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詠む読むを観てきました。

全国へゆこうか!朗読ジャーニー
「詠む読む」
~坂元裕二の詠む言葉と 満島ひかりは読む旅にでる~

2019年3月29日、海老名市文化会館のソワレを観てきました。満島ひかりさんとのんさんの注目の初共演となる舞台です。

脚本は坂元裕二さんの「不帰の初恋、海老名SA」。若い男女の初恋とその行方を描いた作品を、この舞台のために女性同士の初恋として書き直したものです。

私は一度しかない公演で物語を見失ってしまうのが怖かったので、事前に書籍を購入して目を通しました。いや、目を通す程度のつもりだったのですが、素晴らしい文章に惹かれて、結局そのまま読み通してしまいました。そのため満島さん演じる玉埜が私の中で男性になったり女性になったりして、最初のうちはかなり戸惑いました。

オリジナルの印象が強く残っているせいか女性版は、特に性を意識させる場面では多少煮詰めが足りないのかなと感じる部分も正直ありました。満島さんにしても、のんさんにしても、一度男性が演じる玉埜を相手にした朗読を聴いてみたくなりました。

しかしながら、実はそんなことは些細なことで、こと二人の読み手の魅力を引き出すという点においてはこの脚本、もう100点満点で200点でも足りないくらいのこの上ない最高のテキストでした。

私はこの朗読劇、満島さんについてはある程度安心してました。彼女のための企画だし、彼女の力量から言っても間違いないと。問題はのんさんです。翌日に岩手の舞台が控えているなど、最近のスケジュールはかなり過密であるように見えたので心配したのですが、それは杞憂でした。彼女の一声を聞いただけで「おお、これはちゃんと準備して臨んできてる!」と感じられるレベルに仕上がってました。

私は正直のんさんが満島さんの演技力に圧倒されてしまう可能性もあると思っていたのですが、いざ始まってみると二人の声はとてもバランスがとれてます。音響がすばらしかったこともあるのですが、二人とも本当に良い声です。声を聴いているだけでも良い楽器の演奏を聴いてるような心地良さがありました。声による二重奏とでも呼びたくなります。

前半、13歳の少女三崎を演じるのんさんは、精神的に何歩も先を進んでいて私たち同い年の男子にとっては謎だらけのあの年代特有の危うい感じがすごく表現できていました。やはりこの人はポエトリーリーディングよりも、役を与えられて演技をするほうが本領を発揮するのだなあとあらためて思います。

一方、満島さんは玉埜が大人になってからの内面の変化の表現が見事でした。満島さんはご自身の心の動きを敏感に捉えての演技。心の奥底にしまい込んだはずの初恋の感情が、幼い日の後悔の感情が、みるみる蘇ってくるその過程。揺れ動く気持ちの振れ幅がどんどん大きくなって、もう見ているこちらがはらはらするくらいに、玉埜の思いがびしびし伝わってきます。

物語が終盤に差し掛かった時、のんさん演じる三崎への思いを伝えるセリフの後、満島さんは一度だけ台本で顔を覆いました。普通の芝居であれば、場面が変われば出演者が舞台から離れる瞬間もあるわけですが、朗読劇ではそれはできません。あの瞬間、満島さんは台本を利用して舞台袖に下がったのだと思います。おそらく懸命に湧き上がる感情の波を抑えようとしていたのでしょう。これはとても貴重な場面でした。こういう人だからあのカルテットのすずめ役で見せた繊細な演技ができるのだと思います。

二人を観ていて面白いと思ったのは、終始激しく心を動かしている満島さんに対して、のんさんは動じないというか、真ん中に芯のようなどっしりと動かない物があるように見えることでした。のんさんが唯一声を張る場面においてもその印象は変わりません。終盤三崎が玉埜への思いを伝える場面、私の一番好きな場面ですが、のんさんは感情の昂ぶりを見せません。何故なら三崎はある時既に一生分の涙を流してしまっているからです。とても切ない場面なのですが、ここで淡々と語り続けるのんさんの声が、逆に聞く側の胸を締めつけます。台本で顔を覆わざるを得ないほどの心の揺れを見せた満島さんとは対象的です。これは私の勝手な憶測ではありますが、満島さんが言うところののんさんのスゴい所ってこういうところなのかなと思いました。

まあとにかく、この対象的な二人による二人だけの長い舞台。満島さんに至っては昼夜連続の舞台。最後まで集中力を切らすことなく見事でした。私もここまで全神経を集中して観た舞台も久しぶりでした。アフタートークにおいても観客のほぼ全員がこの二人の時間をこわさないように、こわさないようにと大切に見守っていたように思います。

最後の玉埜のセリフ、あれは玉埜の言葉でありながら、満島さんの期待に見事に応えたのんさんへの謝辞でもあったのでしょう。この二人の邂逅がたった一夜限りの夢物語ではあまりにももったいない、そう思わせる素晴らしい舞台でした。

4/3加筆:
満島さん、とてもとても嬉しそうでした。

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