2013年12月14日の雑文「宝箱幻想」


 たくさんの宝箱がある。僕はそのひとつひとつを開けていく。中から何が出てくるかはわからない。

 まず出てきたのは人間だ。半分腐っていて、ひどい臭いを発している。僕は胸で十字を切り、さらにお経を唱えてからその死体に火を放って焼いた。


 次の箱から出てきたのはラジカセだった。中に何かカセットが入っている。僕は再生ボタンを押してみる。すると、ワーグナーのタンホイザーが聴こえてきた。カセットはダビングを繰り返したものなのか、あまり音質はよくない。しかし僕は聴き入ってしまった。タンホイザーは何度もくり返し聴いてきたけれど、この時きいたタンホイザーほど僕の心に深い感動を与えた演奏はなかった。

 次の箱の中にはクーラーボックスが入っていた。箱の中に箱とは何かの冗談かと思ったが、僕は一応開けてみた。中には尖ったつららが入っていた。つららには血液が付着していた。僕はクーラーボックスを開けっぱなしにしたまましばらくそのつららを眺めていた。外の空気に暖められて、少しずつつららは溶けていった。やがて最終的にそれはただの水となり、血とまざりあった。最終的に血で汚れたクーラーボックスだけが後に残ったのだった。

 次の箱にはトランプが入っていた。何の箱にも入れられていない、むきだしのままのトランプ。持ち上げてぱらぱらとめくってみて僕は驚いた。そのトランプは全てジョーカーだったのだ。しかも全て種類が違うジョーカーなのである。空港でもらうような記念品のようなものもあれば、由緒ただしいかなりふるびて黴まではえたものもあった。もちろん最新のプラスチック製のものもあった。しかしそれらは全てジョーカーだったのだ。53枚のジョーカーで構成されたトランプだったのだ。僕は思った。このトランプでゲームをやろうと思ったら自然とそれぞれのジョーカーに役割を与えなければいけない。ダイヤのキングとかハートのエースとか。その場合、ジョーカーの役割を与えられるのはどのカードになるのだろうか?僕はなんとなくトランプをシャッフルしてから、宝箱の中に戻して蓋を閉めた。

 また別の箱を開く。中から出てきたのは格闘技漫画であった。タフとかバキとか。僕はしばらく地べたに腰を下ろして漫画に夢中になった。しばらくすると飽きたのでまた別の宝箱へと向かっていった。

 次の箱には青い鳥がぎっしりとつめられていた。無理やり押し込められたせいか、弱っているのもいた。箱のあちらこちらに糞が落ちていたし、臭いもすごかった。ずっと暗闇に入れられて鳥たちは怒っていた。美しいはずの毛並みもどこか汚れて見えた。僕はなんとなく申し訳なくなった。一匹ずつ洞窟の外へと連れていって、解放してやった。最後の1匹は解放したとたんにやってきた烏に喰われてしまった。僕はいたたまれない気持ちになりながらもまた宝箱の山の下へと戻っていった。


 次の箱には石が入っていた。持ち上げてみたが特に何の変哲もない岩石であった。石の下には何か紙が敷かれていた。持ち上げてみるとそこにはこう書かれていた。「カイバル峠の石」と。僕はそっと石と手紙を箱に戻して蓋を閉めた。

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