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戸籍にまつわる若干のこと 1

 こんにちは! 記述式不登法制作担当の筒井です。

 記述式不動産登記で,相続絡みの問題を解く際,添付情報の戸籍の扱い方に迷う受験生の声をときどき聞きます。
 相続による権利変動を証する公文書として戸籍は重要ですが,その内容や仕組み自体は不動産登記制度と直接の関連はなく,記述式対策講座等でも詳細に取り上げられることはないからでしょう。

 そこで,添付情報の解答に際して,情報一覧から戸籍の証明書を選ぶときの土台となる考え方を,ざっくりまとめてみましょう。
 全3回連載の長丁場になりますので,添付情報の細かいところまでは手が回らない方は読み飛ばしていただいて構いません。
 戸籍のモヤモヤがどうにも気になる方,添付情報も仕上げて0.5点でも伸ばしたい方は,ご一読ください。

■ 全部事項証明書と謄本,抄本等

 まずは,戸籍に関する概念を確認します。

 「謄本」とは,原本の全部を転写し,これに公務員が「原本と相違ない」旨の認証を付したものをいいます。

 他方,「抄本」とは,原本の一部を転写し,認証を付したものです。
どちらも,原本の内容を証明するものですが,全部か一部か,が謄本と抄本の違いなのですね。

 謄本・抄本というときには,原本が紙で調製されていることが前提となっています。
 しかし,平成6年に戸籍法が改正され,現状,多くの自治体で戸籍はコンピュータシステム化されています。
 つまり,多くの自治体において戸籍簿の原本は物質的な文字情報として存在せず,その内容を証明するには,電磁的なデータを文字化して印刷しなければならないわけです。
 そこで,コンピュータ化された戸籍について,従前の謄本に対応するものを「全部事項証明書」,抄本に対応するものを「個人事項証明書」又は「一部事項証明書」と呼んでいます。
 縦書きか横書きか等の違いはありますが,内容的には謄本=全部事項証明書,抄本=個人(又は一部)事項証明書と考えて差し支えありません。
 諸手続等で,全部事項証明書を提出したところ,「これではなく謄本を出してください。」などとゴネられることはまずないでしょう。不動産又は商業登記の証明書の取扱いと同じですね。

■ 戸籍の編製

 現行戸籍は,夫婦及びこれと氏を同じくする未婚の子をひとかたまりとして編成されています。

 次に示す全部事項証明書の見本をみてください。

 本籍,(筆頭者の)氏名,戸籍事項の下に,戸籍に記載されている者として太郎から順に6名が記載されています。
 婚姻の項から太郎と梅子が夫婦で,その他4名はいろいろ複雑な事情があるにせよ同氏の子であることがわかります。

 身分事項の細目は措いて,ここで注目してほしいのは,戸籍の最小単位は,実線で区切られている「戸籍に記載されている者」すなわち個人であるというところです。
 「甲野太郎を筆頭者とする戸籍」といえば,通常,上掲の全部事項証明書を指しますが,例えば単に「甲野梅子の戸籍」といったときには,文脈によっては梅子の個人事項のみを指すこともあるわけです。

■ 除籍とは

 在籍者のうち,ある個人にかかる情報が,その戸籍内において不要となり,以後記録されなくなることを「除籍する」といいます。
見本中,甲野太郎は死亡して除籍されたことがわかります。このような在籍者の除籍は婚姻,養子縁組等によっても生じます。

 さらに,1つの戸籍内に記録されている者の全員が除籍されたり,本籍を他の市町村に移した場合の(元の)戸籍のこと指して「除籍」ということもあります。
 通常「除籍謄本」はこちらの意味となり,「除籍」にも文脈に応じた2つの意味があることに要注意です。

■ 改製原戸籍

 法令の改正等により,戸籍の様式が変更された場合,戸籍の全部が新様式で作り替えられます。これを「改製」といい,改製前の元の戸籍を「改製原戸籍」といいます。
 直近の改製は先に述べた平成6年改正のコンピュータ化によるものです。
具体的な改製時期は自治体によって異なり,見本の戸籍では,戸籍事項欄からコンピュータ化改製が平成11年に実施されていることがわかります。

■ 本籍とは

 本籍とは,「戸籍の所在場所」と定義されます。しかし,これではよくわかりません。
 本籍地が所在する行政区域によって,その戸籍を管掌する市町村が定まります。
 他方,本籍をどこに置くかは任意で,現住所に限らず,他人の所有地や,既に他者が本籍を置いた場所でも構いません。
 そのため,甲子園球場や東京ディズニーランドの所在地を本籍としている人も多いそうです。
 結局,現代において本籍とは,戸籍の筆頭者氏名と相俟って,特定の戸籍を検索するための一要素に過ぎないといえるでしょう。

 「現代において」といいましたが,かつて本籍と住所は当然に一致した時期もあったようです。
 明治時代,戸籍は身分登録と住民登録の機能を併せ持つ制度として発足し,当時の戸籍の記載例には,「本籍欄には住所を記す」という指示があったそうなのです。
 その後社会情勢の変化等に伴い,本籍から次第に住所の意味が薄まっていったのが実状のようです(大正4年施行寄留法,昭和27年施行住民登録法,昭和42年施行住民基本台帳法)。

 しかしながら,本籍が住所を意味した頃の名残は現代の登記実務にも残っています。
 現行実務では,本籍≠住所が通常であり,戸籍だけでは住所が明らかにならないという理由で,相続登記の際,戸籍の被相続人と登記名義人の同一性を証するために,本籍が記載された被相続人の(除かれた)住民票の写しも添付するのが一般的です。
 しかし,この取扱いの元となった実例では,「被相続人の登記上の住所と本籍が異なる場合には」と留保をつけた上で,住所を証する書面を添付せよとしています(登研126号質疑応答)。
 逆からいえば,登記上の住所と本籍が一致する限りにおいては,わざわざ住民票記載の住所を確認せずとも,被相続人の同一性を認定して構わない,つまり本籍=住所もあり得るのが前提認識なのです。

 次回は,いよいよ添付情報一覧から戸籍の証明書を選ぶときの実際を考察します。
(つづく)

伊藤塾 司法書士試験科 筒井一光

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