見出し画像

カモシカとの出会いから生まれた 23AW collection

10月1日より今年の秋冬コレクションをリリースしました。
今回のテーマは「冬のカモシカ」。

数年前の大雪の時期、私は怪我をしたカモシカと出会いました。足を怪我していたようでした。
彼女(彼?)は、お隣のKさんの納屋に雪から逃れて、数日間、そこに住んでいました。

その間に何度か山に帰ろうとしている様子もありましたが、ふかふかの降りたての雪の上は、怪我をした足では素早く歩けず沈んでしまうようで、とても難儀していてかわいそうでした。

私と子供たちは野生のカモシカ見たさに納屋に近づいていきました。彼女はとてもおとなしくて、私たちが近くに行っても、逃げようとすることなくじっとこちらを見ていて、目と目がしっかりと合っていました。

その時、私は初めて知りました。カモシカの纏う毛の多彩なグラデーションがあんなにも豊かで美しい表情をしていることを。
体を覆う毛は私の持っている日本語の色の名前では表現しきれないような、鼠、墨、漆黒、そんなふうに変化していく。
特に足は、ヒズメにかけて黒々とした色合い。街灯のない新月の日の真っ暗闇の空のように沈んでいくような濃い黒だった。一方で、艶々とした爪は、あたかも、上質な黒革のパンプスのようでもあり、カツカツカツと三和土を歩く音は、それを履いた女性を思い浮かべるのに十分な要素を与えてくれた。

私はいつかこの美しさを取り入れたコレクションを展開したいと思ってきた。

いつか・・・それはいつ・・・と思い続け数年を経た。

そして今年、ようやく、それが形になった。

Itoshiro Yohinten

2023AW collection

しんしんと降り積もる雪。
ある冬の日、
山から降りてきたカモシカに出会った。
想像以上に多彩・多色な彼女の毛は
私の知る色の名前では表現しきれない
グラデーションが美しく、
洒落たコートを纏っているかのようだった


怪我をしたカモシカは数日の間、納屋に住んでいました。その間、Kさんの納屋に保管してあった白菜を食べていました。それを知って、Kさんは言いました。「かわいいでなぁ(かわいそうだからな)。食べてもらってもかまわんわ」。80代でも現役で日々動き回るKさんは除雪のためにスコップを持って現れたのでした。

私はいつもKさんにたくさん白菜をいただいてそれを漬物にさせてもらっています。冬の主食は白菜とお肉を漬けた肉漬け。ああ、Kさんは、私たちにも、そしてカモシカにも平等にしているんだな、そんなふうに感じたのです。

急にカモシカとKさんが重なり、カモシカと私たちが重なり、そして果てには、全ての自然の中にカモシカとKさんと私たちがいるだけなんだな、という気持ちに。全ては溶け合っているのです。体にも心にも壁はなく、ここの大地に居るだけの存在。

私たちが冬服のメインに使っているブラックメリノのウール。これは全てナチュラルな色。オーストラリアの大地で育った羊さんそのものの色。それをさまざまなブラウン、グレーをミックスさせることで色の展開を出しています。
優しくて柔らかくて、自然の中に溶けていく色。
それを使って、カモシカの多様な色の毛の色をイメージしてデザインを構築していきました。

優しくて、柔らかくて、暖かい。

私は、カモシカに出会った数日間で、価値観が大きく変化しました。それは上に書いた自然とカモシカとKさんと私たちのことなのですが、あまりうまく表現することができなくて、だから、それをコレクションに込めたいと、「服」の形にしてみました。

「大雪の寒い寒い一日でも、自然の優しさを纏って、心も体も暖かく安心して過ごしてもらえますように。あなたはいつも自然に見守られている。だから大丈夫。」

私の持っている言葉を使って、精一杯の拙いメッセージです。

コレクションページはこちらからご覧ください。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?