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天使さがし

冬が訪れた。ラジオによると、爆弾低気圧という物騒な名前のものが停滞していて猛烈な風を吹かせ、そのせいで何体かの天使が地上に落下した、とのこと。

仕事を辞めてから4ヶ月が過ぎ、週に一度の職業安定所通いと、散発的に発生する採用面接を淡々とこなしてゆく日々が続いていた。

もっと熱意をもって職を探すべきと考えることもあったが、頭の中は絶えず鈍い倦怠に覆われていて、意欲は瞬く間に消えてゆくのだった。

風の強い日だった。

どうやらうちの近所にも一体落ちたらしい。そこまで聞いてラジオの電源を切り、お気に入りの帽子を頭にのせて、家を出た。

天使などなかなか見られるものではない。近くに落ちたなら探してみようという気になったのだ。

最近は職安かスーパーくらいしか外出の用事がなく、ましてや天使を探す、などという目的のために街を歩くのは初めてだ。気分転換になる。

普段歩き慣れた道の風景も少しばかり新鮮に見える。ひりひりと風が吹きつける街路を、歩く。

大通りから外れた、裏路地、なじみの客しか足を運ばないであろう、うらぶれた銭湯と民家のわずかな隙間に、天使は落ちていた。すべすべしたクリーム色の肌はホコリまみれで、落下時にどこかで擦ったのだろう、血が滲んでいた。

「こんにちは」と天使が声をかけてきた。

「大丈夫ですか?」

「ちょっと、油断しましたね。すごい風でした。まったく異常気象つづきで、困ったものです」

「隣に、銭湯という、人間が使う風呂があるのですが」

「ああ、いいですね。よごれたし。ずいぶん体も冷えてるし」

私と天使は、一緒に風呂に入って、体の汚れを落とした。番台さんが傷薬と絆創膏をかしてくれたので、応急処置をして、それから、温めた牛乳を飲んだ。銭湯ははじめてだそうだが、どうやら満足してくれたようで、ほっとした。

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