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「学生街の喫茶店」の喫茶店

 個人経営の昔ながらの喫茶店のことを書いていて、ふと思い出したことがある。いまでこそ、喫茶店に悪い場所というイメージを持っているひとはいないだろうが、その昔、私たちが高校生のころは、喫茶店に行くことは不良になることだといわれて、禁止されていた。
 いまとなっては、よくわけのわからない話だが、うそではない。1970年初頭、「学生街の喫茶店」という曲が流行ったが、その喫茶店という言葉には、当時の若者たちの反体制的な政治運動のニュアンスが感じられる。喫茶店は、当時、ヒッピーやフーテンたちの溜まる場所、というイメージがあったのである。
 まあ、私がいた埼玉の田舎では、そんな人種が出入りしていたとは思えないのだが、喫茶店のイメージとしては、定着していた。 
 そういえば、当時は喫茶店のことをサテンと短縮して呼んでいた。
 たしか三田誠広さんの学生運動を題材にした小説、芥川賞受賞作の「僕って何」の登場人物も、喫茶店のことを「サテン」と呼んでいたように記憶している(手元に本がないので、たしかめられない)
 「学生街の喫茶店」が聴かれなくなって、しばらくたっても(私が高校生だったころも)、そのイメージはまだ、根強く残っていた。
 そのイメージがいつ覆ったのか、実証できないが、皮膚感覚的にいうと、マクドナルドが本格的に進出してきたからではないかと思う。
 かつて、知り合いから、とある女子校の生徒手帳を見せてもらったことがあるが、下校時に立ち寄ってはいけない場所として、マックの名前が明記してあった。

 それはともかく、喫茶店にそんなイメージがあったなんて、忘れ去られていく歴史だろうし、時代の奥底に、流されていってしまうことだろう。
 そういう時代があったのだ、ということをここに記しておきたい。

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