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外積を理解して平行六面体の体積へ【物理などでも使用】

2つの空間ベクトルに対応する空間ベクトルを対応させる外積という二項演算があります。大学数学や大学物理のベクトル解析を学習するときに、ベクトルの外積が出てきます。

この空間ベクトルの外積ですが、高校生の段階から使えると、大学受験の数学や物理で、楽に平面に垂直なベクトルを求めたりすることができて便利です。

以前のカリキュラムで、高校数学で、2行2列の行列を学習していたときは、セットでスムーズに外積を習得することができました。しかし、最近のカリキュラムでは、行列が扱われていなく、ベクトルの外積が以前よりも学習しにくくなっているのではないでしょうか。

そこで、一般的な定義と具体例を挙げながら、空間ベクトルの外積を説明していきます。2つのベクトルで生成されている平面に垂直な空間ベクトルを求めるときに、外積を使います。

数学の大学受験の問題で、外積を使うとすぐに必要な空間ベクトルが計算できるときがあります。物理でも、物体を回転させるときの力のモーメントで、平面に垂直な向きのベクトルを求めたりと、役に立ちます。

3次元空間で、平面に垂直な空間ベクトルとくれば、外積は威力を発揮します。


空間ベクトルの外積の定義

2つの空間ベクトルの外積「×」を定義するときに、2行2列の行列式を使っています。この行列式を学習していないがために、外積をしないというのは、もったいないです。

2行2列の行列式は、対角に実数を掛け算してから引き算をすれば良いだけです。図の下に書いているように、「ps - qr」が行列式の値です。

この行列式の値をx座標、y座標、z座標に書くと、外積の計算結果である空間ベクトルができあがります。2行2列の行列はシンプルなので、すぐに覚えられます。まず、行列式を計算できるようにしておいて、それから外積の定義を押さえます。

<行列の成分>
図の下のp、q、r、sという4つの実数を配置した2行2列の行列ですが、配置する場所に名前があります。この名前によって、どの場所にどんな実数を配置したのかを指定することができます。

pが配置されている部分が(1, 1)成分です。qが配置されているのが(1, 2)成分です。(1, 1)成分と(1, 2)成分を合わせて1行目です。

次に、下の2行目が、(2, 1)成分がrで、(2, 2)成分がsとなっています。この行列の行列式といったときには、「ps - qr」を計算した値のことです。行列に配置されている実数をクロスに掛けたものどおしを引けば、行列式の値です。

ちなみに、行列という字のごとく、「行」と「列」という見方があります。行については、先ほど書いた通りです。次に、列について説明します。

(1, 1)成分のpと(2, 1)成分のrを合わせて1列目です。同じく、(1, 2)成分のqと(2, 2)成分のsを合わせて2列目です。

これで、2行2列についての行列について必要なことが完了です。これだけの内容を使って、空間ベクトルの定義から勉強していけます。

外積の定義を正確に計算

まず、外積という二項演算によって、x座標を計算するところを正確に見ておきます。

行列式の1行目には、「×」の左に書いている空間ベクトルのy座標の値とz座標の値を配置します。

行列式に2行目には、「×」の右に書いている空間ベクトルのy座標の値とz座標の値を配置します。

この行列式について、行列式を計算すると図の下に書いている文字式になります。

この行列式の値が、外積によって生じる空間ベクトルのx座標の値となります。
(注)x座標を計算するときには、行列式にx座標の値は使われていません。

次に、外積によって生じる空間ベクトルのy座標、そしてz座標の値の求め方を説明します。x座標の求め方と同じ要領で計算ができます。

外積という二項演算によって、y座標を計算します。行列式の1行目には、「×」の左に書いている空間ベクトルのz座標の値とx座標の値を配置します。

行列式に2行目には、「×」の右に書いている空間ベクトルのz座標の値とx座標の値を配置します。

この行列式について、行列式を計算すると図の下に書いている文字式になります。

この行列式の値が、外積によって生じる空間ベクトルのy座標の値となります。
(注)y座標を計算するときには、行列式にy座標の値は使われていません。

先ほど説明をしたx座標の求め方を横展開したものになります。この要領で、残りのz座標の求め方も押さえます。

外積という二項演算によって、z座標を計算します。
行列式の1行目には、「×」の左に書いている空間ベクトルのx座標の値とy座標の値を配置します。

行列式に2行目には、「×」の右に書いている空間ベクトルのx座標の値とy座標の値を配置します。

この行列式について、行列式を計算すると図の下に書いている文字式になります。

この行列式の値が、外積によって生じる空間ベクトルのz座標の値となります。
(注)z座標を計算するときには、行列式にz座標の値は使われていません。

このようにして、外積によって出現する空間ベクトルのx座標からz座標までを計算します。

まず、x座標からz座標までの値となる行列式をスムーズに書けるようになることが大切です。行列式さえ書くことができると、行列式の値はクロスに掛けて引けば良いからです。

ここから、具体的な空間ベクトルで外積を計算する練習問題を扱いながら、外積についての一般的な定理を説明していきます。

では、先ほど書いた外積の定義に基づいて、具体的な空間ベクトルについて外積を計算する練習問題を扱います。

具体的な外積の練習問題

(1, 2, 3)と(-2, 3, -5)という2つの空間ベクトルの外積の値を求めてください。

では、この2つの空間ベクトルの外積の結果が、どのような空間ベクトルになるのかを求めてみます。

これで、外積を計算した結果、得られる空間ベクトルのx座標の値が-19、y座標の値が-1、z座標の値が7と分かりました。

よって、求める空間ベクトルは(-19, -1, 7)となります。

このように、具体的な空間ベクトルを使って、日頃から外積の計算を練習しておくと、自然と外積が計算できるようになっていきます。

この求めた空間ベクトルは、はじめに与えられた2つの空間ベクトル(1, 2, 3)と(-2, 3, -5)のどちらとも垂直になっています。

垂直かどうかを確かめるには、内積の値が0になることを確かめれば良いので、実際に内積を計算してみます。

<垂直かどうかの確認>
(-19, -1, 7)・(1, 2, 3)
= -19×1 + (-1)×2 + 7×3
= -19 - 2 + 21 = 0

これで、(-19, -1, 7)と(1, 2, 3)が垂直であることが確認できました。

(-19, -1, 7)・(-2, 3, -5)
= -19×(-2) + (-1)×3 + 7×(-5)
= 38 - 3 - 35 = 0

(-19, -1, 7)と(-2, 3, -5)が垂直であることも確認できました。

(1, 2, 3)と(-2, 3, -5)の2つのベクトルで生成される(張られる)平面上の点は、原点(0, 0, 0)を始点として位置ベクトル表示できます。

実数pとqを使って、
p(1, 2, 3) + q(-2, 3, -5)と表されます。

外積の値である(-19, -1, 7)は、
(1, 2, 3)と(-2, 3, -5)のどちらとも垂直になっているので、「p(1, 2, 3) + q(-2, 3, -5)」というベクトルとの内積の値も0になり、このベクトルと垂直になっていることが分かります。

これが、(1, 2, 3)と(-2, 3, -5)の2つのベクトルで生成される(張られる)平面と外積の値である空間ベクトル(-19, -1, 7)が垂直であるということです。

このように、平面と垂直な空間ベクトルが、外積の計算で簡単に求められるので、大学受験の数学や物理で、答えだけ書くタイプの問題で、外積が計算できると、すぐに答えが求められるときがあります。

外積のべき零性

空間ベクトル(x, y, z)が与えられたとき、
(x, y, z)と(x, y, z)の外積の値は(0, 0, 0)となります。

これは、2乗すると零になるという外積の性質です。普通の実数の掛け算では、このようなことは起きないので、外積という二項演算に特有の性質です。証明は、次のように外積の定義に基づいて直接計算で示せます。

自分自身と外積を計算すると(0, 0, 0)という零ベクトルになってしまうという性質があります。2乗すると零ベクトルと覚えておくと良いかと思います。

外積の交代性

外積は、実数の乗法とはちがって、一般に交換法則が成立するとは限りません。「×」の左と右の空間ベクトルを逆にすると、計算結果のベクトルの符号が逆になります。証明は、次の図のように、外積の定義に基づいて、直接計算をして示せます。

「×」の左右の空間ベクトルを逆にすると、ベクトルの符号が逆転します。符号が逆になるということは、空間ベクトルの向きが逆になります。

べき零性や交代性といった、通常の実数の乗法とはちがった性質が外積にはあります。

その一方で、実数の乗法と同じく分配法則が成立します。分配法則は、積と加法を結ぶ大切な規則になります。

外積の分配法則

図の真ん中に書いている等式が、空間ベクトルの外積についての分配法則です。

上にベクトルを表す矢印がついているだけで、実数の分配法則と同じ要領です。証明は、次のように、外積の定義から計算して等しいことが導けます。

まず示したい等式の左辺に当たる外積の計算をしました。外積の結果となる空間ベクトルは次のようになっています。

【x座標の値】
  q(z + z') - r(y + y')

これらの文字は実数ですから、実数についての分配法則や加法の結合法則や加法の交換法則が使えます。
よって、(qz - ry) + (qz' - ry') と書き換えることができます。

【y座標の値】
 r(x + x') - p(z + z')
 = (rx - pz) + (rx' - pz')

【z座標の値】
 p(y + y') - q(x + x')
 = (py - qx) + (py' - qx')

今度は、示したい等式の右辺に当たる外積の計算をします。

そうすると、
x座標の値が同じ(qz - ry) + (qz' - ry')、
y座標の値が(rx - pz) + (rx' - pz')、
z座標の値が(py - qx) + (py' - qx')となり、
確かに分配法則が成立していることが分かります。

これで、外積について分配法則が成立することが証明できました。外積の計算をするときに、大切な性質をまとめておきます。

【外積の性質】
・外積のべき零性
・外積の交代性
・外積の分配法則

外積でできるベクトルの大きさ

2つの空間ベクトルの外積によってできる空間ベクトルの大きさ(長さ)は、2つのベクトルを2辺とする平行四辺形の面積に等しくなります。

外積の定義と三角比の考え方から導くことができます。2つの空間ベクトルのなす角をθとして、次の図のように考えます。

右下に書いてある平行四辺形で、ベクトルbの大きさが辺の長さになっていて、そこにsinθを掛けると平行四辺形の高さを表す長さになります。

平行四辺形の底辺の長さはベクトルaの大きさです。平行四辺形の面積は、「底辺×高さ」です。

このことを途中の式変形で使っています。数学Iで学習した三角形の面積や平行四辺形の面積を三角比を使って表す考え方と、外積の定義からの計算の合わせ技です。

物理の内容で、図形的な情報と数式の計算が結びついたりしますが、外積によってできる空間ベクトルの大きさが、平行四辺形の面積となることは基本になるので、押さえておくと良いかと思います。

平行六面体の体積(スカラー3重積)

ベクトルaとベクトルbを2辺とする平行四辺形を底面の平行六面体の体積は、「ベクトルaとベクトルbの外積」と図のベクトルcで内積をとった値の絶対値となります。

先ほどの2つの空間ベクトルの外積の絶対値が平行四辺形の面積となったときの考え方と、三角比の発想で、ベクトルcを使って、平行六面体の高さを求めています。

「底面積 × 高さ」が平行六面体の体積です。「ベクトルaとベクトルbの外積」と図のベクトルcで内積をとった値の絶対値が、この「底面積 × 高さ」と一致することを次のように確かめることができます。

外積の計算結果は1つの空間ベクトルです。
2つの空間ベクトルの内積は、それぞれの空間ベクトルの絶対値とcosの積です。

まず、この内積の定義に基づいた等式を作ります。次に、先ほどの外積でできた空間ベクトルの大きさである絶対値をsinを使った平行四辺形の面積の式に書き換えます。

最後に、全体にかっている絶対値は、それぞれの項の絶対値の積になることから最後の式になります。

なお、なす角は0°から180°の間なので、sinの値は0以上となっているため、sinの項の絶対値は外れています。

cosについては、90°から180°の間のときは負の値になるので、絶対値はそのままつけています。

大学の数学や物理を学習するときに、外積をとったものと内積をとるというスカラー3重積を学習します。

ただ、そんなに難しく考えず、外積の定義から導いてきたことの積み重ねと、ベクトルの内積の定義と三角比という基本から、この等式を自然と導けるようにしておくことが大切かと思います。

この公式は、底面積と高さを求めなくても、外積を計算してできた空間ベクトルと内積を計算し、絶対値をとれば、平行六面体の体積になるので便利です。

平行六面体の体積を求める練習

空間内に4 点A(−2, 3, 1), B(1, 1, 2),
C(−3, 2, −1), D(2, 4, −2) があります。
このとき, 線分AB, AC, AD を3 辺とする平行六面体の体積を求めてください。

<考え方>
底面の平行四辺形の2辺の空間ベクトルで外積を計算します。そして、残りの辺となっている空間ベクトルと内積をとります。

内積の値に絶対値をつけると、求める平行六面体の体積になります。

点Aを始点とする位置ベクトルをベクトルa, ベクトルb, ベクトルcとします。まず、ベクトルaとベクトルbの外積の定義に基づいて計算します。

x座標からz座標までの値の行列式は、クロスに掛けて引けばすぐに値が求められます。

次に、外積を計算して得られた(5, 5, -5)と空間ベクトルcである(4, 1, -3)との内積を計算して、値に絶対値をつけます。

求める平行六面体の体積が40となります。底面積や高さを求めるのには、なす角を計算する必要がありますが、それらを抜きにしてすぐに計算できるので、答えの体積が簡単に求められます。

これで、空間ベクトルの外積についての理論を終了します。平面に垂直なベクトルを求めるときに役立つ外積を使いこなせると、大学受験の数学や物理の問題で有利ですし、大学の数学や物理でもベクトル解析の内容で出てきます。

ちなみに、岩井の数学ブログというサイトで空間ベクトルについての基本事項を解説しています。

では、これで失礼します。

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