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映画・映像・デザイン

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映画やその他の映像についての記事をまとめました。
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記事一覧

ネットのリアルとリアルのリアル、アニメのリアルとリアルのリアル、そのはざまの『竜とそばかすの姫』

細田守監督の『竜とそばかすの姫』に関して、観客動員が好調で、細田監督の最高傑作、なんていう声もささやかれているのだけど、それはどうだろうか。細田守監督は「ネットの世界を肯定的に描きたい」という思いを持ってこの作品を制作したとのこと。とても共感できるが、劇中での主人公たちの行動は、当人にとって一生消えないデジタルタトゥーや、現実の世界での事件を誘因する可能性が極めて高く、絶対に真似してはいけない類のものだ。また、児童虐待問題についての描写も、専門的な見地を持っている人からすれば

『旅のおわり世界のはじまり』いかにして彼女は呪いの言葉を捨てて歌うようになったか。

前田敦子演じる葉子は、TV番組のレポーター。シルクロードの国、ウズベキスタンにいる。「世界ふしぎ発見!」のような内容なのだが、低予算番組で、湖で怪魚を追ったり、地元の古い遊園地の紹介をしたり、お世辞にも面白い番組にはなりそうにない。ディレクターほか撮影クルーたちも、やる気はなくはないのだが、楽しんでロケをしている雰囲気ではない。自分の仕事はきっちりこなすが、それ以上でも以下でもない。 葉子にしても、そうだ。彼女にできるのは、カメラが回ったら、ありきたりのリアクションで、驚い

『トラベラー』は後味の悪さを楽しむ映画。

イランのアッバス・キアロスタミ監督の『トラベラー』という映画は、ひとことでいえば、なんとも後味の悪い映画だ。 片田舎で暮らす少年、ガッセムの生きがいは、サッカーである。学校はつまらないし勉強も嫌いだし、なんせ家が貧しい。両親もぱっとしないし自分が親と同じような人生を送る可能性が高いこともなんとなく分かっていて、憂鬱だ。 彼はテヘランで行われるサッカー、イラン代表の試合をどうしても観たいと思う。サッカーボールがゴールをめがけて飛ぶ、その行方を追いかけている瞬間だけ、つまらな

学生作品上映祭2019

先日は塚口サンサン劇場へ出かけてきました。目的は、私の母校、ビジュアルアーツ専門学校 放送・映画学科の「学生作品上映祭2019」。4時間ほど劇場にいて、10作品を観ました。 こんなにどっぷり学生作品にふれるのは数年ぶりで、なんとも懐かしい気分でした。ハリウッド映画なんかを観るのとはまったく異質な、身内感が漂っていて。 もっといえば、自分たちが撮った映画を観て、面白い、とか、つまらん、とか言い合ったりする、アットホームさと緊張感が両方入り混じっていて、これこそ学生作品を観る

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』映画映画した映画のパワー

タイトルは『バジュランギおじさんと、小さな迷子』だが、おじさんというよりお兄さんというかんじだ。インド人の青年バジュランギは、嘘が大嫌いで心のやさしい、ナチュラルポジティブな男だ。反面、ちょっとマヌケ、というかだいぶマヌケな性格である。猿の姿をしているという神様、ハヌマーンを崇拝していて、猿を見かけると条件反射的に拝んでしまう。勉強は得意でなく、体はごついが相撲は苦手だ。相手と組み合うと、体がこそばゆくなって、競技の途中で笑いが止まらなくなるからだ。昔のコメディにでてくる、ち

少女革命的な人

『ラストエンペラー』大人になれなかった皇帝

少年のころの宣統帝 溥儀が、クリーム色の布ごしに自分の顔や体の隅々までを宦官たちに触らせる、という遊びをしていた。宦官たちの体温を帯びた布に包まれて恍惚の表情を浮かべる少年皇帝。それを見て、イギリスから招聘された溥儀の家庭教師ジョンストンは、あからさまに嫌悪感を抱く。ジョンストンは、この、自慰的な、性的興奮を喚起する布遊びをやめさせ、溥儀に自転車を勧める。布を取り上げ、硬い金属でできた自転車を与えるジョンストンは、いうまでもなく溥儀の父となろうとしている。 清帝国最後の皇帝

イングリッシュ・ナショナル・バレエ『ジゼル』

イングリッシュ・ナショナル・バレエの『ジゼル』が斬新で面白いと聞いて、わたし、バレエ初心者なのですが、行ってきました。ロンドンまで15時間、優雅な空の旅でしたね^^ ……そんなわけはないのである。いち庶民が海外のバレエを観るのって、そこそこハードルが高い。しかし、庶民には映画がある。イングリッシュ・ナショナル・バレエによる『ジゼル』が、映画として先月末から全国各地で上映されていて、それを観に行ってきたのだ。 ナマのバレエの舞台を観たこともなく、知識もほとんどない。山岸凉子

維新派『十五少年探偵団 ドガジャガドンドン』はるか彼方のわたしへ

「アイ アム ア ボーイ」 「アイ アム ア ガール」 「バット フー アー ユー」 最も近くにいるわたし、から、最も遠くにいる、わたし、への、いつ届くともしれない呼びかけから、演劇ははじまる。 日本国内はもちろん、世界各国で活動を行い、主催の松本雄吉の死ののち、2017年に解散した劇団、維新派。その1987年の大阪城公園での公演を映画化した、『十五少年探偵団 ドガジャガドンドン』を観た。 油の切れたブリキのおもちゃのように、ぎこちない動作を、延々と繰り返し、脈絡の

『ボヘミアン・ラプソディ』天才と呪い

エンドロールがおわって、劇場に明かりが灯った瞬間に、拍手がおこった。誰もがこの映画の余韻に、1秒でもながく浸っていたかったのだと思う。いい年したおじさんやおばさんが、涙でくしゃくしゃになった顔を、少し恥ずかしそうにうつむけながら、ゆっくりと席をたつ。 いや、泣いていたのは彼らだけじゃない。私も泣いていた。妻も泣いていた。クイーンの歌を素敵だとは思っていても、当時の熱狂を知っていたわけではない。でも涙が止まらない。 劇場には、フレディ・マーキュリーがこの世を去った1991年

劇場版『フリクリ オルタナ』『フリクリ プログレ』

『新世紀エヴァンゲリオン』という90年代最大の話題作を生み出したアニメスタジオ・GAINAXにとって、エヴァ以降、どのような作品を作っていけばいいかというのは、結構たいへんな課題だっただろう。 『エヴァ』の監督の庵野秀明は、1998年の『彼氏彼女の事情』のあと、しばらくアニメ制作から遠ざかってしまった。最大の立役者が第一線から退いてしまったのだが、アニメファンの、GAINAXのSFアニメに対する期待値は天井知らずに上がっていた。私も『エヴァ』のイベントに通い、グッズを集めて

小津安二郎監督『東京物語』

シネ・ヌーヴォにて、小津安二郎監督の『東京物語』4K修復版を鑑賞。1953年の、モノクロ映画だが、そこは世界的評価を得た作品だけあって、はじめは古いな、という感じがするけど、それも一瞬、あっというまに作品の世界にひき込まれる。さすがだ。 よく言われることだが、小津のローポジション、ローアングルのショットは絶品だ。これ以上、削るものも、つけ足すものもない、完璧なバランス。『東京物語』の画面からは、幾何学的にかたちを配置する、例えて言うなら理系的な知性を感じる。パッションに任せ

【デザインの法則】『流れとかたち』を読む ③

【デザインの法則】『流れとかたち』を読む ②