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「問いを立てるデザイン」が出てきてるけど、

どんな「問い」を立てたらいいんでしょう・・?

なんて元も子もない書き出しをしてしまったこの文も「問い」だし、「なんで空は青いの?」という子供のはてなも、「どうしたら売上が上がるんだ?」という大人の課題も「問い」だ。もはや最近問い問い言いすぎてゲシュタルト崩壊起こし始めてきたレベル。問題解決から問題提起へ、と言われ始めてるけど、毎日の「晩御飯何にしよう?」の自問自答から、壮大な「死後の世界ってあるんだろうか?」の思考実験まで、世界は大小様々な問いで満ちていて、どんな問いが「良い」問いで、デザイナーとしてどんな問いを立てるべきなのだろうか?

「なんで空は青いの?」という問いも、「空の色がじゃあ青以外だったら世界はどう変わるだろう?」などの次の問いを発想することもできるし、レシピサイトも元を辿れば「今日の晩御飯何にしよう?」という素朴な問いが源泉にある。クリエイティブに飛躍する余地はどんな問いにでもあるような気がする。

そんな中、現在私はパーソンズ大学で制作を行う中で、ファシリテーターとしてではなく、あくまでもデザイナーとして、自分はよくこう言う風にデザインクエスチョンを作っているかな?という「問い方」のパターンみたいなものが見えてきたので、ここにまとめておきたい。
別にこれはMECEでもなければ、万物万事に応用が効くものでもない。逆に私は別のこの軸で考える、などのご意見があれば是非とも頂きたい。

1. 【現在】の問題を問い、【望ましい未来】を問う

生活の中での大半の問い・意思決定や、社会人のコンサル時代によく使っていたアプローチだ。下の自分の思考モデル図に沿って解説する。

1.1. 問題を発見するための問い(Question for Problem Finding)

How: どうしたら〜 (例: 売上を上げられるのか?)
What: 何が〜(例: 売上を左右する変数なのか?)
Why: なぜ〜(例: 我々はこの事業を続けるのか?ユーザーが離れるのか?)

という全ての基本の問い方で、解くべき課題やソリューションがわからないプロジェクトの初期に問う。問いをHow / What / Whyの3階層で深掘っていくことが重要で、目先のHowだけでなく、Whyの深淵の部分に真のスピリットやフィロソフィ、ユーザーのペインがあり、デザイナーとしてはWhyの奥底にある強い情熱を大切にしたい。ミミクリデザインの安斎さんもこの記事で「遠くに拡げる問い」という言葉で課題の深掘りを表現していた。

これで良い問いが作れたら、質的・量的情報/調査を繰り返してその答えを探る。言い忘れていたが、問いは立てるだけでは無価値で、自分の答えまで示さなければいけない、とパーソンズでは常に言われる。「デザイナー」と名乗るのだったらね、と。

1.2. 問題を解決するための問い(Question for Problem Solving)

How might we〜?: 我々はどうすれば〜できるだろう?
What if〜?: もし〜だったらどうだろう?

という問い方で、解くべき問題をクリエイティブに解決する方法を問う。ただHowで問うよりもデザインファームでよく使われるHow Might Weフォーマットの方が、問いがもう少し未来を向き、クリエイティブな発想がしやすくなる。この問い方も実際のプロジェクトで良い粒度で問うにはコツがいるのだが、これについてはANKR Design木浦さんのブログが詳しい。問題発見と問題解決、2段階で異なる問い方が必要なのだ、ということを改めて自分の中で再発見した。ここで柔らかい頭で〜したらどうだろう?とぽんぽん発想できる人が「アイデアマン」と言われる人の正体だ。

2. 【未来】の兆しを問い、【ありうる未来】を問う

スペキュラティブデザイン、クリティカルデザインと呼ばれている分野で、上記のアプローチより実験的な問いを放つアプローチだ。

2.1. シナリオを探索するための問い(Question for Scenario Exploring)

How might we〜?: 我々はどうすれば〜できるだろう?
What if〜?: もし〜だったらどうだろう?
Why in the future~?: なぜ未来では〜 (例: これが必要なのか?)

という問い方で、テクノロジーや社会制度が進んだ先の未来ではどうなるのかを仮説・想像を使って問う。1.2と問い方は似ているが、インプットとしてSTEEP(詳細はこちら参照)の軸で集めた未来のきざしなどを使い、現在の文脈や課題というよりは、起こり得るシナリオを問う。日本では例えば博報堂イノベーションデザインの岩嵜さんがこのサイトで兆しを集めている。ここアメリカではやはり技術ドリブンで未来を想像することも多く、SFをインスピレーションにすることも多い。

ポイントとしては、想像をベースにするからこそ、単発のお絵かきアイデアで終わらず、「なぜ未来ではこの技術が求められるのだろう?」「こんな制度が始まったら人の生活はどう変わるだろう?」といったWhyのレベルでのリサーチや深掘りが重要だ。このデザインリサーチ(≠ UXリサーチ)の重厚さが、作品にした時にスペキュラティブな世界観に説得力を持たせる。

2.2. ありうる未来に向けた問い(Question for Speculative Future)

What if 〜 in utopian futures?: もしユートピアな世界では〜?
What if 〜 in dystopian futures?: もしディストピアな世界では〜?

という問い方で、2.1.の延長で、振り切った究極のユートピア的な世界と究極のディストピア的な世界を問い、2つの極値を見据えることで現在の我々にとってちょうどよい着地点を探索する。例えばiPS細胞やCRISPRなど、先進的な技術が普及したら、それに伴い全く新しい社会制度が施行されたら、恩恵を受ける人がいる一方、困る人々も出てくるかもしれない。今のうちにあらゆる人にとってのユートピアは可能なのか、何が起きるとディストピア的になってしまうのかを技術・社会・環境・倫理など様々な観点で学際的に議論しておくことで、ちょうどよい未来の方向性を発見できるはずだ。これは未来のプロトタイピングで、リサーチをベースに、人々が想像できていない未来を可視化し、先行きの見えない未来の解像度を上げることができる。

3. 【過去】への問いから【代わりの未来】を問う

スペキュラティブデザインを提起したダン&レイビーはパーソンズに来てからスペキュラティブという言葉をあまり使わなくなっている、というのは以前Workship Magazineさんに取材を受けた時に述べたが、あれから日が経ち少しアップデートすると、彼らは現在Designed Realityという用語を使い、人類学者や哲学者と協業し、未来よりは過去を振り返り、確固とした人類の歴史を元にスペキュラティブよりはオルタナティブな、より手の届く未来のありようを模索している。それはいわば未来を考えるために、いったん過去を振り返る問い方のアプローチ。

3.1. 起源を探索するための問い(Question for Origin Exploring)

How in the past〜?: 我々は以前どのように〜?
What in the past〜?: 我々はもともと何を〜?
Why in the past~?: なぜ我々は昔から〜?

という問い方で、今の常識や固定観念、イデオロギーを過去の文脈からなぜ存在しているのかを問う。「そもそも〜?」系の問いはプロジェクトでも放たれることがあるが、方向性は似ている。ここではもっと人類・地球レベルの歴史を紐解いたり、当たり前の社会の常識を疑うような問いを立てる。「有史以来のコミュニケーションの本質って何なんだっけ?」「デザインにおいて昔からずっとユーザーが中心なのはなぜなのか?」「男女の性別を意識してデザインされ始めたのはいつからなのか?」など。

ビジネスでは競合調査、研究では先行事例分析などをするが、感覚的にはそういう感じで、過去を知るから、誰も登ったことのない山を見つけられる。デザインクエスチョンを立てるのにも、過去の流れや歴史を人類・社会規模で捉える必要がある。このレベルのリサーチはもはや個人では不可能で、有識者とのコラボレーションが必須になる。

3.2. 代わりの未来に向けた問い(Question for Alternative Future)

What if 〜 in accelerated futures?: もしこの概念が加速した世界では〜?
What if 〜 in lost futures?: もしこの概念が喪失した世界では〜?

という問い方で、3.1で特定した昔から今まで続く歴史や哲学、本質や常識が今よりも加速したら、失われたらどんな世界になるかを探索する。自分の感覚では、スペキュラティブな未来の発想法は、全く新しい未来を突然変異的にぽんと生み出すアプローチに対し、オルタナティブな未来の発想法は、過去をベースにゆるやかに変化していく、異なる世界線を考えるようなイメージだ。(うまく言語化できているか怪しいが)

- Grow (増加): その概念が加速・増加したら?
- Collapse (崩壊): その概念が喪失・減速したら?
- Discipline (平衡): その概念がそのままずっと続いたら?
- Transform (変形): その概念が別の概念に派生・変異したら?

我々の文化や歴史はifの連続だ。もしあの時あれがこうだったら、あの人がまだ生きていたら、この企業の天下が終わったら・・・。1つ何かがずれたら、全く違う未来が現れてくる。この問いはGCDTのフレームワークを使って、そんな異なる世界線をデザインの力で再現する試みなのかもしれない。

まとめ

今までの話をまとめると、下図の「問い方一覧」が出来上がった。

重要なパラメーターとしては、

1. 問いの指向性(過去-現在-未来)
2. 問いの深さ(How-What-Why)
3. 問いの種類(Society-Technology-Economy-Environment-Politics)
4. 問いの変容(Grow-Collapse-Discipline-Transform)

あたりを自由自在に操れると、あらゆるもののなぜ?を問いかける、子供のようなピュアでクリエイティブな問いかけをたくさん生み出せそうな気がする。それがパーソンズでこの1年学んできた、世界に対するクリティカルな態度のような気がする。そしてこれは一生使えるマインドセットだ。

ただ繰り返すが、家に帰るまでが遠足じゃないけれど、問いかけたら答えを出すまでがデザインなので、面白く問い、面白く解く。デザイナーはその両方が求められる大変な職業だが、そういう人に、私はなりたい。

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