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舞台「私の恋人」-- 2.のんさんについて

私の恋人
オフィス3〇〇公演
2019年9月8日
下北沢 本多劇場

続いて、のんさんについてです。

土砂降りのように降ってくる役を次々に演じ分けていくのんさん。その姿はさながら「女優のん」のカタログを見る思いで、彼女のファンは大いに楽しめたのではないでしょうか。忙しい舞台は彼女から良い意味で余裕を奪っていて、持ち味のストレートな全力感が伝わってくるのもとてもよかったと思います。

ただ私の満足度はというと、のんさんの初舞台、演技活動復帰のご祝儀加点が無ければ満点には届かないというところでしょうか。「キレイだった!可愛かった!頑張りも伝わった!初舞台めでたい!でも、今回はこれでいいけれど…」という感じです。確かに彼女にはユニセックスな魅力があってスーツ姿なんか腰が抜けそうなほど格好いいし、山形弁を話すアボリジニの少女も最高に愛らしい。ギターを掻き鳴らす笑顔にもほっこりさせられた。ただ今回の彼女の印象はそこまででした。いや、それだけでもとんでもない才能なんですが、やはり何か物足りない。

私は未だに今年の4月に上演された満島ひかりさんとの朗読会が忘れられずにいます。あの日の演技を見せられてしまった以上、私がのんさんに求めるハードルはどうしても上がってしまうのです。のんさんにはもはや猫コスもセーラー服も似合っていないとさえ、今の私には思えます。

先日真心ブラザーズのラジオ番組にのんさんがゲスト出演した時に、YO-KINGこと倉持陽一さんがのんさんへの期待として「これからはもっと低い所で歌ってほしい。話す言葉に近いところで。」と語ってましたが、演技の面から見てもまったく同じ意見です。

次の舞台ではぜひ等身大の人物をキメ細やかに演じるのんさんが観たい。「詠む読む…」で見せた観客の心臓を背もたれの奥の奥までずぶずぶと押しつぶすような演技を、できれば朗読ではない舞台でもう一度見たい。「この世界の片隅に」のように観た人の殆ど全ての人が彼女の演技力を賞賛せざるを得なくなるような舞台をやれる力が彼女にはあるはず。その素質と才能に惚れ込んでいるからこそ、ついその先を求めてしまうのです。

とにかく、今回の舞台の成功は必ず次の舞台に繋がるはず。それを信じて待つしかないですね。

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