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「損害を及ぼすおそれ」はある?ない?~白熱教室・答案構成力養成答練(商業登記法)ライブ講義の片隅で

こんにちは。
記述式答案構成力養成答練(商業登記法)の問題作成者の杉山潤一です。

現在、記述式答案構成力養成答練(商業登記法)も、東京校で実施されているライブ講義は第4回で、全6回中の後半戦を迎えているところです。私も、問題作成者として、ライブ講義終了後の教室で受講生の質問受けをしているところです。そこで、今回は、そのライブ講義の質問受けでのある受講生からの質問について解説をしてみようと思います。

【質問】
会社法322条1項における「種類株主に損害を及ぼすおそれ」の有無については、どのように判断すればよいでしょうか。

【回答】
記述式問題(商業登記法)を解く際に、種類株主に損害を及ぼすおそれの有無の判断が問題となる場合には、試験対策上、以下の①から③までによって処理すれば十分であると考えます。
 まずは、問題文中に「……は、……の種類株主に損害を及ぼすおそれがある(又はない)」等の記載があるかどうかを確認し、その記載に従って処理する。
 問題文中に①の記載がない場合に備えて、種類株主に損害を及ぼすおそれがある「典型的な事例」を理解しておいた上で、その事例に該当する場合には、種類株主に損害を及ぼすおそれがあるものとして処理する。
 ①及び②のいずれにも該当しない場合には、種類株主に損害を及ぼすおそれがないことが明らかであるときを除き、種類株主に損害を及ぼすおそれがあるものとして処理をする。

【解説】
種類株式発行会社が会社法322条1項各号に掲げる行為をする場合において、種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、種類株主総会の決議が必要であるとされています(会社322条1項)。受験生としては、まず、会社法322条1項各号にどのような行為が掲げられているかを把握しておく必要があります。

その上で、問題となるのは、「その行為が種類株主に損害を及ぼすおそれがあるかどうか」の判断となります。この判断は、実務上においても非常に難解とされています。というのも、仮に、不適当な判断によって種類株主総会の決議による承認を得ていなかったとすると、裁判等によって株式会社の行為が無効であることになってしまうこともあるからです。ですから、実務上も、会社法322条1項各号に掲げる行為をする場合には、種類株主に損害を及ぼすおそれがないことが明らかである場合を除き、すべての種類株式の種類株主総会の決議による承認を得ることによって、その行為が無効となることのないように運用することが通例となっています。

このように、実務にあっても非常に難解な判断を受験生に強いるということは、試験問題として非常に酷なものであり、想定しがたいものであると考えます。

そこで、問題作成者としては、【回答】で示したように、まず、①問題文の指示がある場合には、その指示に従い、②常識的に判断することができる典型的な事例である場合には、その常識的な判断に従い、③常識的に判断することができない事例である場合には、種類株主に損害を及ぼすおそれがあるものとして、処理することをお勧めいたします。

そこで、②常識的に判断することができる典型的な事例とはどのようなものであるかが問題となりますが、それほど難しく考える必要はありません。ここでは、例えば、登記記録に以下の記録がある種類株式発行会社が以下の(A)から(E)までの行為をする事例で考えてみます。

発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容
普通株式 9000株
優先株式 1000株
当会社は、剰余金の配当をする場合には、普通株式の株主に先立ち、優先株式の株主に対し、優先株式1株当たり金100円の剰余金の配当をする。

(A)優先株式について株式の分割をする場合
普通株式に先立って優先株式に配当される配当財産が増加してしまうため、普通株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあると考えらえます。

(B)優先株式について株式の併合をする場合
優先株式に配当される配当財産が減少してしまうため、優先株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあると考えらえます。

(C)優先株式の配当優先額「金100円」を「金200円」に変更する定款の変更をする場合
普通株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあると考えらえます(理由は〔A〕と同様です)。

(D)優先株式の配当優先額「金100円」を「金50円」に変更する定款の変更をする場合
優先株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあると考えらえます(理由は〔B〕と同様です)。

(E)「優先株式の株主は、株主総会において議決権を行使することができない。」との条項を追加する定款の変更をする場合
優先株式の種類株主が株主総会において議決権を行使することができなくなってしまうため、優先株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあると考えらえます。

さて、いかがだったでしょうか。それほど難しく考えなくても、上記の(A)から(E)までのような事例であれば、何とか判断することができるのではないでしょうか。

問題作成者としては、むしろ、受験生各位が種類株主に損害を及ぼすおそれの有無の判断に貴重な時間を浪費してしまうことこそを危惧しています。なぜならば、受験生各位には、各人の置かれた状況に応じて、もっと重要なやるべきことがあると考えるからです。なお、種類株主総会の決議(又は種類株主全員の同意)の要否については、明確に条文上規定されているもの(会社111条等)をこそ忘れないようにご注意ください。

それでは、記述式答案構成力養成答練(商業登記法)も残すところあと2回です。受講生各位のより一層の奮励努力を祈念しております。


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