【イチロー】メジャーでの活躍を総括する

メジャーリーグ、シアトル・マリナーズに所属するイチロー外野手(44)が、球団の特別アドバイザーに就任し、選手としては今季の残り試合に出場しないことを発表した。これは事実上の引退宣言だ。今季の成績不振から、こういう展開になることは予測できた。しかし、いざ現実のものとなると、どうにも実感がわかないものだ。寂しい、とか、残念だ、とかいう感情が、追いついてこない。ただ頭が混乱している。

しかし、もはや今季のイチローは崖っぷちに追い詰められていた。2011年、マリナーズでの最終年に、それまで毎年維持していた打率3割の記録が途切れたときから、イチローの打撃力はメジャリーグに所属する平均的な打者の能力を下回るようになった。近年もその落ち込みは深刻だ。反面、守備力についてはどうか。日本のマスコミのなかには「イチローの守備力はまだ健在」というような論調があるが、これは事実に反している

近年のイチローは守備にも衰えを隠せなかった

華麗な右翼守備で魅せたイチローではあるが、ここ数年はメジャーリーグの平均的な水準をぎりぎり維持していたにすぎない。UZRという指標がある。「リーグにおける同じ守備位置の平均的な選手が守る場合に比べて、守備でどれだけの失点を防いだか」、ざっくり言えば守備の総合的な貢献度を示すものである。イチローのUZRは、2015年:6.6、2016年:2.0と徐々に低下し、昨年、2017年には−0.9となった。マイナスというのは、つまりイチローを外野手として起用したために、チームは0.9点の損失を出しているということである。イチローは守備力も完全に衰えていた。守備固めとして積極的に使いたくなるようなレベルではない。イチローの最後のストロングポイントは、怪我をしない頑丈さで、主力選手が戦線離脱したときのサポートの役割を担うことだったが、そもそも、それは活きのいい若手がやればよいのだ。もはや万事休すである。

今後イチローに出場機会があるのか

今回の球団アドバイザー就任にさいしての契約では、現役の選手とともに練習に参加し、もし故障者が出た場合は選手としてプレーする可能性があるというが、イチローを戦力として見ているわけではない。たとえ練習はしていたとしても、実戦から長らく遠のいている40代半ばのベテラン選手が、試合勘を取り戻すことは容易ではない。「50歳まで現役」宣言をしていたイチローのメンツを守るための、配慮があるのかもしれない。ただし、マリナーズにとって、イチローを試合出場可能な状態でキープしておくことは、興行的な観点から見れば大変有益だ。じつは来年のマリナーズの開幕戦は、東京ドームで開催されることが決まっている。このゲーム、ないしは開幕前の日本のチームとのエキシビジョンマッチでイチローを出場させ、引退試合とするのではないか。日本のファンはイチローの最後の勇姿を見るために球場につめかけるだろう。

全盛期のイチローの本当の評価

1994年、史上稀に見る大ブレイクを果たして一気にトップスターに上がり詰めたイチローの姿に、当時小学生だった私は胸を踊らせた。イチローのプロ初ホームランが、当時の近鉄バファローズのエースで、ご存じメジャーリーグ日本人選手のパイオニア的存在の野茂英雄から打ったものであったことは、その後のイチローのメジャーでの成功を予見しているかのようだ。

イチローのメジャーでの活躍については、1年目から首位打者を獲得し、さらに2004年にシーズン最多安打記録を塗りかえる、262本の安打を放ったことから、その打撃力がピックアップされがちだが、少し留保が必要である。イチローはもちろんメジャー屈指の1番バッターであったが、必ずしもメジャーリーグの理想とする1番バッターとは言えなかった。安打は多いが、早打ちで四球が少ないために、全盛期においても出塁率はけして傑出したものではなかった。アメリカでは野球を統計学的に解析する、セイバーメトリクスが普及しており、一番打者としての適性において、打率よりも得点との相関関係が強い出塁率が重要視される。そのため、打率は高くても四球の少ないバッターはそれほど高い評価を得られない。打率はイチローには及ばなくても、出塁率でイチローに勝る選手たちが存在し、彼らはトップバッターとしてイチローより高い評価を受けていた。

類まれなる守備力

メジャーでのイチローの真価は、打撃でなく、守備・走塁において発揮されたのだと言えるのではないか。アメリカの野球専門誌『ベースボール・アメリカ』では、毎年、各球団の監督にアンケートを取り、分野別に優れていると思う選手を発表する、という企画を行っている。その「ベスト・ツールズ」投票において、2001年から2010年までの10年のあいだに、イチローは「最も肩の強い外野手」に9度、「最も守備力の高い外野手」に7度、「最も走塁の巧みな選手」に8度、選出されている。日本のメディアはそういった細かい評価を記事にしないので伝わりづらいが、「メジャーでナンバーワンの外野守備力と強肩、走塁技術を持ち、かつ多くのヒットを量産する。そして故障の少ない極めてタフな選手」というのが全盛期のイチローのポジティブな評価であり、「早打ちのために四球が少なく、そのため高い打率に比例した出塁率を残せていない」というのがネガティブな評価となるだろう。その最盛期にも「イチローは自分がヒットを打つために野球をやっているのであり、チームの得点のために出塁する姿勢に欠けている」という批判があったのだ。日本のプロ野球のレベルでは「打撃の神様」であったイチローであるが、世界最強の野球集団であるメジャーリーグのなかでは、あくまで「ヒットを打つ能力に長けた選手のひとり」であった。日本ではその存在はとかく神格化されがちだが、イチローへのリスペクトを示す意味でも、彼の残した成績を公正に評価すべきであると思う。

晩年の自己変革

じつは、イチローは、「四球を選ばない」という自身の欠点を改善させようと試みている。マリナーズからヤンキースへと移り、さらに2015年にはマイアミ・マーリンズに入団することになったイチロー。それまでの4年間、打率3割を下回る不本意な成績に終わっていた彼は、マーリンズに入った段階で明らかに、打撃スタイルを変えている。この年まで概ね4%~6%程度であった四球割合(BB%:四球÷打席数)が、2015年には7.1%、2016年には8.2%まで上昇しているのだ。若い頃のやり方が通用しなくなったことを受けて、メジャーリーグで推奨される、四球を選ぶスタイルに自身を近づけようとしたのである。自己改革をはじめた最初の年である2015年は振るわなかったが、翌年にその効果が現れ、打率.291、出塁率.354というなかなかの成績をマークした。打率は3割に肉薄し、出塁率に関しては、最盛期の数字に迫る高さだ。一流の成績を収めていたイチローが、自身の全盛期のスタイルをかなぐり捨てて、悪戦苦闘していた様子が伺われる。しかしながら、その試行錯誤も体力の衰えには抗えず、翌年からまた成績は下降をはじめる。この改革によって、イチローの選手寿命は数年伸びた。これだけでも充分な成果があったと言えるかもしれない。だが、もしイチローが全盛期の30歳前後で、四球を選ぶスタイルを身につけていたら、文句なしにメジャーリーグ最強のリードオフマンの称号を得ることができただろう。しかしそれは過度の望みというものか。

そして大谷翔平へ

ともあれ、メジャーリーグにおいて彼の残したヒットは、2018年5月時点で3089本。メジャー歴代21位にランクインしている。殿堂入りは当確である。「レーザービーム」として名高い強肩や、オールスターゲームでの史上初のランニングホームラン、また本塁で相手捕手のタッチをくぐり抜けた「忍者走塁」など、数々の華麗なプレーを見せてくれたイチローに、今はただ、賛辞を送りたい。そして、2018年は、野球ファンにとって、「大谷翔平がメジャーの舞台に登場し、イチローがその舞台から去った年」として記憶されることになるだろう。奇しくも平成最後の年に、このドラマのような光景が繰り広げられるのだ。


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