小泉八雲「仏陀の国の落穂」収録、「人形の墓」より

小泉八雲_001

小泉八雲の「人形の墓」は「仏陀の国の落穂」に収録されている短編です。
八雲の前に連れて来られた、いねという少女が語る身の上話を聞く、という形で話は進みます。
何不自由無く暮らしていたいねの父が急死、その8日後に母が死にました。近所の人は「人形の墓をつくらないともう一人葬式を出すことになる」の言葉通り、健康だった若い兄が病気に。そして母に招かれる様に兄は息を引き取り、孫を連れて行くなと嘆く祖母も亡くなりました。その後、少女は残った妹とも離ればなれになりました。
身の上話を話した後、その場をあとにするいねは、八雲が座を立った彼女が座っていたところに座を移すのを見ました。いねは「人のぬくもりの残った場所に座ると、その人の不幸を吸い取ってしまう」そうならないために「畳を叩いてほしい」と言うのですが、八雲は構わずその場に座りました。
その様子を見て、連れの男はいねにこう言い、物語は閉じます。
「旦那様はお前の不幸を引き取ってくれたぞ。ほかの人たちの苦労を知りたいとお考えになられているのだ。いねよ。旦那様のことは心配しなくてもいいから」
ページ数は文庫で6ページほどの短編ですが、小泉八雲の創作の姿勢…不思議な物語の聞き手になり、その背景にある事柄も吸い取って作品に反映する様が伝わり、とても印象深く感じます。

はっ、とする表現もある物語です。つらい身の上を話す少女いねの声を「炭火の上で小さい鉄瓶が鳴っている様に」と書いていて、それだけで彼女の体格や雰囲気、表情、声色まで感じさせます。


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