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改めてParsonsとデザイン留学を振り返る

昨年8月に渡米してきて、早いもので2ターム目の中盤に入ってきました。だいぶNY生活にも慣れてきたので、ここで改めてParsonsという学校、そしてデザイン留学について振り返りたいと思います。

Parsonsとはどんなデザインスクールなのか?

自分が現在いるDesign & Technologyという学部について話すので、他の学部はわかりませんが、自分の学部はその名の通り、今やほぼ全ての物事に関係する概念なので、学びたいこと、作りたいもの何でもできる環境です。デジタルプロダクトはもちろん、3Dプリンタや木工、溶接、ミシン、セラミクスなどを駆使してあらゆるアイデアを可視化することができます。

自分の大学院は特に自由度が高く、Major Studioという必修のクリティカルなリサーチ・制作の授業の他は、自分で授業を全て選択できます。1学年約70名と大所帯の学部で、平均年齢は27歳くらい。最年少は大学を飛び級で卒業した21歳の中国人女子がいます。男女比は男3:女7:トランスジェンダー数名と女子の方が多く、数十カ国の生徒が混在し、デザイン・工学以外の都市計画や建築、ビジネスなどの専攻出身でコーディング経験0の生徒も多いです。一方でIBMで働いていた自分のほか、スタンフォード卒でgoogleの言語学者だった女性、Calvin Kleinのファッションデザイナーとして10年働いてたなんてアメリカ人もいて、同じ空間でわいわいやってます。

秋学期、MIT Media Labから来たHarpreetのラボでの最終報告後の集合写真

生徒は各々メディアアート、グラフィック、ゲーム、スペキュラティブ、空間デザイン系の授業からUX、VR/AR、モーションキャプチャ、アルゴレイヴ、データビジュアライゼーション、機械学習等エンジニアリング系の授業まで多くの分野から授業を選択でき、他学部の授業も聴講可能です。去年、経産省から初めてデザインスクールに留学してきた橋本さんのいるTransdisciplinary Designのデザインリサーチ系の授業や、Strategic Design Managementのビジネス系の授業も取れます。アメリカでもUX界隈の仕事はホットで、将来の方向性としてはUX/UIデザイナーを目指す生徒が全体的には多い印象です。

自分の2018秋の授業はこんな感じ。初学期は必修が多く、1コマ約3時間です(緑=必修、紫=選択、青=語学)。選択でスペキュラティブデザインの授業と、秋休みにベルリンとパリでVRの実験をするという特別授業をとってました。スカスカじゃんと思うかもしれませんが、空き時間は基本的にリーディングや制作に追われてかなりタイムマネジメントが大変でした。

2019春はこんな感じ。今学期は学校でプログラミングチューターのバイトを週9h(時給$19.5)させてもらえることになり、財政面でも少し収入が入るようになったのと、こっちでサマーインターンシップを探している関係で就活にも時間を取れるようにしました。
デザイン教育にも興味があるので、Design+Eductationの授業では21世紀型のクリエイティブカリキュラムを作って、実際に高校生に試すというかなりチャレンジングな内容で、忙しくも非常に充実しています。

デザイン思考に基づく21世紀型の高校・Maker Academyの視察

来期はパーソンズでしか受講できないDunne&Rabyのラボや、人類学・哲学系の講義にも顔を出そうかと思っています。

Parsonsはあくまでも「デザイン」スクールである

これまでのnoteでも語ってきましたが、Parsonsではどの授業でもクリティカルな視座を重視しています。今の世界をあるがまま受け入れるのではなく、世界のささくれみたいなものを自分独自のレンズで見つけ、それをどのように世に問うていくのか、どう人間や世界をアップデートするのか、テクノロジーはそれを可視化するツールとして利用します。
あくまでも軸足はデザインに置き、人類学、地政学、哲学などの学際的なデザインリサーチをしっかりやります。そのため各タームの最終成果物は、制作+論文のセットが求められます。

普段制作を行うD&Tの根城・通称D12(めっちゃ綺麗な状態)

Parsonsのカリキュラムは大分しっかりしていてかつ野心的です。モノを作って終わり、ではなく、デザインはクリティカルリサーチである、というフィロソフィがあり、人間中心デザインを語りながらも、なんで人間が中心なんだっけ?と問いかけるクリティカリティがあります。経験上、理工系の研究・論文執筆のプロセスとよく似ています。

この辺りはかなり懐の深いデザインなので、学士上がりでとにかくモノ作りがしたいんだ〜とかUXやりたいんだ〜という若い生徒たちはしっくりこない面もあるようですが、私のようなおっさん世代にむしろ突き刺さるものがたくさんあります。

授業ではSlackが活用される。自分のプレゼン中、世界各国のクラスメイトから様々な角度で批評・議論がSlack上でフィードバックされる

デザイン留学はした方がいいのか?

あくまで個人の意見としては、コストもかかるしUX/UIデザイナーになりたいのならわざわざ留学しなくてもいいんじゃないか?と思います。noteでも毎日有用な記事が見れるし、デザイン思考も今まさに大企業でも各社が取り組み始め、過渡期を迎えています。アメリカ同様、日本は世界トップクラスにデザイン教育やリソースが整っており、自主的・戦略的に動けばデザインキャリアは日本でも積めると感じます。こっちのUXデザイナーとも話しても、日本のUXデザインや方法論が遅れているとは全く思いませんし、今まで日本で積み重ねてきたものがあるから今こちらで戦えてると思います。

一方で、次世代のUX/UIデザイナーの人材像を模索したい、デザインとテクノロジーを越境したい、世界どこにでも出せるプロダクトを作りたいなど、何かを越境していこうとするモチベーションがある人にはデザイン留学はおすすめです。上述した通り、自分の学部の授業は良くも悪くも「浅く広く」なので、パーソンズの授業ではUXのスペシャリストやソフトウェアエンジニアにはなれません。その代わり、自分に足りない領域や世界各国の知見を組み合わせて、今定義されてないデザイナーになることができます

2018年のEnd-Year Partyのカオスっぷり

21世紀のクリティカルなキャリアモデルを作ろう

21世紀は1つの会社、1つの場所、1つの国、1つの星(?)で一生働くような時代でもないので、私のように30過ぎて留学したりするのも普通になっていくと思うし、個人的にはどんどん物理的な制約を超えていきたい。加えて、常に知的好奇心を満たし、知らないことを学習するアカデミックの車輪と、それを世界がまだ知らない形で社会に還元する実践の車輪をバランスよく回していきたいと思っています。

とはいえアメリカの場合は高額な生活費・学費だったり、ビザが下りなかったり、まだまだそれが簡単にはいかないのも事実で、いくつか自分の中で、これからのキャリアモデル形成にあたって重要だと思うマイルストーンを以下に記しておくので、高校生とか若者の何らかの参考になったら幸いです。

・大学は日本の大学でいいので1本、専門分野をやりきる
 ・論文を書いて新しい物事を創造するという成功体験をしっかり作る
 ・英語もTOEFL/IELTSを上げられるだけ上げとく
・社会人は経験積んで酸いも甘いも噛み締めた上で留学しても全然遅くない
 ・資金面でも日本の年収水準ではできるだけ貯めるに越したことはない
 ・ポートフォリオ面でも役職を上げて他と差別化する経験で奨学金を狙う
 ・27くらいでは見えず、30過ぎて学校に戻ったからこそ見える景色がある
 ・日本で結婚を決めたなら日本企業からの赴任パスも考えよ
・留学後は拙い英語力をカバーする程の圧倒的な日本での経験で就労を狙う

クリティカルなデザイナーとは、すなわち

これこうしたら面白いんじゃないかな?とか、なんでこれはこうなってるんだ?というような少年のようなキラキラした眼差し。昔持っていたはずなのに、大人になると皆が忘れてしまうアレなのではないだろうか。

自分もまだ卒業後は何するのかとか、日本に帰るのかとか、全くノープランの状態ですが、パーソンズで思い出したその眼差しは一生忘れないようにしたいなと思います。

少しでもパーソンズや留学で得られることのイメージがお届けできたなら幸いです。noteを始めてから既に数名の方からコンタクト頂いておりますが、もしNYに来てパーソンズを見学したい!という方がいらっしゃいましたら、Twitterでお気軽にお声がけください。

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