壱宍 (若槻きいろ)

気の向くままに言葉を散らす。創作物は全て若槻きいろ名義でしています。

壱宍 (若槻きいろ)

気の向くままに言葉を散らす。創作物は全て若槻きいろ名義でしています。

マガジン

最近の記事

幸あれと願うけども

幸せになりたいですよね、と言われて、すぐに返事が出来なかった。 昨年のことである。ありがたいことに後輩の式にお呼ばれされ、内心嬉々として(見返した写真では表情が無過ぎて気をつけようと思った)久しぶりに会う後輩との会話の一幕である。 幸せってなんぞや。 正直そのときなんて返したかあんまり覚えておらず、喉に引っかかったまま数日過ぎてなんなら年を越した。そして今に至る。 ちなみに年明けにはその件の後輩の式にもお呼ばれされて(今度こそは表情に気を付けて)行ってきた。 着飾った後輩は

    • no pice of bake.

      未練がないと人は生きていけないのかもしれない。 いや、未練があっても終わるときは終わるが。 しにゆく心地でこれを綴っていた。 過去形であるのは書き始めた当初がゴールデンウィークあたりで、現在進行形未だ書いてる現在時点では特段そんな気持ちがないからである。 おかしいなぁ、あんなに先が見えなくて茫然としたのは初めてだったのに。 お先真っ暗ならぬ真っ白。なぁんも決まらないどうなるかわからない。右も左もどうなるかわからない。だから、死ぬのだと思った。 実際は、ちっとも死にやしなかっ

      • 文学フリマ東京36おつかれさまでした。

        最近は機会が多いので、偉いなぁと自画自賛しながらこの備忘録を書いている。いうて日にち経ってしまいましたが。 思えばありしかつてのサイト時代も日記に三ヶ月間隔で書いていた。三ヶ月なのはそんくらいなら内容も溜まってるだろうという魂胆だった。実際はそんなことなく見事にバラついているので、この雑文についても、もう書きたいように書けばよろしいと半ば放置だ。通りがかった皆様もそんな感じで見ていってくれたなら幸いです。 表題通り、文学フリマ東京36に関わった皆様、お疲れ様でした。 会場暑

        • 置いていかれた靴

           毎月300字小説企画  第4回 テーマ 靴  その重さでさえ苦痛だったのだ。  軽やかに走りたいと君は庭先に踏み出す。  裸足で水溜まりを蹴散らして、ほら、と笑う。降り注ぐ雨などものとせず、張り付く服に不快を見せず、ひたすら受け止めようとする顔に言葉が何も浮かばない。  土が跳ねて礫が飛んで白い足を汚してく。例え血だらけになっても構わないのだろう。そうしてすべて置いていくのだ。  踏み石に放置された靴は寂しげで、勝手に仲間意識を持ってしまう。この調子では気が済むまで戻っ

        幸あれと願うけども

        マガジン

        • 雑文
          18本
        • 小説
          9本
        • ss
          37本

        記事

          東京文学フリマ

          備忘録的な意味合いでこれを綴る。 前日にやるとかいいながら結局当日になるのは最早いつもの流れである。諦めと三つ子の魂百までの気持ちで行こうと思う。流石に仕事ではやらないので勘弁して。 幼少の頃より、手の内にあるものを別の形にすること、頭の中身をどうにか具現化することに熱心だった記憶がある。気になるものは兎に角やってみる。親の見様見真似で人形の服を作り、折り紙で需要のない鶴を折り、りんご食べたさにりんごを切っては身内に取られる。 文章を書き始めたのは小学生の時にあったシナリ

          ドーナツの穴

          第一回 本と食べ物エッセイ ドーナツホールについて考える。 穴があるから実質ゼロカロリーだとか、某ボカロの有名曲とか。とかなんとか考えていたら食べたくなるというもの。それが実際カロリーオフにならないとしても、だ。 今回作るのは『さめない街の喫茶店』作者、はしゃさんの作品のドーナツだ。作中、なんなら割と大事なポイントで出てくる。 作った時のポイントは、とにかく捏ねろ。ベタベタとか思う暇があれば捏ねろ。およそどのパン生地作りにもいえるが、粉が水分油分と一体にならなければ、パ

          よまいごと

          ただしいなら、これは真夜中に書くべきなんだろうと思う。 全部曖昧にしてくれるような、真夜中の25時過ぎとか。 しかして私は12時間睡眠後(夕方に寝て起きたら朝だった)にこれを書いている。 こころのなかがすん、としているのだ。 ならばもう致し方ない。 月曜日で怠いながらも電車に揺られ、人混みに紛れ、仕事や学業に時間で押し流される人々を思いながら、 私はこれを書いている。 びっくりしないくらい面白くない話だ。 適当に付き合ってくれなら幸いである。 年齢も約三十路といえる頃になる

          獣のワルツ

          毒をもつのはきっと容易い かような姿は修羅の如く 研がれた刃と牙をもつ ひと在らざる化身なり ひとつ歩めば全てを切り裂き ふたつ行けば荒野と化す 其はうつくしき獣なり そうであるならすくわれた そうであればワタシで在れた 見目ばかりが人だから まわりは勝手に同列扱い 珍品列挙 奇異敬遠 誰もが知らぬ存ぜぬ繰り返す 己に自問を繰り返す ワタシは私に成りました 牙を無くした私など 伽藍とカラの器ばかり 刃を無くした私など そこらの歯車と相違ない ワタシは私に成りました な

          気づかないもの、知らないモノばかりで嫌になるね。 だけども、それを発見と言えたなら。 楽しいと思えたなら、幸せなことだね。 陽が落ちて星が打ちあがる。 路上に散らばった誰かの花束が 死骸のように踏まれていく。 たった、それだけの価値だと言うように。 木漏れ日ひしめく影が幼い僕らを写す。 記憶ばかりが陽の傾く公園で跳ね返ってる。 崩れ落ちたパズルのピースを拾い上げ損ねた。 届かないんだと、しょうもなく泣いていたのはいつだったか。 皮膚から漏れ出る細胞液の行方を捜している。

          黄昏

          瞼に滲んだ、空に仰いだ。 光が、水が、青が、 世界に満ちて、すきとおる。 ねぇ、無花果の花が咲いたよ。 原初のひとが身隠しに使った葉も、 ざらざらして未だそこでめぐるよ。 みえないままそこにあるから、 だれもあなたに気づかなかった。 あなたはとうめいな、やさしいひと。 つめたい風に吹かれることが、 あなたがそこにあると表す。 いつかあたたかな毛布が、 あなたのことを愛してあらわしますように。

          輪郭

          風を撫でるように思い出の輪郭を辿った。 今、頭の中には君と過ごした、 吐き出した言葉たちが泳いでいる。 ふたりの秘密。 それを投げ掛けては、 知らないふりして薄く跡を残している。 同じ場所を、何度も何度も。 ゆっくりと刻みつけて、 深い溝になるように。 言えない言葉の代わりに、 目の前にない、君の輪郭に触れた。

          たましひのかたち

          絵を描くこと、本を読むことが好きだった。 今も好きだ。絵を描くのは、少しずつ減ったけれど。最後に選んだのは、言葉を紡ぐことだった。 字を書いている。 取りこぼしたものを今更取り返すように。 雑に、丁寧に。 ぽろぽろ零れるこころを言葉に 脳裏を掠める屑星を繋ぎ、 か細く紡ぐ蚕の糸は 集めてかき寄せて文となった。 何かを表す、モノになった。 昔から、何かを作ることが好きだった。 子供を抜けて、大人になって、 時間が足りず出来不出来に嘆くようになった。 足りないものだらけなわた

          たましひのかたち

          片道惑星通信

          300字ss 第七十五回 お題:届く  一番最初に忘れるのは、声だという。  三ヶ月に一度、宇宙の果てから一方的な通信が届く。  旅立った君から、はろーはろー、と。  残された僕らに、ささやかな娯楽に似た、ラジオ放送みたいなそれ。  こちらからの手段がない故にその声は片道しかない。連絡するから、と遠距離する人の常套句を言っていたのはいつだったか。ドラマじゃあるまいし、と思ったのを覚えている。  誰もいなくなるこの惑星で、知らずに発する君の声は不本意ながら僕の心を慰めた。

          ミンミン蟬

          Twitter300字ss 第七十一回 眠  ミンミン蟬の鳴き声を聞いてはいけない。  そんな話を祖母から聞いた。冬の寒い山奥では、季節外れの蟬が鳴くという。  一緒にいた姉は可笑しげに鼻で笑った。 「蟬は夏の生き物よ。そんな事あるわけない」  僕もそうだと頷いた。この時までは確かにそうだと思い込んでいた。  ーーみ゛ぃィいんン、み゛ミ゛ィぃいぃん   四方の木々が蝉のような鳴き声で一斉に喚き鼓膜を破壊する。まるで永遠の眠りへ誘うように音が人を喰らう。  劈く

          選と濯

          Twitter300字ss 第六十九回 お題 「選」  こっちがいいと、貴女は云った。毛布が洗えるものがいいと。  二人で選んだ洗濯機は、音を立てながら2LDKの部屋の中で僕を圧迫する。  かつて、この部屋では二人の生活が回っていた。自分のものではない音と匂い。帰宅時に明かりが点いているのが嬉しかった。  今はそこかしこに一人分の物だけが散らばっている。  親しみすぎた匂いだけが残り香となって漂っている。それももう、見慣れてしまった光景だ。  納得はしている。応援もし

          夕顔

           夕顔を見よう、と貴方は言った。  八月最後の週末だった。  なんで、そんな顔見せますか。  新しい品種を手に入れたと年甲斐もなくはしゃぐ貴方に、私は呆れた声で呟く。  茜が落ちてゆく時間に、私たちは一つの鉢を囲んでいた。陰って久しい庭先は案外涼しくて、夏夜と言えど外気は私達の体温を少しずつ奪っていく。  明日の朝には枯れ行くこの花が、どうしてそんなに気を引くのかわからない。  なんで、と漏れた声は近すぎて聞こえてしまっただろう。  きょとん、と目を丸くする貴方は、次の瞬間頬