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【E3 2019】クラウドファンディングはゲームにとって、本当に「革命」だったのか

 このゲームマガジンを購読している人からは、いったいどんな記事が期待されているのだろう。ゲームレビュー? それとも個人的なゲームの思い出語り?  かたや自分はふだんの仕事で、いわゆる業界動向的な記事も執筆している。そういったジャンルの記事もまた、プロのゲームライターの仕事の1つだから。

 今回はそうした業界動向的な視点から、先日開催された「E3 2019」で明らかになった2つのトピックについて語ってみたい。その2つのトピックはいずれも、広い意味でクラウドファンディングに関わるものだ。

『シェンムーIII』PC版のEpic Games Store独占は、さすがに無理がある

 ……という前振りから予想がつくかもしれないが、まず1つ目は『シェンムーIII』のPC版がEpic Games Storeでの時限独占販売になったと発表された件だ。

 Kickstarterのページでの概要を見ると、たしかに「PC」と書かれているだけでプラットフォームの指定はないが、どうやらバッカー(出資者)がPC版のデジタルコードを選択する際に「PC(Steam)」と明記されていたらしい。クラウドファンディングで出資を募った際の条件を、後から変更するのはさすがに無理があると言わざるを得ないだろう。

自分はパシフィコ横浜でのお披露目時から『シェンムー』のファンだし、今でも『シェンムーIII』には期待している(E3デモの動画を見て、2019年のゲームであそこまで昔どおりのまったりとした雰囲気を醸し出せるのは、ある意味で感動した)。しかし、そういったゲームそのものに対する期待とは別に、今回のストアの件に関してはファンの1人として残念に思う。ただ、その後に発表されたコメントを見ると、何か対応策を考えている気配も伺えるので、今後の展開に注目しておきたい。

【2019年7月2日追記】『シェンムーIII』PC版のリワードについての対応が発表された。返金も含めた明確な対応が示されていると思う。

インディゲームの代表格だった“Double Fine”が、Xbox Game Studiosの一角に

 そしてもう1つのトピックは、「Xboxブリーフィング」で行われた、Double Fine ProductionsがXbox Game Studiosの一角としてマイクロソフトの傘下に入るという発表だ。

 この件に関しては、海外はともかく日本ではもう、本当にビックリするほど話題になっていない。この記事を書く下調べを兼ねて軽くググってみたら、発表直後に自分がツイートした文面ぐらいしか出てこなくて、思わず苦笑したほどだ。まぁ、そもそもDouble Fineのゲームって、ほとんどローカライズされていないからねぇ……。

Double Fine Productionsは、かつてルーカスアーツで『Full Throttle』『Grim Fandango』などの個性的なアドベンチャーゲームを制作した開発者、ティム・シェーファー(Tim Schafer)氏が独立して、2000年に立ち上げたゲーム開発会社だ。

 デビュー作の『Psychonauts』は初代Xboxの末期に発売されたため、当然ながら日本未発売だった(今はXbox Oneの互換などで、英語版ながら日本でも遊べる)。そのため日本ではまったくと言っていいほど知名度がないが、海外ではカルト化している作品だ。じつはこの作品の続編が、今回のMSによる買収にも影響しているのだが……詳しくは後ほど(有料部分ですが)。

 Xbox 360の時代には、ジャック・ブラック主演のヘビメタアクションアドベンチャー(でも日本未発売)の『Brütal Legend』や、ハロウィンが舞台のキュートなRPG(でも日本のXboxアーケードでは未配信)の『Costume Quest』、こちらは日本のXboxアーケードでも配信された『Iron Brigade』などを、コンスタントにリリースしている。日本でいちばん知られているDouble Fineのタイトルはおそらく、『マニアックマンション』や『モンキーアイランド』を生み出したロン・ギルバート(Ron Gilbert)氏による『運命の洞窟 THE CAVE』だろう(ただしPS3/Wii Uの日本版はすでに配信終了)。

 2012年、Double Fineはある1つのプロジェクトによって、ゲームの歴史にその名を刻む。この当時じわじわと認知度が上がっていたKickstarterで、新作ゲーム「Double Fine Adventure(仮)」(後に正式タイトルが『Broken Age』に決定)の制作資金を募ったところ、330万ドルを超える支援が集まって、当時としては記録的な成功を収めたのだ。そう、ゲームの制作資金をクラウドファンディングを使って集めるビジネスモデルを、世間に広く知らしめたディベロッパーが、このDouble Fineなのである。

 Double Fineの成功がなければ、後の『Mighty No.9』も『Bloodstained』も、そして『シェンムーIII』も、クラウドファンディングを利用した形で制作されることはなかったはずだ。もう少し踏み込んだ言い方をすると、大手パブリッシャーの干渉を受けずにディベロッパー自身が作りたいものを作るという、インディゲームの制作スタイルが今のように広がっていく上で、Double Fineは非常に大きな役割を果たしているし、Double Fine自身もインディゲームを代表するディベロッパーの1つとして認識されていた。

 そんなDouble Fineがいきなり、ハードホルダーでもある世界的大企業のマイクロソフトに買収されて、その傘下に入ったのだから、これは業界的に大事件だと思うのだが……。

 というわけで、ここから先の有料部分では、Double Fineの買収から見えてきたXbox Game Studiosやインディゲーム・ディベロッパーの現状と、そこからもう少し踏み込んだクラウドファンディングとゲームの関係について、自分なりの視点で語ってみたいと思う。

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