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【食品研究職向け】なんか新商品に他部署の人がノってくれない時のガイドライン【後編】

 後編です。前編はこちら。2ヵ月も空いてしまった……

僕が思う各部署の新商品に関する目線
独断と偏見マシマシ

 前編では赤線の下から8つ紹介したので、続きから。

9.商品の市場性・展開の広がり

 ある商品を出したときに「これ、このシーンでしか使えないのでは……」と思われる商品は、なかなか提案として受け入れられにくいです。

 というのも、販売する側としては
「売れなかったら終売するかもしれない」
→「終売すると代替品を提案しなければならない」
 →「特化しすぎているだけに代替品も出せない……」
 という地獄ループを想定してしまうのですね。

 難しいところなのですが、尖っているほど特定の需要は高まり汎用性は減り、汎用的なほど強い需要はないが受け入れられると広がる、というところがあって、これはもう会社の規模とか販売戦略に依るところが大きいですよね。市場を広げすぎずに、ニッチなところで稼いでいくのも戦略としては全然アリなので。

 ただ、開発としてはせっかく世に出たものなら売れてほしい、というのが本音だと思います。それであれば、時間が許す範囲で営業と並走して動いていくことも必要なのかなと思いますね。

【対策】
・出した商品の別の使用法・ニーズを探索し提案し続ける
・特化した領域で圧倒的な優位性を確保し続ける
 どっちかです。

10.売価が取れそうか

 あえて利益と書いていません。
「売価ー原価」、つまり「粗利」が大事と思われる方もいるかもしれませんが、売価が最初に取れることは大事です。

 値下げは簡単でも、値上げは難しい。
 
新商品ならコストカットの余地(=原価を下げる)はあっても、新商品の時点で売価が低いともう後がないです。

 「結局これは儲かる商品なのか?」
 営業と経営はここしか見てないかもしれません(あとの生産とか流通はそれぞれの部署が考えることでしょ、的な)。

 アカデミアならともかく、企業で働く研究開発の人は信念と同じレベルかそれ以上のところにお金が取れる商品かどうか、というのを気にする必要があるかと思います。お金が取れるということは、それだけ強いニーズがあるということなので。

 最終的にどういう形で売価が決まるかは会社によると思いますが、開発からは出来るだけ高い価格で売ってください、ということは伝えておくべきですね。

【対策】
・高い売価が見込めるだけの付加価値を付ける

11.謳いはあるか

 これは研究開発の人間は社内向けプレゼンで、営業はお客様へのセールストークで必要になります。

 謳い、つまりは商品特性ですが、ここではどういう部分が既存品と違うのか、機能だけでなく商品が持つストーリー、情緒的価値を織り込めるとなお良いです。

 この情緒的な価値の部分、たまにすごく嫌う人がいるのですが、今は研究開発の時点でここを織り込んだ開発をしなければいけないと思っています。なぜなら、大抵のものがもう既に品位としては極まっているから。

 切り口は何でもいいと思うんです。原料でも製法でも、それこそ会社が今まで重要にしてきた価値観とかそういうのでも良い。ただ、機能だけで差別化しようと思うならぶっちぎらなきゃいけないし、それほどのニーズを機能で求められるとしたらPB案件でしょう。

 感覚的に、自分の業界にいない両親・友人とかに話をして興味を持ってもらえるようなものだと、望みはあるのではないかなと思いますね。自分が商品を出したときに開発エピソードを語れるか、とか。それが出来れば、それがそのまま謳いになるでしょう。

 あとはあんまり言うのもあれですが、機能だけだと営業が語り切れなかったりするんですよね……。営業さん、よほど特定の商品を売るという目標がない場合、売りやすい別の商品売ったりするんで。
 そういう意味でも、営業が興味を持ってくれるようなわかりやすいストーリーを、社内プレゼンの時点でも用意しておいた方が良いと思います。

【対策】
・商品機能に紐づいた形で、原料や製法・価値観からストーリーを構築する。その商品が発売されるにいたる必然性を語れるようにしておく。

12.特許が取れるか

 経営層も気にする人はいるかもしれないけど……でも基本、研究開発と知財の人ほど重要視しているかはちょっと怪しいところ。

 極論を言えば、特許が取れなくても売り続けられればいい、という前提があっての特許出願だということをたまに忘れがちな人がいるのでね。特許出さないとサンプルワークすらできない、だからニーズ探索も出来ない……みたいな話は、商売上本末転倒なんですよ。

 個人的な見解ですが、時間かけて特許取って、でもニーズはなかったので売れませんでした、は特許取らないより悪いです。特許は取ればいいというものではなく、戦略的に取っていかないと後々リニューアルのタイミングとかで自分たちの首を絞めることになるので。一番の敵は自社特許。何度潰されたことか……。

 特許はあくまで他社参入を防ぐための戦術の一つなので、例えば他社がメチャクチャ投資しなきゃ作れない設備で製造するとか、絶対これ再現できないでしょっていう技術があるなら別に脳死で特許取る必要ないんですよ。むしろ情報開示をしてしまう、まであるので。

 もちろん、他社と競っているカテゴリーで他社も出来そうなものであれば積極的に特許を出願しておくべきだと思います。ただ、最初に言った通りあくまで売り続けるための戦術の一つなので、特許に固執するあまり販売までの全体の動きを遅くしてしまうのは避けるべきでしょう。営業の人とか生産の人は「どーでもいいからさっさとしてくれ」と思ってますよ……。

【対策】
・特許の必要性について改めて考えておく
・特許取得が必要そうであれば、それを織り込んだスケジュールと特許出願が販売スケジュールに影響しないようにするための方策を考える

13.製品の機能性・付加価値

 ちょっと謳いと被る部分はあるけど、そもそも機能的に既存商品にはない、あるいは既存商品を上回っていないとその商品には価値がないです。それは品位でもいいしコストでも何でも良い(極論、他社と同じものが自社にないから、も立派な理由ではある)んだけど、どういう部分が優れているかを説明するのは研究開発の義務です。以上。

14.技術の独自性・価値

 一方で、技術の独自性とか価値については研究開発とその他の部署で見解が大きく分かれるところでしょう。唯一、生技だけは生技のロマンを追いかける人がいるかな……。

 何のための技術かといえば、民間企業で研究しているなら、商品を売ってお金を稼ぐためです。技術の独自性とかレベルの高さ、価値は手段であって、目的ではない。

 技術を謳いに昇華できるなら良いのです。でも技術は開示できない・させない、商品はたいしてすごくなってない、でも使われているのはすごい技術なんです、これはその他の部署の人から見てると「あっそう」な話になってしまいます。

 大体新入社員から3年目くらいまでの間に叩き直されるのですが、たまにベテランでもやってしまいがちなのが「なぜそうなっているかのメカニズム解明」で沼にはまってしまうときですね。これ、罠ですよ……大事そうなんだけど、結局応用出来ないとかザラにありますからね……。

 研究開発やっていると、技術開発はアイデンティティなのでこだわりすぎてしまうところがあるのですが、技術開発するならある程度オープンにして謳いにつなげられないと厳しいです。そして悲しいかな、技術を詰めれば詰めるほどコストは上がる傾向にあります。それで売れなきゃダメなんや……。
 何事もバランスです。

【対策】
・新技術は謳いになる程度にオープンにする
・技術の高さ=商品の価値ではないことを日々内省しておく

15.論文が出せそうか

 これはもっともっと他部署からすればどうでもいいです。そらインパクトファクターの高い雑誌に載るなら謳いとかプレスリリースになる(なるかもちょっと怪しい)からいいけど、適当な雑誌に論文を載せてもIRの研究実績とかに加わるだけです。

 とはいえ書いてて思ったけど、自分が研究職を志望する学生だったら、論文を書いていない企業の研究所に行こうかと思うと結構避ける気がするので、人事施策的には重要なのかな……。

 ただまぁ、ここも謳いにつなげてほしいとこですよね。謳いが上位にあって、その手段の1つが技術広報(論文含む)です。あんな論文に掲載されました! とかね。

 論文書きたいがためにやってる研究は、民間企業だと許されません。やりたいなら、アングラで商品開発しながら脇に1つ実験付け足すとかして、「あれれ~?? これ外部発表出来ちゃうデータじゃな~い??(CV.高山みなみ)」作戦でいきましょう。他部署では評価されないからこそ、やるなら上手くやりましょう。以上。

【対策】
・論文を出すことが会社の利益につながるというストーリーを明確にする
・なんかついでで出せちゃいます感を出す(そうすると断られはしまい)

 さて、ここから先は一般の社員には触れられないゾーンだ。

16.工場の再編・集約など

 地獄その1。集約の場合、見込んでたラインがなくなる可能性があります。すごくいい提案をして、生産も営業も乗っているのに経営層だけがなんか煮え切らない答えをする場合、こういうことが裏で進んでいる可能性があります。

「こんなんさっさと明かしてくれよ!」と色んな方面からの怨嗟の声が挙がってきますが、明かせないんですよね。これって、雇用に関わる話なので。私も今の部署来て痛感しました。

 工場の再編・集約ということは、既存の工場はなくなるわけです。新しい工場が隣に出来ればよいですが、多くの場合そうではありません。

 特に食品工場では、何年何十年と働いてくださっている方もいます。その人達の雇用を無くしてしまうわけですから、事前に近隣の別の会社などに雇用をお願いできないかといった根回しなども入ります。

 また、閉鎖する工場で作っていた商品をどこに持っていくか、どう集約していくかは綿密な絵を描く必要があります。ああでもない、こうでもないと試行錯誤しながら、ようやく完成した絵を基に、経営層の強い意志で実行するものです。

 なので、「あの工場潰して集約するらしいぜー」みたいなカジュアルな話になっては困るわけです。閉鎖が決まっても、しばらくは今の工場での生産が続きます。そこで退職者が相次がれると、生産どころではなくなってしまうからです。何となく漏れてたりはするんだけどさ。

 そんなわけで、稀に「あの工場で作ろうと思っていたのに集約対象だった……」なんてことになったら、これは事故にあったと思って、集約先の工場など別の工場で生産できないかを検討しましょう。

【対策】
・経営層だけ煮え切らない返事をするときは警戒する
・古い工場での製造はちょっと注意する

17.事業・カテゴリーの再編・撤退など

 地獄その2。というか終了です。これはもう無理。これも経営層だけが煮え切らない場合、可能性があります。まともに話を聞いていない、とか。

 もう無理なんですが、事業が無くなるということはそもそも採算的に微妙な事業なんでしょう。他責にしたい気持ちは重々承知の上で、今自分が研究開発で携わっている事業はそもそも会社にとってどういう立ち位置なのか?というのは理解しておくべきではあります。

 悲しいかな、キャリアにおいて機会は平等ではありません。ヒット商品に携わることが出来ることもあれば、終売もしないヒットもしないただ地味に売れ続けるだけの商品を担当することもあります。で、後者が高く評価されることはなかなか難しいでしょう。

 経営層の思考に触れるほど、無駄な商品・無駄な事業はカットしていきたくなります。これ以上伸びる余地がないなら、今のうちに別の伸びるカテゴリに注力したい。研究開発に携わっていた私ですら、たったの2年で今はこの思考です。そんなに余裕ないですよ、どこも。

 赤字を垂れ流しているとか、これ以上伸びる見込みがなさそうな事業に自分が携わっていた場合、出来るのは異動希望を早めに出すとかそれくらいしかないです。逆転できる壮大な絵が描けるなら話は別ですが、ほぼ新規事業開発と同じ扱いをされるとご理解ください。

 これもずーっと極秘裏に行われるので、来るときは突然来ます。事業が無くなると異動になるのかリストラになるのかは会社に依ると思いますが、そういう事業に携わっている場合は、転職も含めた自己の身の振り方を意識しておいた方が良いと思います……。

【対策】
・自身の身の振り方のシミュレーションをしておく

 そんなわけで、独断と偏見で垂れ流した5,000字でした。読んでくださってありがとうございます。


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