このご時世だからこその公演。

3月21日。
僕たちの演劇サークルの第30回公演は幕を開けた。
そして3月22日。
カメラの蓋を閉じる音と演出の「おしまーい」の声で、公演は幕を閉じた。

その場にいたのは大勢の観客ではない。
その場には部員しかいない。
その代わりか、会場には非常に多くの撮影機材とパソコン。
非常に変わった光景での公演。

この1か月、本当に目まぐるしくて、本当にいろんなことが起きて。

3月の頭に学生課から諸々のお達しをいただき、公演は一時危うい状況になりました。
演劇ってね、感染症拡大防止の観点からいけば、かなり危険な環境なんですよ。

照明演出の都合で窓はつぶし、劇中の換気はできない環境。
予約制をとっている団体ではないから当日は不特定多数の集まる環境。
所詮大学生の演劇サークルですから箱の大きさなんてたかが知れている。

そんな環境での公演をこのご時世にすることなんてできない。
もちろん学生課からも止められた。

でも、あきらめなかった。
舞台監督部の人を中心に何回も協議し何回も学生課に乗り込み、どうにか互いの妥協点を見つけ出してくれた。
それが今回の公演の形。

【無観客公演】

お客様を会場に呼ばずに映像配信のみを行う。
何とも不思議な形。

もちろん弊害はたくさんあった。
機材を用意しなきゃいけないし配信の体制も整えなくてはならない。
所属部署によってはいつもと同じようにはできないところもたくさんあった。
上演中に観客が自由に視点を変えることができないから、多少演出に制限が生まれた。
衣装メイク部としては、役者のメイクの細かい色味や特徴などに気づいてもらえない。
観客がその場にいないために、その時その時に役者が感じられる空気感などもない。

でも、
この特殊な公演の形であったがゆえの良さがあったのも事実だった。
観客を仕込む必要がないからこそ、本来は舞台ではなかったエリアでもアクトすることができたし、音響オペ・照明オペさんも同じ空間にいることができた。
映像が見られる環境ならどこでもその公演を観られたために、会場が遠くて普段は気軽に観に行けないという方にも観ていただくことができたし、普段演劇サークルの公演を観に行かないという人でも気軽にのぞける環境になった。

何より、普段以上に部員の熱意がみられた気がした。

こんな状況、こんなご時世。
関係者が一人でも「公演は打ちたくない」「集まりたくない」と言ったら公演はたとえ無観客であろうと中止になったし、誰か一人でも新型コロナウイルス感染の疑惑が立ったら公演は即座に中止になった。

演劇はどうしても役者にばかり注目が行ってしまう。
でもそうじゃない。
オペさんがいてスタッフさんがいて役者さんがいて、
そしてお客様がいて。
それで初めて公演は公演としての形を成す。

無観客ってことはその演劇の構成要素の1つ『観客』の存在が視覚的にはわからない状態になる。
やる気がなくなってもおかしくないし『どうせ映像配信だから細かいところはごまかすことができる』と思って手を抜くことだってできた。

でも、手を抜いている人なんていなかった。
みんながみんな全力だったように僕は見えた。

『無観客公演』という逆境に負けず、負けるどころか逆に燃え、なんだか新しいものを生み出そうとする人もいた。

すごいな。
すごいや。

いつも以上にアットホームでいつもより『部員のための公演』という雰囲気が強かったこともあって、僕はこのサークルが、この公演がより好きなものになった。

だからかな。
最後の公演を終え、カーテンコールを終え、舞台にはけ、映像停止と終了の合図を待ち、
演出さんが『おしまーい!』って叫んだ瞬間、
涙が止まらなかった。
涙があふれて仕方なかった。

学生課から課外活動の制限をかけられたとき、
公演の幹部が真剣に公演を実施するか否かで話し合っていたとき、
公演の実施に関して先輩たちでもめていたとき、
演出さんが目に見てわかるくらいに疲弊していたとき、
無観客公演が決まったとき、
する予定だった舞台演出が難しいかもしれないとなったとき、

正直何度も心が折れそうになった時があった。
でも僕はその問題の渦中にいる人ではないし容易に意見できる立場でもなかった。

苦しくて、でも何もできない自分も嫌で、
そうやってもがいてもがいて、

そんな公演が幕を閉じたんだ。
なんとか公演を遂行することができたんだって。
そう思ったらなんだか涙が止まらなかった。

このご時世だけど、
このご時世だからこそ、
こんな新しいスタイルでの公演ができた。
新しい発見もたくさんあった。
そして何よりも卒業する先輩たちとの最後の舞台を作ることができて、お客様に届けることができて本当に良かった。

『演劇』なんて、生きていくうえで必要不可欠なものじゃないし、こういう不安定な情勢になると真っ先に切り捨てられてしまう。

分かってはいる。
悔しいけどわかってる。

でもね、そんな状況でもどうにか模索して模索して公演を打った人たちもいるんだ。
そんな切り捨てられがちな『演劇』にも本気を出している人たちがいるし、本気で笑って本気で泣いて、本気で馬鹿をやっている人たちもいるんだ。

楽しかった。
楽しかったな。

第30回公演を終えた今は、4月に打つ予定だった第31回公演の開催をどうするかに関して、話し合いを進めている。
今度は幹部の一人として、

もうこのサークルは逆境に負けずに公演できたという自信があるんだ。
負けない。
逆境に負けずに、いい公演をしてやる。

今日はきっとこんな日。

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