第14話 隠せない男

 賑やかな行軍で南下を続けていた僕らだったが、ある日、ニカラグア湖の畔の街でサヌキくんのiPadが盗まれてしまった。ほんの数十分前に使っていたものだったにも関わらず、だ。直前に寄ったスーパーの警備員が盗ったのだろうか。
 実はこの前の日にも僕のカメラが盗まれてしまっている。やっぱりこの地域は油断のならないエリアである。
「あぁ、盗られてしまった」
 頭を抱えて顔面蒼白になるサヌキくん。毎日iPadでせっせと旅ブログを記録している様子を見ていただけに、僕ら二人にも気まずい空気が流れた。
「いや、でも、元からあれは使いづらかったんだよ。あんなものなくたって旅は出来る。むしろせいせいしたぜ」
 サヌキくんはすぐにいつもの強がりを言ってポケットに手を突っ込んだ。しかし、これがただの強がりだということは、もうとっくに僕らは知っている。この男ほど不器用で本音を隠せない人間はいないのである。
「でも、あれがないとメールが出来なくなっちゃうなぁ…、いやいいんだよ、もともと持ってくるつもりはなかったんだ。しかしなぁ…」
 一人でまだブツブツ言っている。この様子に彼の動揺具合が計り知れて、僕らはますます気まずくなった。
「と、とにかくさ、まずは悪用されないようにメールとかのパスワード変えちゃおうぜ?ほら、俺のパソコン使っていいからさ」
 この空気に耐え切れなくなった僕はサヌキくんにパソコンを貸すと彼の表情が和らいだ。
「おう、サンキュー。じゃあちょっとだけ借りるわ」
 パソコンを受け取った彼は少しだけ軽い足取りでインターネット電波の飛んでいる宿のロビーへと向かった。
「ふう、あれやばいな。かなりショック受けてるよね」
「ですよね」
 すると三分も経たないうちに、サヌキくんは血相を変えて僕らの下へ走ってきた。一体どうしたというのだ?
「やべぇよ。このパソコンも壊れちまってるよ」
 そんなことあるか、昨日まで動いていたんだから。
「どんな風に壊れてるの?」
「ほら、画面が動かないんだ。見てくれよ」
 そう言いながら彼は、僕にパソコンの画面を見せた。
 そして「動かないだろ?」といって一生懸命に僕のパソコンの画面を、右へ左へ一生懸命指でタッチをしていたのだった。
「………」
 僕とモトミくんはしばし呆然と、彼がパソコンの画面をタッチする様子を眺め、そしてどれだけ彼がiPadを失ったことにショックを受けていたのかを窺い知った。
「あ、あのさ、明日の朝、新しいやつ買いに行こうぜ?」
「おう。あれな。あれはやっぱ必要なやつだわ」
 サヌキマサキ・二十七歳。めちゃめちゃ分かりやすくて、面倒くさいやつ!!

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