映画「イエローサブマリン」を観て


 ビートルズのイエローサブマリンという映画を観た。印象に残ったのはやはり途中に出てくるジェレミーだ。彼は韻を踏んだ言葉でしゃべり、色々な文章をかいたり自分の銅像を作ったり作曲したりする科学者兼芸術家兼哲学者兼…もろもろの何かだ。おそろしく物知りで、壊れたサブマリンのモーターを一瞬で修理してしまう。彼は言う。散文をしゃべると「自分が何も知らないことがばれてしまう」と。またこうも言う。「文章を書く一方でその文章を自分で批評する。しかしその批評を見返すことはない…」ビートルズは彼の人柄を一言で表す。Nowhere manと…


 ジェレミーはコミカルかつ愛らしい動きで観る者を楽しませてくれる。ビートルズが歌を歌っている間彼は楽しそうに踊っているが、彼らが遠くへ去っていくとさびしくてないてしまう。ビートルズの面々は修理も終わったし、歌も歌ってあげたからもういいだろうということでサブマリンに乗り込もうとするが、ただ1人リンゴだけが彼を連れていこうと言い出す。ポールが「リンゴはセンチメンタリストだからなあと」と言うがジェレミーを連れ込むことを拒否したりはしない。こうしてジェレミーはビートルズの旅に同行することになったのだ。


 ある種の人間だったら、このNowheremanに自分を重ね合わせ、このシーンで涙を流すことであろう。

 ブルーミーンズはよくわからないが、ようするになんでもNOと言いたがる奴ら、ということらしい。ラストシーンでジェレミーは敵の親玉と立ち会って会話を交わす。親玉はジェレミーの言ういかなる言葉にもNOを突きつけてやろうと待ち構える。ジェレミーは詩を朗読するが、決して一つのセンテンスとて言い切ることをしない。読み上げている最中にセンテンス中の単語と似た響きを持つ単語を放り込み、そこからまた別のセンテンスを読み上げてしまうのである。とにもかくにも完成された文章でなければNOということもできない。親玉は憤るがジェレミーは次から次へと言葉を連鎖させていき、ついには親玉を綺麗な花でうずめてしまうのであった…


 その光景を見てリンゴが言う。「見ろ、Nowheremanが初めてSomebodyになったんだ。俺はわかっていたよ」と。


 なかなかいい映画だった。これを1度観ると「サージェント…」の印象もまた変わることだろう。今度通しで聴いてみようと思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?