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20220215

火曜日

 会社の掲示板に2枚の紙が張り出されていた。
1枚目は元”隣の上司”が25日に定年退職という内容。
2枚目は新人パートの退職のお知らせだった。
新人の退職って。
 
 そして朝礼でボスからカンパの呼びかけ。
”隣の”はホームベーカリーとヨーグルトが作れる機械が欲しいらしい。





午前中。

 NとOが営業相手に騒いでいた。
Oは小町に、Nはペロリに、それぞれ「(やる事が)いっぱいいっぱい(だから仕事を増やさないで)!」と荒れていた。
 
 特にOが凄い。「そこまでまだ行ってないんだよ!その手前で止まってるの!頭狂いそう!」と、正常な精神ではなく獰猛なチワワと化していた。
午後から病院行く予定があるから余計にだろう。ん?有給では?

 小町にとって「お前の気分は俺には関係ない」訳で、理不尽な怒りをぶつけてくる獰猛なチワワの様子を見ながら、短い言葉で淡々と指示を出し始めた。

 ペロリも同様にNからあーだこーだと言われていたが、ペロリの場合は後先考えない予定をギリギリになってから事後報告する癖もあり、言われて仕方がない部分もある。
 

 NOが席を立つと、ペロリが急に両手を素早く上げ、お手上げのサインを小町に出した。
小町も笑いながら同じ行動を取ろうとしたら、獰猛なチワワが戻って来たので中止。
チワワにこのサインを見られると危険なのだろう。

 その後も、隙が出来る度に小町は両手を上げていた。そういうゲームに小町だけハマっていた。
良かったじゃん。




 少しすると、廊下からランボーの独特な足音が聞こえて来た。

ランボー「小町さん、今お時間よろしいでしょうか?(棒) 今日これを印刷するんですが、小町さん今日出かけられます?(棒)」
 
(棒)っていうのは、意味を解さず平坦に朗読するような、特徴的な話し方を意味している。

小町「出かけられます」
ランボー「あ、そうですか笑(棒) 醤油おじさんには言ってあるんですが、小町さんにも(これで印刷進めてOKかを)見てもらってって」
小町「醤油おじさんが良いって言ったら良いです。俺が見なくても分かるでしょ?ランボーさんだって……。長年やってきてるんだから」
ランボー「あ、……え……は……」

 珍しく動揺しているランボー。絵に描いたような動揺っぷりだ。
どんな状況も何かのせい、誰かのせいと言えるように言質を取るようにしているランボーは、こんなに正面から「プロなんだから自分で判断できるでしょ」と責任を明白にされ、突き放されるとは思ってもいなかった。といった所か。

 名前が出てた醤油おじさんもランボーと同じく強烈に他責的な思考をしている。
そもそも責任なぞ取りたくないから最終的な判断は自分でやらない。
その変ちくりんな投球を小町がちゃんとランボーに打ち返した。




 
昼前。
 
 天気娘の手伝いに行く道中、材料部屋の前を通りかかると、元"隣の上司"と都合さんがいた。
この2人がお喋りしてるのはいつもだけど、材料を切ってる赤べこも見えた。3人一緒に入ってるのは初めて見た。
この部屋で出来る事は材料を探す事と切る事くらい。
赤べこ以外の2人はただお喋りに時間を費やしているだけのようだった。

 材料部屋の隣で仕事をしてる天気娘に、「現場ってそんなに暇なのか、なら2階に人手を要請しないで現場で完結して欲しいんだけど」という事を言うと、
"隣の"が色んな人に引き継がなきゃって言って回ってあの状態らしい。
わたしの元上司なので、制御不能なのはよくよく理解した。

 左遷されて一年くらいしかいないのに、何を引き継ぐんだろう……?材料を切るコツ……?



 

15時頃。

 取締が「いっつー、今月参鶏湯スープ1個も売れてないみたいよ」と、社内の自販機の売上を教えて来た。
レシートみたいな紙を手に持っている。
わたし「え!そんなことも分かるんですか?」
取締「分かる。柚レモンが人気みたい。このままだと無くなっちゃうね」

 昨日腹を立てたせいで売上げ個数が0。
変わり種が入荷しなくなるのは嫌なので、結局買うことになった参鶏湯スープ。
わたしってなんて責任感のある奴なんだ。いや冗談だけど。

 



夕方。
 
「戻りましたー!」
 
 昼に帰ったはずのOの声がする。
Oは「ただいま」と言って普通に仕事を始めた。
わたし「半休?」
O「1日有休だよ。昼にタイムカード押して(帰った状態)」
わたし「1日有休なのに(朝普通に)タイムカード捺すんですか?」
O「なんかね、そうらしい」
わたし「半休ならともかく」
O「半休があったら病院行きやすくなるんだけど」

頭ぱっぱらぱーじゃない奴おらんのか。




 

夕方の休憩。

  "隣の"がボスに声をかけ、引き継ぎを行うらしい。
年1回くらいしか注文来ないけど監査付き(コロナが始まってからは来なくなった)のお客さんだと言うと、ボスは面倒臭そうに苦い表情を隠さなかった。
なんで監査付きなのか意味深だな。
 

 話は移り、また別のお客さんの件で愚痴り始めた"隣の"。
そのお客さんの新担当に事務員のTナカが任命されたという。殿から直々に。
 
隣の「なんでもかんでもTナカさんで可哀想だよ〜アレもさ〜」
ボス「アレ?」
隣の「外注さんに出すやつ。リスト来て仕分けるやつ」
ボス「あれあたしがやるんだよ?」
わたし「ですよね?わたしもサブ的なポジションを言われました」
隣の「あれ?そうだっけ?」

「ボスさんは引き継ぎの最初だけ関わるんだよ。殿はアレ関係はTナカさんにやらせるつもりだから」と言って聞かない"隣の"だが、
引き継がないのに何で引き継ぎさせたのか不明なので、こっちはこっちで"隣の"の話を信用しなかった。


 食堂を後にしようとしたら"隣の"が座ってた椅子の下にお菓子が落ちていた。スコーンみたいなのが1つ。
また落ちてる。どんな食べ方してるのか知らないけど、高確率でお菓子を落としている。
 
 未だにボスに張り付いていたので、抜け出す隙を作ってあげようと声をかけた。
「"隣の"さん!お菓子落ちてる!」

食堂から出て行きながら言ったもんだから、"隣の"が「いいのいいの〜」と言った声だけ聞こえた。
 
「いいのいいの〜鳩が食べるから」と言ってたらしい。
鳩肥えそう。






残業。

 助け船出した時にボスは立ち上がり、もう戻るみたいな感じだったのに、まだ加工室に戻ってこない。


N「ボスさんは?」
わたし「引き継ぎお化けに取り憑かれてます」
N「げっ」
すぐ通じる。



 そこから10分以上、廊下から声が聞こえる。
"隣の"は暇だから良いが、やる事が沢山あるボスは徐々に加工室に近づいて来てついにドアの前まで来た。
全面ガラスのドアだからこちらからも様子が伺える。

  "隣の"がボスより前に出てて通せんぼをしている。
ボスの手がドアの開くボタンに触れている。
こちら側では実況中継が始まっている。

  我々が笑ってるのに気が付き、ボスと"隣の"が同時にガラス越しに見て来た。
"隣の"はなんで笑われているのか分かっていなかった。




ボス「愚痴。フィルム置き場とか共用の事とかの愚痴聞かされてた」

 いつものだ。要はNを貶めたくて、Nがどれだけ仕事が出来ないか(この場合、だらしないか)を各署の強い人(発言力、指導力などある人)にアピールしているらしい。
昼間の材料部屋での3人の寄り合いもこういう事だろう。

 "親切で言ってるのに後輩(N)に反抗的な態度を取られて可哀想な自分"を強い人にアピールして味方につける事で、自分の盾と矛にする。
そうまでして他人を思い通りにしたい。
この作戦に利用される男性はいるが、従う女性は1人もいない。

"隣の"は男性とも喧嘩するが、諦める事が出来る。
しかし女性になると何が何でも従わせたいらしく、なかなか諦めてくれない。
 

 以前から書いてるけど、"隣の"の中では自分以外はただのモブで、ヒロインである自分の都合が良いように行動するものだと思い込んでいる。
でもそうならないから我慢出来ない。おかしいのは周囲だと考える人。

 そして独特な世界観で生きてるものだから、自分の仕事ぶりは素晴らしいと思い込んでいて、同じミスを繰り返してるのを認知出来ない。認めたくない。
もし間違ってるのなら、環境とか時間とか他人のせいだから。
人間関係拗れに拗れる。

 "隣の"の世界観的に、自分より上がいるのはNG。
しかし権力者には弱く、誕生日プレゼントとか渡してあからさまな媚びを売るアプローチを取る。
そうでないその他大勢はもれなく足を引っ張ってでも下に置きたがる。
引っ張ってる時点で相手より下にいる事になってるんだけども。
上とか下とかじゃなくて底なんだよな。


 
 今回ターゲットにされてるNは嫌いな人に折れる事なぞ絶対に無い女だから、従わせたい願望の強い"隣の"と火花が飛び散りまくってる。
"隣の"と関わりがあってバチバチじゃない女性陣はいないんだけど、中でも激しいのがこの2人。

 "隣の"は絶対に駆け込みマウントしに来ると思っていたが、最後なのに何の捻りもなくいつも通りの作戦なのが非常に残念。最後も浅い。


 "隣の"もたま〜に一理ある事も言うが、目的は他人を自分に従わせる事なので、どんどんおかしな方向に向かってしまう。残念無念さようなら。

 でもまぁ、本当に整理整頓は大事よね。
フィルムを作るまでがわたしの仕事だから、フィルムがぎゅうぎゅうに仕舞われて折れたりしたらまた作り直さなきゃいけない。
同じ物の再作成とはいえ、わたしは必要以上のリスクを負いたくない。
だからフィルムを台無しにする前に整理した方が良いと言う"隣の"の言い分は押したい。
……押したいんだけどなー、残念無念さようならに理解があるみたいになるから乗りたく無いんだよなー。

 言ったところで実際、社内に余裕がある訳ではない。
場所を作るには他の物を整理しないといけない。時間と人手を要する。
人手が足りずに有給でも仕事に来ているのを知ってしまったので「"隣の"の目的はどうであれ、言ってる事は分かる」なんて気安く言えやしない。




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