2012年10月14日「運河」

「君は約束をしたはずだ。蟻にちゃんと給料を払うと」

「うん、した。」

「そして蟻たちは君のためにしこたま働いて、すばらしい運河を作ってくれたね。」

「うん。ロシアの凍りついた大地にすばらしい運河を作ってくれた。これでロシアの物流は今よりもずっとよくなる。商品の価格ももっと安くなるかもしれない。」

「そうだね、蟻は君の事業に多大な貢献をした。でもそれは別に蟻たちが優しいからじゃない。君が給料を払うと言ったから蟻たちは仕事をしたんだ。彼らは義務を果たした。今度が君が義務を果たす番だ。」

「具体的には何をすればいいの?」

「給料を支払ってあげなさい。蟻たちに。」

「お金ないよでも。」

「なければ借りてきなさい。運河を担保にすればきっと銀行は金を貸してくれる。」

「銀行にお金返せなくなったら運河とられちゃうよ。」

「そうならないためにも君はもっと頑張ってお金を稼がなくちゃね。」

「そんな。どうやって?」

「そんなの知らないよ。それは君の問題だよ。でも今だ支払われていない給料は蟻たちの問題さ。そっちの問題を片付けてから君は自分の問題について頭を悩ませればいいのさ。」

「このまま蟻たちに給料を支払わないままでいたらどうなる?」

「泣くね。蟻たちが。」

「それだけ?」

「うん。みんなおなかをすかせて泣くね。」

「うーん。僕としてはそっちの方がいいかな。蟻たちは特にお金払わなくても僕を傷つけるようなことはしないんでしょ?だったらわざわざ銀行からお金借りてこなくてもいいじゃない。蟻が泣くだけで全てすむのなら。銀行の取立てはきついからなあ。できるなら頼りたくないんだよね。あいつらのことは。」

「ふーん。」

「…。」

「君はそれでいいんだね?本当に。」

「うん…いいよ。」

「じゃあ蟻たちにはそういっておくよ。それじゃあね。」

「あ、待ってよ、本当に蟻たちは泣くだけなんだよね?後になって僕に復讐しにきたりはしないんだよね?」

「大丈夫だよ。蟻たちにはそんな力も知恵もないから。君は安心していい。でもね、本当に蟻たちはたくさんの涙をながすだろうね。君のせいで。そしてその涙は君の世界に対する態度を具体的に形で表したもののようになる。そこでは蟻そのものは問題にならない。ただ世界が君を因果として泣くことが重要なんだ。だから…」

「だから?」

「もう二度と、誰も君のためには泣いてくれないかもね。」

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