裏地考 (そして、和綿の話)

裏地は、舞台。
舞台上では役者が「動」のパフォーマンスを披露するように、バッグの中では主役級の "物" が「静」のパフォーマンスをとります。"物" というのは、バッグの中なら、可愛らしい化粧ポーチや立派なレザーで仕立てた財布。化粧ポーチなら、美しいケースの化粧品です。みな、主役級の、惚れた "物" たちです。

ステージいっぱいに豪華なセットが組まれた様子は華やかですが、役者が出てきても分かりづらく、演者が多いほど、誰がどこにいるのか、視線をせわしなく移動させて疲れてしまいます。逆に、簡素な芝居の舞台では、一つの箱を椅子として座っていたかと思えば、次のシーンでは山の頂上になったりと、役者の動き一つ一つが眼前に突きつけられます。役者が何をしているのか一目瞭然であるのと同じで、バッグを開いた時に、一目惚れして購入したポーチの姿を一見で捉え、次の作業に素早く取り掛かれる、これが理想だと考えています。そのためには、裏地の布地には無地か無地に近い控えめな模様のものを選択することが必要です。

裏地を比較的派手な模様の布地で仕立てるには、まず、何を入れるのかを明確に設定してから柄を選ぶことが大切であります。入れるものが迷彩柄のようにカモフラージュされてしまわないか検討する必要があります。

これは、作品を販売し、不特定多数の人々に使ってもらうことが前提の話で、自分で使うものや親しい人に贈るものなら、製作のモチベーションを保つためや、その人の好みを考慮し、愛らしい柄を選択する事も大切と考えます。

裏地考 ― 終

弦倉では、ある店の欧州産リネンを裏地に使っています。
この店は縫製をしていた時に知り、いつか使いたいと思っていたのですが、幾分価格が高めで、縫製の材料として採用すると作品の価格が跳ね上がってしまうので躊躇していました。今回はビーズ編みの小さい小物入れの裏地なので、即座に注文し、採用を決めました。
手に取ったこのリネンは、黄みを加えた明るい灰色で、控えめな光沢が美しく、とてもハリがあり、量産品のウォッシュドリネンくらいしか触ったことのないわたくしを驚かせたのです。

以前に見に行った展覧会で、昔のリネン製の衣類の展示がありました。美術館で展示されるものだから、ある程度の身分の人が纏っていたものなのだろうと思いますが、良好な保存状態で、美しく展示されていたのです。
その後、リネンとはどのようなものか調べ、リネンは長持ちするという印象を持ちました。

リネンは農薬に頼ることもなく、大量の水や肥料を撒いたりしなくとも育つ丈夫な植物で、捨てるところの無い、いわば環境保全に有効な植物。イギリスの小説に「リノリウムの床」という表現が間々あり、このリノリウムの材料がリネンであることを知った時、ヨーロッパとリネンの深い仲を垣間見たような気がしました。

裏地を決める際に、リネンの他に、コットン (木綿) も検討しました。以前の縫製活動で木綿を主に使っていたので、素材の良さは理解していましたが、上の理由から欧州産リネンに決めました。

少し話がそれますが、縫製をやっていた時に綿を理解しようと、和綿の栽培をしてみたのです。
知識は付け焼刃で、庭の土に少しの石灰を撒いて土づくりをしましたが、種を蒔いてからは殆ど何もせず、ただ見守っているだけで、小さくふっくらとしたコットンボールが出来て、えらくびっくりした感情がいまだに記憶されています。

育てたのは、原綿と言われる「茶綿」と、栃木の「真岡木綿」(画像のもの) の2種。真岡木綿とは織物の名だけではなく、植物の品種名にもなってたことにも驚きですね。「会津木綿」も織物の名であり品種の名でもあるようです。

オーガニックコットンの記事を読むと、棉 (植物の綿) は農薬をたくさん使い、周辺に住む人たちへの健康被害も甚大だと書かれていますが、それは、こぼれんばかりの長い繊維を生む洋綿の話で、和綿は案外あっさり育つようです。農薬も使わなかったので、自称オーガニックコットンです。環境があまり変わらぬ栃木の品種を育てたのも、手間がかからなかった理由の一つかもしれません。(埼玉にて栽培)

それなら、今後の衣類品は和綿にシフトすればいい、とも思いますが、和綿の繊維は短く、収穫量も少ない。上の画像のように小さいぽんぽんしか採れませんし、繊維が短く、短距離で繊維同士を絡めないと切れてしまいますので、細い糸が作れません。和綿は現在の衣料を担えるほどの実力は期待できないのです。Tシャツの価格に0 (ゼロ) が一つ増えてしまいますね。

数年前に日本の木綿の歴史についていくらか調べたので、時機をを見てまたnoteにまとめたいと思います。(画像は棉の花。棉はアオイ科なので、葵やハイビスカスに似てます。)

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2017年晩秋に出会ったビーズ編みに日々精進しています。

見つけてくれて、ありがとう!
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