私たちは長いあいだ、ここにいる。
ここにいて、ものごとの移り変わりを見ている。
私たちは本が好きである。本には、手触りがあり、においがある。思い出がある。これは、電子書籍にはない美点だと思う。
図書館の入口にある、丸テーブルに新刊本が置かれると、生徒がわっと群がる。校長先生の寄贈本も並べられた。
ここはエアコンが入っているが、急にはあたたかくはならない。特に、今年の冬は寒かった。
冬が終わると、春がまたくる。中庭のベンチは、砂でざらざらしていることだろう。体育館の床もざらざらしているかもしれない。
卒業の季節である。
本が好きで、ばたばたと足音をたててはやってきていた生徒の一部は、こなくなるだろう。失われたわけではない。すうっと翼がはえて、巣立っていったのだ。そういえば、ここにきて、目を輝かせて本を捜し、しょっちゅう借りていた数学の先生がいたが、来年はこなくなる、という。
定年だからだそうだ。
先生が学校からいなくなるなんて、考えてもみなかった。先生はいつまでも学校にいるものだ、と思い込んでいたのである。
生徒が卒業して、数年後、何かのきっかけで、学校にやってきても、先生はいない。
失われたわけではない。すうっと翼がはえて、巣立っていったのだ。
私は、誰か? いつも図書室にいる。フフ。
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