線でマンガを読む『タカノ綾×西島大介』

映画、小説などの作品には、その作品ごとの時間感覚、スピード感がある。例えば映画ではカットを短くつなげて素早い動作を演出したり、反対に、延々と同じカットを長まわしして、ゆったりとした時の流れを観客に感じさせたりという工夫によって、作品の「色」が決まる。マンガにおいて、映画のカット割りと相同の役割を果たすのは、コマ割りであるが、「線」そのものも時間感覚を決定する重要なファクターとなりうる。今回は、時間感覚において対照的な印象をもたらすふたりの作家、タカノ綾西島大介の線を紹介したい。

タカノ綾は、村上隆率いる「Kaikai Kiki」に所属する現代美術家であるが、SF小説やマンガに多大な影響を受けており、自身もマンガ作品をいくつか手がけている。そのうちのひとつ『ゼリゐ文明の書』は、現代より数百年後の世界を舞台としたSFファンタジー作品だ。人々は乗り物にもなれば建物や布団、衣服ともなり、口に含んで歯磨きもできる「ゼリイ生物」という不思議な物質とともに生活を送っている。

主人公はそのゼリイに囲まれて牧歌的な暮らしを送る「ミナカ」。彼女が出自不明の謎に満ちた「ナキ」と出会うことから、世界の破滅と再生をめぐる冒険が始まる。

純粋なマンガ畑の作家でない、ということもあるが、タカノの線は特殊だ。ミリペンのようなもので、じりじりと引かれた線は、細かくふるえ、ところどころで滲んでいる。線と線が、きれいにつながっていない。このたどたどしさがハンドメイドのいい味を出している。ラクガキのような素朴なかわいさもさることながら、大きく虚ろな目から、どことなく冷徹な気配が漂う。かわいくて、不気味。このアンバランスがタカノ綾の魅力だろう。

次に紹介するのは、西島大介。目下『月刊アクション』にて、『ディエンビエンフー TRUE END』というマンガを連載中だ。ときはベトナム戦争の真っただ中、米軍所属のカメラマンの少年と、南ベトナム解放戦線の最強の戦士にして「姫」と呼ばれる少女の出会いを描く物語である。西島の武器は、なんといっても疾風怒涛の流れるようなペン運びだ

西島は、強弱をつけた迫力のある主線を引く。加えて跳躍するキャラの身体は大胆に省略され、「目にも止まらない動き」を体感させられる。達筆の書家、あるいは雪舟の水墨画の力強さに通ずる効果線、砂塵や飛び散る瓦礫。これらが相乗されて、ジェットコースターのようなスピード感が演出されている。

タカノの『ゼリゐ文明の書』と西島の『ディエンビエンフー』。ふたつのマンガはともに冒険活劇なのであるが、両者の作品の時間感覚は、まったく対照的だ。

ゆっくりと、たどたどしい線で描かれたタカノのアクションシーンは、コンマ何秒かの一瞬を切り取り、その時間が永遠に止まってしまったかのような静謐さを感じさせる。対して、今にも紙の中から出てきそうなスピードで乱れ飛ぶ西島の線たち。タカノ綾と西島大介という、異なる資質を有する作家が、それぞれの個性を存分に発揮して描いた冒険物語。どちらも甲乙つけがたい魅力を感じさせる作品だ。

write by 鰯崎 友

※本コラム中の図版は著作権法第三十二条第一項によって認められた範囲での引用である。

『ゼリゐ文明の書』タカノ綾 駒草出版)

『ディエンビエンフー TRUE END』西島大介 双葉社 アクションコミックス)

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