこと、考えたことを言語化したいと思います。


素晴らしかったところ:本展示のコンセプト

まず、なんといっても、「人生の大切なことをゲームから学ぶ」という本展示のコンセプトが素晴らしかったです。

僕自身、以前から「ビデオゲームは単なる暇つぶし以上の価値がある」「人生で大切なことは全部ゲームが教えてくれた」と言い続けていて、記事を書いたこともありました。

今回の展示は、まさにその点に着目したものでした。

本展示では、ゲームから得られる学びが「成長」「勝利」「挑戦」など8つに整理されています。そして、例えば「成長」であれば「経験によって強い敵にも勝てる」といった具合に、各要素がビデオゲームのデザインにどのように活かされているかが示されています。

会場で配布されているパンフレットから抜粋

さらに、それぞれの「学び」を体現した8種類のゲームが展示されていて、実際に遊ぶことができます。このことによって、上で示したようなビデオゲームのデザインを「実感」できるように作られています。

また、会場には、ヨコオタロウ氏をはじめとする各界著名人のコメントが掲示されていて、「人生においてどのような大切なことをビデオゲームで学んできたか」が分かるようになっています。

このように、本展示では、ビデオゲームを「ただ単に遊んで楽しいもの」ではなく、「人生において大切なことを教えてくれるもの」と捉え、そのコンセプトに沿ってまとめ上げられています。

「実際にビデオゲームを制作する」ことをはじめ、本展示の一つ一つに莫大な労力がかかっていることが伺えました。そのような労力を払ってこのコンセプトを貫徹したこと、そのことが素晴らしいと思いました。

惜しかったところ:本展示のために制作されたゲームたち

ただし、残念ながら、本展示のために制作された8種類のビデオゲームは、あまりうまくいっていないと感じました。

「誰が遊んでも楽しい名作」であることを求めるのはさすがに無理な注文だとしても、一番の目的であるはずの「『成長』『勝利』といったそれぞれの学びを体現する」という部分についても、達成できていないと思いました。ここでは3点指摘します。

1. 難易度が高すぎること

まず第1に、全体的に難易度が高すぎじゃないかな…と思いました。
(僕自身あまりゲームが上手い方ではありませんが、そのことを差し引いても)

ゲームのグラフィックを、ファミコンのようなレトロなドット絵調にすることは、「取っ付きやすさ」という点から理解できます。しかし、難易度までファミコンの頃のようにストイックで厳しいものにする必要はなかったように思います。

そして、難易度が高いがために、そのゲームのコンセプトを伝えることに失敗しているケースも見受けられました。

例えば、「お金」に関する学びをデザインした『GOLD RUSH』
これは『戦場の狼』を元ネタにしたと思われる見下ろし型シューターですが、独自の要素として、まず最初に限られた資金を割り振って装備を購入します。そのことによって、「強い武器を取るか、それとも移動速度を向上させるか」といったトレードオフを実感することができる、という狙いで作られています。

本展示の『GOLD RUSH』が参照したと思われる作品『戦場の狼』

しかし実際には、シューティングパートの難易度が高すぎて、強い武器を手に入れようが移動速度を向上させようが、関係なく瞬殺されてしまうので、上記の狙いを全く感じることができないまま終わってしまうのです。

2. コンセプトを実現できていない作品があること

第2に、「学びを体現する」というコンセプトをそもそも実現できていない作品が散見されました。

例えば「時間」に関する学びをデザインした『時は金なり 地獄連打』
これは連射測定ゲームで、最初に2つのサイコロを振って持ち時間が与えられ、その時間内に規定の回数連打したらクリア…というものです。

ただ、例によって難易度が高く、持ち時間が9秒(つまり出目が9)程度はないと、ほぼクリア不可能です。そのため、実質的に「いかに良い出目を引き当てるか」という運を試すだけであり、「時間を大切にする」といったコンセプトとは全く関係ないゲームになってしまっています

同様の傾向は「仲間」に関する学びをデザインした『MONSTER REVENGE』にも見られました。これは、さるかに合戦をモチーフにした作品で、大猿と戦うにあたりどの仲間を戦闘メンバーに加えるかによって勝敗が変わる、というゲームです。…ですが、僕が何回かプレイした範囲では誰を選んでも瞬殺されしまうので、どのような組み合わせが正解なのか全く分からず、したがって、本作のコンセプトを実感することもありませんでした。

3.ユーザビリティ(遊びやすさ)に乏しいこと

本展示は「UXデザイン」を重要している展示であるにも関わらず、今回のゲーム作品たちのUXデザインは、本展示が想定するであろう客層にとっての使いやすさからは乖離しており、ユーザービリティ(遊びやすさ)に乏しいものになっていたと感じました。

本展示は、老若男女の様々な人に体験してもらえることを目指したのだと思います。宣伝画像からもそのことが伺えます。

しかし、一方で、今回のゲームたちは、往年のアーケード版『ドンキーコング』のようなレトロな筐体に収められています。この筐体、かなり背が高く、小さい子供が快適に遊べるものではありませんでした

さらに、コントローラはアーケードスティックであり、スマホゲームが主体の一般層はもちろんのこと、僕のような家庭用ゲームユーザーにとっても馴染みの薄いインターフェイスでした。(※ 一部ファミコン風のコントローラーを備えた作品もありました)

すでに指摘した通りの難易度の高さも相まって、「老若男女に楽しく学んでもらう」というよりは「1980年代の往年のハードコアなアーケードの雰囲気を再現する」というコンセプトになってしまっていました

それはそれで興味深いものですし、どの筐体のデザインもとても力が入っていて、十分な気合を感じさせるものではありましたが、本展示の目指すものからは乖離してしまっていると思いました。

まとめ

今回は、2024年3月15日から4月14日にかけて開催されている「人生の大切なことをゲームから学ぶ展」を体験して、僕が感じたことをまとめました。

強調しておきたいのは、「ぜひ、自分自身で実際に体験してほしい」ということです。本記事では、僕が感じた不満点を主に記しましたが、それでも本展示で得られる体験は唯一無二のものですし、行って良かったと思っています。

今後も、ビデオゲームを題材にした様々な体験に出会えることを楽しみにしています。

2024.3.28 Itaru Otomaru

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