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翻訳古典小説無料版

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#小説

覇者の愉悦~『ボルジアの裁き』より

覇者の愉悦ⅰ  チェーザレ・ボルジアの権力と栄光は最盛期にあった。既に彼は裏切り者の傭兵隊長たちの始末を済ませていた。その者たちは反旗を翻し、一時は彼の動きを封じて覇道の歩みを遅らせたのみならず、その覇業を無に帰させしめる危険性すらあった。彼はシニガッリアに仕掛けた罠に鳥もちを塗り、そして――フィレンツェ共和国の書記局長マキャヴェッリの言葉を借りれば――楽しげな口笛を吹いて其処に彼らを誘い込んだのである。彼らが容易く誘い出されたのは、己の立場を誤解し、自分たちが猟師であり

『スカラムーシュ』英国オリジナル版 第Ⅲ部 第ⅳ章 幕間狂言

はじめに今年は英国で "Scaramouche" が刊行されてから丁度100年ということで、日本で翻訳刊行されたバージョンからはカットされている章、オリジナル版では第Ⅲ部第3章「議長ル・シャプリエ」と第4章「ムードンにて」の間にはさまっていた CHAPTER IV. INTERLUDE をざっと訳してみました。 オリジナル英国版についてはこちら↓ 第Ⅰ部 第1章の未訳部分についてはこちら↓ 第Ⅲ部 剣  第ⅳ章 幕間狂言 数日後、ル・シャプリエがアンドレ=ルイの許に返礼

『スカラムーシュ』英国オリジナル版第Ⅰ部第ⅰ章 共和主義者 冒頭

はじめにラファエル・サバチニの代表作『スカラムーシュ』は英国で刊行されたオリジナル版とアメリカで刊行された短縮版の2バージョンが存在したのですが、流通量的には圧倒的に米国版が多く、現在では英国内で新たに刊行される際は米国版を底本としている模様。 海外で翻訳される場合の底本もほとんどが米国版で、日本で現在手に入る大久保康雄 訳と、加島祥造 訳はどちらも米国版が元になっており、恐らくこれまで英国オリジナル版が翻訳された事はないのではと思われます。 五年ほど前にこの件を知り、続

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(10)レマン湖

Ⅹ. レマン湖 黄色の大型四輪馬車は大過なくヴォランに到着し、其処で馬を交換した上で、また旅を続けた。更に5マイルを行った処で、ラサールが行動を起こすに至った推論を充分以上に裏付けるかのように、竜騎兵隊と三名の文民がやって来た。彼らの姿を目にしたラサールは、騎乗御者に指示を与える為に窓から身を乗り出した。 「不審尋問された時にはだ、いいかい、君が知っているのは、これだけだ。君はディジョンから来た。これは事実。そして出発からここまで、客は俺しか乗せていない。君が金を手に入れて

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(9)追跡

Ⅸ. 追跡 ド・バッツの決断が下されたのが、極めて差し迫った時点であったのは明白である。  政府の要員中、少年の逃亡を知らされていた者がどれだけいたのかは正確にはわからないが、少なくともバラスとフーシェは事態を把握し、後者が極めて困難な捜索を行なっていたのは確かである。ド・バッツの読み通り、公共の安全【註1】という名目の下に放たれた密偵たちが、捜索対象である少年の正体を告げられていたとは考え難い。恐らく彼らは、偽のルイ十七世を擁立する王党派の陰謀があると説明され、黄色い髪と

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(8)絵筆に別れを

Ⅷ. 絵筆に別れを ラサールは、彼自身に責任を帰すべき現在の状況に不安を感じてはおらず、彼が何らかの保身策を講じたり、それまでの生活様式を変更したような形跡は見られなかった。  自らの愚行によって立場の危うくなったショーメットは、沈黙を破って己の首を危険にさらすような挙には出ず、それどころか保身の為に、シモンの私欲のお陰で失敗したと思い込まされたぺてんを取り繕い続けるはめに陥っていた。ラサールによって容赦なく騙されたシモンは、実行に移せばあの画家もろともに自分自身もギロチン

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(7)誘拐犯たち

Ⅶ. 誘拐犯たち シモン夫妻に新居としてあてがわれたのは、タンプル門からは目と鼻の先、元はテンプル騎士団の馬屋であった粗末な小屋の、その二階にある三部屋から成る貸間だった。手押し車を転がしながらのラサールの道行きも、当然の事ながら短いものであった。  母性的なマリー=ジャンヌは、薬物を飲まされた上に窒息しかねぬ扱いを受けた子供の身を案じ、我が目で安全の確認をしたいと切望して、シモンの強硬な反対にあった。彼女の方もまた、容易に屈服はしなかった。タンプル塔で不測の事態が発生して

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(6)手押し車

Ⅵ 手押し車 革命暦第Ⅱ年雪月30日、キリスト教暦でいえば1794年1月19日、それはショーメットによって指定されたシモン夫妻のタンプル塔からの退去日だった。そしてショーメットは、彼に代わる新たな教育係は必要ないとの決定を下していた。彼はコミューンに説明した。少年の指導は既に十二分に行われた。それを延長する事は国家資源の無益な浪費である。コミューンの議員から毎日四名が当番委員として監守し、その内二名が二十四時間毎に交代する、それ以上は必要ない。  充分な根拠のある提案は諸手

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(5)傀儡師

Ⅴ 傀儡師 ラサールは罠に餌を付け、騙され易いアナクサゴラスが、その中に足を踏み入れるように誘導した。彼はあらゆる難所に対する解決策を用意し、あらゆる障害を回避する道を示して見せた。彼が選択した曲がりくねった道には、そのような難所や障害が少なからず存在し、それらの中には、当初はド・バッツの知性をもってしても克服不可能と思われていたものも、幾つか含まれていた。  代理官が挙げた問題点の内、最後の一つに対する解決策を与えた時、この役人はラサール自身も確かにそれは高い評価であると

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(4)代理官ショーメット

Ⅳ 代理官ショーメット「市民ショーメットに会うといい」フーシェからそのように告げられたラサールは、その助言に従うように、翌日、ショーメットとの接触を試みる事になった。  コミューンの代理官を待ち伏せする目的で、さりげない風を装いつつ、テュイルリー宮のホールをうろついていた若い画家は、件の要人から声をかけられて、人の少ない場所に連れ出された。 「君がフーシェに話した、小カペー誘拐の陰謀というのは、どんな内容なんだね?」 「ああ、その事ですか!多分根も葉もない噂ですよ」

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(3)市民ジョゼフ・フーシェ

Ⅲ. 市民ジョゼフ・フーシェ ド・バッツとラサールの共謀の結果として、革命暦第Ⅱ年雪月初旬――キリスト紀元でいえば、1793年12月の終わり近く――のある日、この美術学生は、サントノーレ通りの薄汚い建物の四階まで階段を登る事となった。愛想は良いがやつれた面持ちの若い女性がノックに応えてドアを開けると、彼は市民議員ジョゼフ・フーシェ【註1】は御在宅でしょうかと尋ねた。  予定された作戦の足がかりとなる人物として、ド・バッツはショーメットに狙いを定める事に決めたのだが、丁度、そ

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(2)男爵ジャン・ド・バッツ

Ⅱ. 男爵ジャン・ド・バッツ 十月同日の夜、アルマンチュー男爵ジャン・ド・バッツは、ショワズール公爵邸 【註1】の裏、メナール通り某所にある、豪奢だが落ち着いた部屋で書きものにいそしんでいた。彼はカーテンを引いて蝋燭の明かりで作業しており、室内では暖炉に赤々と火が燃え盛り、丸太に混じった松毬の発する芳香が漂っていた。  この驚嘆すべき人物、当時のヨーロッパにおいて、最も果敢に王党派を利する為の活動をしていた男は、秘密工作員としては類を見ぬ豪胆を備えていた。彼はまるで、危険に

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル 第一部(1)ルイ十七世陛下

Ⅰ. ルイ十七世陛下 コミューン【註1】の代理官アナクサゴラス・ショーメット【註2】は、自分に任せれば国王をひとりの人間に作り変えて見せると自信満々に断言していた。  長椅子に座って短い脚をぶらぶらさせながら、時に支離滅裂になりつつも、下賎な表現を用いて雄弁に陳述している亜麻色の髪をした器量良しな八歳の少年。市民ショーメットは、己の崇高なる錬金術の成果をじっくりと眺めた。それは彼の心からの信念を裏付けるものだった。すなわち、例え王族のように堕落した救いようのない素材であろう

マーク・トウェインの『恐ろしい中世のロマンス A Medieval Romance』

第一章 秘密の露呈 夜であった。静寂がクルゲンシュタイン領の雄大な古城を支配していた。1222年は終わりに近づいていた。遥か遠く、城の最も高い塔に明かりがひとつ幽かに光った。其処ではある密談が行われていた。クルゲンシュタインの険しく年老いた貴人は椅子に座し沈思していた。やがて彼は、優しげな口調で言った。 「我が娘よ!」  頭から踵までを騎士の鎧で覆われた気品のある若者は、答えた。 「お話し下さい、父上!」 「娘よ、そなたの若き生を混乱せしめた謎の全てを明らかにす