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稲妻が光る、嵐の夜に思っていたこと

「カミナリ…!」
ちいさな声でそう言って。
息子が、布団のなかでぴたりと私にくっついてきた。

雨が、たくさん降っていた夜。
ざあざあという音。
パタパタと、何かに当たってはじかれる雨粒の音。
窓の外では、絶え間なく音が鳴っていた。

稲妻のひかりが障子越しに入ってきて、ぱっと部屋が明るくなる。
少し遅れて雷鳴も聞こえた。

「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ」

ぴったりくっついてくる息子をなでながら、私は何度もそう言った。

「夢の中まではカミナリさん追いかけてこないからね、ねんねしちゃおう」

そういって、なだめる。

それからしばらく布団のなかで、ぴったり息子とくっついて、雨音と雷鳴を聴きながら。
私はずっと、思っていた。

ああ、こういう時間のことをずっとずっと、覚えていられたらいいのにって。

私の頬に、ぴったりくっついたやわらかな頬の、じんわりとした熱さ。
部屋がぴかっと明るくなるたび、カミナリの音がするたび、私の服を掴むちいさな手に、きゅっと力が入ること。

その頬の温度を。
ちいさな手の、ほそい指の、感覚を。
耳もとでだんだんと聞こえはじめた寝息を。

私はね、ずっと覚えていたいよ。

音楽を録音して再生するみたいに。
どうにか保存して、いつだって好きなときに、また感じて、触って、聴いて
そうやって思い出すことができたらどんなにいいだろう。

いつか、きみも、私といっしょに眠らなくなるんだろう。
きみの手は、ぐんぐん大きくなっていって、手をつなぐこともなくなるね。
同じ布団どころか、同じ家で眠ることもなくなるのかな。

そのときに、この日のことを思い出したら……きっと、私は泣いてしまう。

それでも、覚えていたいよ、ずっと。

嵐の夜。
降り続く雨の音と、カミナリの音を聴きながら。

私のほうが、きっとこの時間があったことに、これから先、何度も助けられて、支えられていくんだろうな。

そんなことを、考えていた。


読んでいただきありがとうございます◎ 日々のなかに、やさしさと明るさを、さがしていきたいです。