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「白いページ」の頃

 昔の話である。
 大学時代、友人に聞かれた。
「開高健の『白いページ』を読んだか?」
 私は、左右に首を振った。
「これこそ、一流のエッセイだよ。小説家を志す人間には必読だ。読め」
 小説家志望が集まった学科の教室だった。ふつうならいいそうもないことを、平気でいう。そしてそういう人間にありがちな、思いあがった断定口調だった。

 数ヶ月後、教室でその友人にまた聞かれた。
「開高健、読んだか?」
「いや」
 私は答えた。
「駄目だな、きみは。見込みがない」
 見込みがないといわれた。
 いやいや、人には好みというものがあり、いきなり現れて、押し付けられても困る。当時の私のなかでは、開高健の優先順位はそれほど高くなかった。芥川賞の「裸の王様」は読んでいたが、「オーパ!」とか「オーパ! オーパ!」の作家だと思っていたのだ。

 数十年後、私は「白いページ」を読んだ。友人のいっていることが正しかったことを知った。

 私は、いつも遅すぎるのだ。


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